標本作製
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/27 08:54 UTC 版)
昆虫を標本(昆虫標本)にする場合、普通は殺したものを形を整え、乾燥させて保存することが多い。昆虫の乾燥標本は、比較的色もよく残り、形も崩れないが、コナチャタテやカツオブシムシなど乾燥動植物質を餌とする昆虫に食われやすく、保存には注意が必要である。幼虫など体の柔らかいものは、アルコールに漬けるなど、液浸標本(えきしんひょうほん)として学術研究レベルの昆虫採集では液浸標本や顕微鏡観察用プレパラートの作製がプロの研究者や民間の研究家・愛好家によって行われている。 昆虫の乾燥標本は、比較的簡単に作れるが、見栄えのよいものを作るにはそれなりの技術があり、そのための器具も開発されている。 チョウ、ガなど、羽が大きくて模様のあるものは、羽を広げて形を整える。これを展翅(てんし)という。展翅のためには、展翅版(てんしばん)を使う。長方形の板の両端に短い柱を立て、そこに真ん中に隙間を空けて2枚の細い長方形の板を、底板から浮かせて乗せた物である。チョウの胴体に針を刺し、これを2枚の板の隙間に差し込む。羽を広げて、両側の板に形よく止め、乾燥させるわけである。この際、羽には手を触れないよう、針先で羽を広げ、羽の上にパラフィン紙でできた展翅テープをのせ、その紙を押さえることで形を決める。羽に針を刺すと傷が付くからである。ハチやハエ・アブでは見栄えをよくするために展翅して標本をつくることが行われるが、同定に必要な形質で見えにくい部分が多くなってしまうことがあるため学術研究用にはむしろ羽を上に立てた形で整形されることが多い。 昆虫標本は、針を刺して箱に収める。針は専用の昆虫針という物があり、太さも各種そろっている。大気の乾燥したヨーロッパでは伝統的に鋭い鋼鉄製の黒針が多く使われてきたが、湿潤で鉄の錆びやすい日本では鋭さでは鋼鉄製に劣るものの、錆のリスクがないステンレス製の針が使われている。針を刺す位置は、チョウ、ガ、ゴキブリなどを除くと正中線上の形質を破壊しないように胸の中程の右側寄りとするものが多い。針の刺せない小さな昆虫は、厚紙や厚手のケント紙を小さく三角形に切り出し、その先端に接着剤で止め、その台紙に針を通す。接着剤には日本では古くはアラビアゴムに類似したトラカントゴムが使われてきたが、今日では酢酸ビニルエマルジョン系の接着剤(木工ボンドなどの商品名で販売されているもの)を使うことが多い。ヨーロッパでは伝統的に膠が使われ、標本の精査用に台紙から取り外すときに湯で簡単に溶かすことができるため、近年になって日本でも使用者が増えてきている。小さな紙に採集年月日、採集地点、採集者などのデータを記入し、標本を通した針に刺してその下につける。このデータラベルが欠如した標本は学術的価値が失われてしまう。場合によっては名前等を記したラベルをさらに追加する。同定により判明した学名、和名、同定者、同定年月日などを記したラベルを同定ラベルと呼び、研究の進展や誤同定の訂正によって新たな同定ラベルが付されるときは、その標本の研究履歴を明らかにするため、古い同定ラベルをはずさずに、新たな同定ラベルを加えるのが研究上の約束事となっている。 標本を収める箱も、標本を食う虫が入らないよう、桐などの木製で密封できるきっちりとした物(ドイツ箱インロー箱など)が販売されているが、よい物は高価である。しかし、ヨーロッパと比較して高温多湿であるために虫害、カビ害の著しい日本では、この標本箱の吟味が欠かせない。(最も近年では日本の住宅事情も変化し、家屋の外壁が強化されているため、昔ほどには虫害やカビの害は起こらなくなってきている。)ヨーロッパの博物館などでは日本なら子供の玩具的な標本箱とみなされているボール紙製の標本箱が普通に使われていると言われている。 こうした針刺し乾燥標本は昆虫の標本の保存法としては簡易であるとともに、保存性も極めて高い。数百年前の標本ですら、十分今日の分類学研究に役立つほどである。このように昆虫は観賞用と学術研究用の両方の用途に堪える質の高い標本が針刺し乾燥標本という形で簡易に作製できることに特徴がある。 観賞用と学術用の標本が両立する動物は、他には軟体動物の貝殻標本や哺乳類や鳥類の剥製標本があるが、剥製は採集、標本作製双方に手間と費用が大幅にかかる。結局のところ、趣味と学術の両方にまたがる生物標本蒐集が裾野の広い趣味として成立するのは、昆虫以外では貝類採集ぐらいである。
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標本作製
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/12 07:32 UTC 版)
得られた組織をスライス・固定する。染色はヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を行うが、それに合わせて診断のために特殊染色を追加して行うこともある。腫瘍の範囲・大きさの確定のためには、スライスする部分を多くして検査を試みる。
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