公訴時効(こうそじこう)
公訴時効
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/29 16:26 UTC 版)
公訴時効(こうそじこう)とは、刑事手続上の概念で、犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると公訴が提起できなくなる制度である。
注釈
- ^ JD起訴、「ジョン・ドウ」は英語で名無・太郎のこと
- ^ 原田 (2004:196–197)。1948年4月ごろの刑事訴訟法改正協議会でGHQから出されたプロブレムシート第65問で「時効停止」が勧告されたため中断から停止に変ったとされている。
- ^ 原田 (2004:208)田宮裕博士の説として「公訴は被告人を危険におくものである。こういう状態におかれなかったという事実ないしはそれに対する一般の感覚を尊重するために設けられた一つの訴訟上のインスティテユーションではないか。ある個人が一定の期問訴追されていない(刑罰を加えられていないのではない)という事実状態を尊重して、国家がもはやはじめから訴追権そのものを発動しないという制度ではないか。実体法説のいう刑罰を、ここでは訴追というものに置き換えたもので、一般の時効制度と共通の思想によっている。これは訴訟法説ではあるが、証拠散逸説とは根本的に違う。そうすると、公訴時効は、訴追という事実に対する被告人の利益のための制度だということになる」[13]を紹介している。
- ^ 原田 (2004:177)でも、実体法説として、p184小野清一郎博士の「刑罰権の行使なくして一定の期間を経過せる事実上の状態を尊重し、爾後処罰を不可能ならしむるものである」[16]を公訴時効制度の存在理由とする説、p177富田由寿博士の「時の経過に因りて生じたる事実上の状態を尊重し此状態に反し〔犯罪必罰の〕一般原則を適用することを以て却て秩序維持の実際的目的に適合せざる所あるものと為したるものなり」[17]、p177豊島直道博士の「公訴の時効を設けたるは事実の勢力に重きを置きたるが為なりと信す。……然るに今犯罪を数年の後に至りて罰せん乎却て現在の秩序を躁躍するに止まり犯罪人及び世人に対しては何等の効験なかるべきなり。時効を設けたるは実に犯罪後に生じたる総ての事実と法律の正義と相抵触するに當り法律をして事実に屈従せしめ以て其調和を図るに外ならざるなり」[18]の各説を紹介している。なお、これらの説を新訴訟法説に含めるとすると、戦前から新訴訟法説が主張されていたことになり、一般的な認識に反することになる
- ^ 原田 (2004:208)坂口裕英博士の説として「公訴時効は、処罰されるわれわれの『防御権』を保障する刑事訴訟法上の制度」(坂口裕英「公訴の時効」鴨良弼編『法学演習講座⑪刑事訴訟法(重要問題と解説)』259頁(法学書院、1971))を紹介している
- ^ なお、特別法により刑が加重される場合(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(盗犯等防止法)など)は、加重された刑に応じて公訴時効期間も拡大されうる。
- ^ 2019年時点での各罪の法定刑に基づく分類である。
- ^ ガス漏出等致死罪、往来妨害致死罪、浄水汚染致死罪、水道汚染致死罪、浄水毒物混入致死罪、特別公務員職権濫用暴行陵虐致死罪、不同意堕胎致死罪、遺棄致死罪、保護責任者遺棄致死罪、逮捕監禁致死罪、建造物損壊致死罪など。
- ^ 準酩酊・準薬物・病気運転によるものは、10年。ただし無免許運転をしていた場合は20年。
- ^ 『「人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの」以外の罪』とは「人を死亡させなかった罪」と「人を死亡させた罪であって罰金以下の刑に当たるもの」に分解できる。ただ、後者については過失致死罪くらいしか見当たらない。
- ^ ガス漏出等致傷罪、往来妨害致傷罪、浄水汚染致傷罪、水道汚染致傷罪、浄水毒物混入致傷罪、特別公務員職権濫用暴行陵虐致傷罪、不同意堕胎致傷罪、遺棄致傷罪、保護責任者遺棄致傷罪、逮捕監禁致傷罪、建造物損壊致傷罪など。
- ^ 準酩酊・準薬物・病気運転によるものは、7年。ただし無免許運転をしていた場合は10年。
- ^ 無免許運転をしていた場合は、10年。
- ^ 自動車等の運転による場合で、事故に過失が有る場合。なお、発覚免脱罪(事例)や保護責任者遺棄致死傷罪(致死は20年、致傷は10年)、未必の故意による殺人(未遂)罪は別個に検討される。
- ^ 無免許運転をしていた場合は、7年。(なお未熟運転致死傷は、危険運転致死傷罪が適用される)
- ^ 再審無罪後に真犯人であると名乗り出た人物が時効2日前に殺人罪で起訴、公判中に自殺し、公訴棄却となった米谷事件のように時効が成立していなければ、再審無罪や無罪確定後に真犯人と思われる人物が立件された事例も一応は存在する。
- ^ 例:弘前大教授夫人殺し事件 (1949年発生、1964年時効、1971年真犯人出現、1977年再審無罪)、土田・日石・ピース缶爆弾事件等
- ^ 「長期10年以上の懲役又は禁錮にあたる罪」でまとめられていた。
出典
- ^ a b c d 越田崇夫「公訴時効の見直し」(PDF)『調査と情報』第679号、国立国会図書館調査及び立法考査局、2010年4月、1-12,巻頭1p、ISSN 13493019、NAID 40017068086、2020年11月1日閲覧。
- ^ a b 福永俊輔「フランスにおける公訴時効 : その歴史と現状 (法学部創設50周年記念号)」『西南学院大学法学論集』第50巻第2号、西南学院大学、2018年1月、135-179頁、ISSN 0286-3286、NAID 120006458771。
- ^ a b c d e f g h i “公訴時効制度に関する外国法制の概要” (PDF). 法務省. 2019年7月17日閲覧。
- ^ 法務省法制審議会「配布資料7 公訴時効制度に関する外国法制の概要」2009年11月16日
- ^ 法務省公訴時効勉強会 (2009年3月31日). “凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について~当面の検討結果の取りまとめ~”. 2022年2月23日閲覧。 - 6ページ「4 諸外国における公訴時効制度」参照
- ^ “第2次大戦中にイタリア人虐殺/元ナチス隊長裁判を開始/ドイツ”. しんぶん赤旗. (2002年5月12日)
- ^ a b アメリカ合衆国法典18編213章3281条
- ^ 法務省法制審議会「配布資料18 アメリカにおけるDNA型情報により被告人を特定して起訴する取扱いについて」2009年12月21日
- ^ 地下鉄サリン事件被害者の会 (2009年4月24日). “「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について-当面の検討結果のとりまとめ-についての意見」”. 2024年2月9日閲覧。「時と共に処罰感情が薄れるとか、平均年齢の延びから希薄化の度合いが低下しているとか、全くナンセンスな根拠です」
- ^ 安富潔 『刑事訴訟法講義』初版 168頁 「総合説は実体法説及び訴訟法説のそれぞれ疑問点がいずれも妥当する」
- ^ 『条解 刑事訴訟法』第3版増補版 弘文堂 452,453頁 「競合説(実体法説と訴訟法説を併せた説であるがこれに対しては両説に対する批判があてはまる)」
- ^ 白取祐司 『刑事訴訟法』 白取祐司 日本評論社 98頁 「両方の論拠を挙げるのが(3)競合説であるが、逆にいうと両説の難点を併有するともいえよう」
- ^ 田宮裕「日本の刑事訴追」200頁(有斐閣、1998、初出:研修488号(1989))
- ^ 「無実の者が捜査機関から一定の嫌疑をかけられ、一生訴追される危険から解放されないというのは、余りに酷であろう」(三島聡「「逆風」のなかの公訴時効-「見えにくい」利益の保護をめぐって」『法律時報』81 巻9号2009年8月)
- ^ 金子 章 (2011年3月). “公訴時効制度の存在理由についての一考察-公訴時効制度の見直しをめぐる近時の議論を契機として-”. 2024年2月9日閲覧。 P26 「なお、公訴時効制度の存在理由をめぐる議論においては、公訴時効制度は、一定の期間訴追されていないという事実状態を尊重する制度であると指摘する見解も見られるところである。これは、いわゆる新訴訟法説として位置づけられているものである。しかしながら、このような見解は、公訴時効制度の存在理由をめぐる従来の議論とは異質で次元を異にするものといわざるを得ない。すなわち、このような見解は、公訴時効制度が果たしている機能ないし効果を論じているにすぎないのであって、公訴時効制度の存在理由を論じているのではなく、したがって、理論的には明確に区別されるべきものなのである。以上のことからすると、このような見解に関して、公訴時効制度の存在理由をめぐる従来の議論と同一平面上に並べて論じるのは、いささか問題があるものといわざるを得ないように思われる。」
- ^ 小野清一郎「全訂刑事訴訟法講義」382頁(有斐閣、1935)
- ^ 富田由寿『刑事訴訟法要論』843-836頁(有斐閣、1913)
- ^ 豊島直道『修正刑事訴訟法新論』267-270頁(有斐閣、1910)
- ^ “「殺人の時効廃止は合憲」と最高裁 初適用の強盗殺人被告、無期懲役が確定へ”. 産経新聞. (2015年12月3日)
- ^ “警視庁、15年ぶり再捜査へ 東電女性社員殺害事件”. 日本経済新聞. 2023年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月25日閲覧。
- ^ 公訴時効が廃止された罪に係る事件に関する検察官への連絡及び送致の際の留意事項について
- ^ 「殺人:不明「100歳」を書類送検 26年前息子殺害容疑 山口県警。」『毎日新聞』毎日新聞社、2022年4月2日。
- ^ 最高裁「殺人の時効撤廃、さかのぼって適用できる」なぜ「合憲」と判断したのか? - 弁護士ドットコム(参考文章は、「2010年の改正前であれば、罪に問えないケース」全文。2023年1月20日閲覧)
- ^ 最高裁判所第三小法廷決定 1988年(昭和63年)2月29日 、昭和57年(あ)第1555号、『業務上過失致死、同傷害』。2014年8月17日閲覧
- ^ “最高裁決定昭和55年5月12日”. 裁判所. 2015年8月22日閲覧。
- ^ 脱税で43回起訴 元社長に有罪判決 前橋地裁=群馬 読売新聞 2007年7月12日
- ^ 再起訴19回で異例の引き延ばし、時効が成立 読売新聞 2010年2月27日
- ^ 『別冊ジュリスト刑事訴訟法判例百選』 第8版 井上正仁編 第218頁
- ^ 要旨;時効成立直前に被疑者が逮捕された未成年者殺人事件 (PDF)
- ^ HP手配写真が決め手で逮捕 来年12月時効の事件(共同通信/47NEWS 2008年8月15日)
- ^ 逮捕状請求書:放置されたまま時効成立 大阪・羽曳野署 毎日新聞 2014年9月26日
- ^ a b c 『東京新聞』2009年7月18日朝刊26面「動きだした時効 被害者支援と世論追い風 廃止は極端と日弁連が反発」
- ^ a b c 朝日新聞朝刊 2010年1月29日閲覧
- ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 配布資料23 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に係る要綱骨子(案)
- ^ 日本弁護士連合会 2009年6月11日 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する意見書
- ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会第5回会議議事録 2010/1/20, p38, 第3発言者
- 1 公訴時効とは
- 2 公訴時効の概要
- 3 日本法の公訴時効
- 4 脚注
公訴時効
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 09:40 UTC 版)
指名手配容疑の犯行時の公訴時効について、逮捕監禁致死罪は7年・爆発物取締罰則違反罪は15年である。 しかし、刑事訴訟法第254条2項で「共犯の1人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。」と規定されているため、公証人役場事務長逮捕監禁致死事件については共犯の中川智正の裁判が、島田裕巳宅爆弾事件については共犯の井上嘉浩の裁判が、それぞれ終了するまで公訴時効は停止し、2010年4月の刑事訴訟法改正で逮捕監禁致死罪の公訴時効が20年に延長となり、平田の指名手配容疑の公訴時効は停止・延長という形になっている。 なお、中川の裁判が2011年12月9日に、井上の裁判が2010年1月12日に確定したことを受けて、刑事訴訟法第254条2項の規定が適用されなくなったため公訴時効が進行することになった。以上の経緯により、平田の指名手配容疑は、公証人役場事務長拉致監禁致死事件の逮捕監禁致死罪は2031年に(実際に起訴した逮捕監禁罪では2016年)、島田裕巳宅爆弾事件の爆発物取締罰則違反罪は2024年10月に、公訴時効が成立することになっていた。
※この「公訴時効」の解説は、「平田信」の解説の一部です。
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公訴時効
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/26 23:18 UTC 版)
公訴時効は、公訴の提起(起訴)により停止するが(刑訴法254条1項)、その効力は公訴事実の同一性がある範囲で及ぶから(最高裁昭和56年7月14日決定・刑集35巻5号497頁)、観念的競合の関係に立つA事実について公訴が提起されることにより、B事実についても時効が停止する。
※この「公訴時効」の解説は、「観念的競合」の解説の一部です。
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公訴時効
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/22 18:20 UTC 版)
「高橋克也 (オウム真理教)」の記事における「公訴時効」の解説
1995年(平成7年)の地下鉄サリン事件の犯行時は殺人罪・殺人未遂罪の公訴時効は15年であったが、共犯者の公判が約16年行われていたため刑事訴訟法254条2項の規定により公訴時効は停止し、2010年(平成22年)4月に刑事訴訟法改正により殺人罪の公訴時効が廃止され、捜査が継続していた。これにより、高橋に対する地下鉄サリン事件の殺人罪での訴追が無期限で可能となった。
※この「公訴時効」の解説は、「高橋克也 (オウム真理教)」の解説の一部です。
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公訴時効
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 17:11 UTC 版)
公訴時効とは一定期間公訴が提起されなかった場合に公訴権が消滅すること。 日本では公訴時効完成までの期間は対象となる犯罪の法定刑が基準とされている(刑事訴訟法250条)。公訴時効が認められる根拠としては、事実状態の尊重や犯罪による社会的な影響の減少、事件から長期間が経過したことによる証拠の散逸とその結果冤罪を誘発する可能性などがある。しかし、21世紀初頭の段階で、DNA型鑑定など、「過去(数十年前)の事件における物的証拠から、確度の高い容疑者特定を可能とする技術」が開発されるようになり、DNA型鑑定が確立される以前の迷宮入りとなった事件の血痕などからもDNA型が判明するようになってきている。他方、DNA型鑑定によって、既に有罪になった者の冤罪が証明された事例も複数ある。 米国では、連邦法で死刑に当たる罪は、公訴時効にかからない。日本でも殺人事件などの重大犯罪において時効が存在することに対し、その是非を問う世論が起こり、2010年(平成22年)4月27日に公布・施行された改正刑事訴訟法により「人を死亡させた罪であつて死刑に当たる罪」については公訴時効が廃止され、その他の罪についても時効期間が改正された。ただ、DNA型万能主義的な議論には、DNA標本が犯罪と無関係に付着した可能性などからの批判も強い。なお、2010年の刑事訴訟法改正以前において時効完成後に自首した事例として、弘前大学教授夫人殺人事件(1949年発生・1971年自首)、警視庁機動隊庁舎ピース缶爆弾未遂事件(1969年発生・1979年&1982年自首)、足立区女性教師殺人事件(1978年発生・2004年自首)、生坂ダム殺人事件(1980年発生・2000年自首)などがある。 「公訴時効」を参照 ベトナム法では刑事責任追及の時効という(刑法27条・28条)。 犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する(刑事訴訟法第255条1項)。2006年、内閣官房長官・安倍晋三(当時)は、北朝鮮による日本人拉致に間接的に関与したとされる国内在住の中華料理店経営者の時効について、「拉致は現在進行中であり、時効は成立しない」との認識を表明している。 詳細は「公訴時効」を参照
※この「公訴時効」の解説は、「時効」の解説の一部です。
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