レプリコンモデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 12:37 UTC 版)
ジャコブ、ブレナー、Cuzinは大腸菌の染色体DNAの合成の調節を説明するためにレプリコン仮説を提唱した。そのモデルでは、イニシエーターと呼ばれる拡散性でトランスに作用する因子が、レプリケーターと呼ばれるシスエレメントと相互作用し、複製起点近傍での複製開始を促進するとされた。イニシエーターはレプリケーターと結合すると、(多くの場合ローダータンパク質の助けを借りて)複製ヘリカーゼをDNA上に置き、その後ヘリカーゼは他のレプリソームの構成要素のリクルートと完全な複製装置の組み立てを駆動する。レプリケーターは複製開始の位置を特定し、1つの複製起点または開始イベントによって複製される染色体領域がレプリコンとして定義される。 レプリコン仮説の基本的な特徴は、DNA複製の開始を制御する正の調節に依存していることであり、細菌やファージの系での多くの実験的観察を説明することができた。例えば、宿主細胞へ導入された複製起点を持たない染色体外DNAは複製されないことが説明された。さらに、大腸菌で特定のプラスミドが互いの遺伝を不安定化する不和合性は、同じ分子的な開始装置を競合するためであると合理的に説明された。対照的に、負の調節モデル(転写におけるオペレーターに類似したモデル)はこれらの知見を説明することができなかった。しかし、ジャコブ、ブレナー、Cuzinによるレプリコンモデルの提唱後の研究では、細菌や真核生物において正負双方の調節要素からなる複製制御の多くの階層が発見され、DNA複製を時間的・空間的に制限することの複雑さと重要性が浮き彫りとなった。 遺伝的実体としてのレプリケーターの概念は、原核生物のレプリケーター配列やイニシエータータンパク質の同定の際には非常に有用であり、また真核生物の場合でもある程度そうであったが、その構成と複雑性は生命のドメイン間で大きく異なっていた。細菌のゲノムには通常、コンセンサスDNA配列によって特定される単一のレプリケーターが存在し、それが染色体全体の複製を制御するが、出芽酵母を除くほとんどの真核生物のレプリケーターはDNA配列のレベルでは定義されておらず、局所的なDNA構造やクロマチンの指示の組み合わせによって規定されているようである。真核生物の染色体は細菌の染色体に比べてはるかに大きく、ゲノム全体を適切な時期に複製するためには、多くの複製起点から同時にDNA合成を開始する必要がある。さらに、特定の細胞周期での複製開始のために活性化される複製ヘリカーゼよりも多くのヘリカーゼがDNAへロードされている。文脈依存的なレプリケーターの定義や複製起点の選択が行われることは、真核生物の系におけるDNA複製プログラムは柔軟で緩やかなレプリコンモデルであることを示唆している。レプリケーターと複製起点は染色体上で物理的に離れていることもあるが、多くの場合は共局在したり、近接して配置されたりしている。そのため、この項目では双方のエレメントを「複製起点」として扱う。以上をまとめると、さまざまな生物での複製起点配列の発見と単離は、複製開始機構の理解に向けた重要な出来事であった。さらに、これらの成果は細菌、酵母、哺乳類細胞内で増殖可能なシャトルベクターの開発というバイオテクノロジーにおける重要な意味を持つものでもあった。
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