「ヨーガ」という言葉
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 14:42 UTC 版)
サンスクリット語のヨーガ (योग) は、「牛馬にくびきをつけて車につなぐ」という意味の動詞 根√yuj(ユジュ)から派生した名詞で、「結びつける」という意味もある。つまり語源的に見ると、牛馬を御するように心身を制御するということを示唆しており、「軛(くびき)」を意味する英語yokeと同根である。『リグ・ヴェーダ』では、精神統一や瞑想を意味する yoga の用法はほとんど見られない。バラモン階級を中心に伝承されたのは祭式(祭儀)や呪術を中心とする信仰であり、アーリア人が祭祀に行うことで目指したのは yoga-kṣema(労働と休息、獲得と所有)であり、一般的に言うと「幸せ」「快適」であったといえる。この場合の yoga は、幸せを獲得することであった。「牛馬にくびきをつけて車につなぐ」から派生し、乗り物、実施、適用、手段、方策、策略、魔術、合一、接触、結合、集中、努力、心の統一、瞑想、静慮(じょうりょ)という意味がある。最初は具体的にものを結び付けるという意味で使われ、次いで抽象的なものの結びつきについて使われるようになり、さらに心と対象との結びつきを意味するようになったと考えられる。 ヨーガが発展し体系化していった初期には、心を三昧に結び付けるというように「結合」「合一」を意味しており、『ヨーガ・スートラ』は「ヨーガとは心の作用のニローダである」(第1章2節)と定義している(ニローダは静止、制御の意)。森本達雄によると、それは、実践者がすすんで森林樹下の閑静な場所に座し、牛馬に軛をかけて奔放な動きをコントロールするように、自らの感覚器官を制御し、瞑想によって精神を集中する(結びつける)ことを通じて「(日常的な)心の作用を止滅する」ことを意味する。 日本では一般に「ヨガ」という名で知られているが、サンスクリットでは「यो」(ヨー)の字は常に長母音なので「ヨーガ」と発音される。漢訳は相合、成、摂、成就、精勤修行など、音訳は瑜伽(ゆが)。中国で瑜伽は瑜伽行唯識派の呼称でもあったため、区別のためか、修行法としてのヨーガを指す言葉としてはあまり使われていない。 古典ヨーガ(ラージャ・ヨーガ)やハタ・ヨーガという時のヨーガが指しているのは、行法でありその体系であった。古典ヨーガの経典『ヨーガ・スートラ』よりも新しいヨーガを伝える『バガヴァッド・ギーター』はヨーガの聖典でもあるが、ここでのヨーガの用法は『ヨーガ・スートラ』より広く、宗教実践の道や方法、修行全般をも意味すると解釈できる。仏教ではヨーガという言葉は、修行の正しいあり方といった意味でも使われていた。 ヨーガの行者は日本では一般にヨーギーまたはヨギと呼ばれるが、ヨーガ行者を指すサンスクリットの名詞語幹は男性名詞としてはヨーギン (योगिन्、瑜祇)、女性名詞としてはヨーギニー (योगिनी、瑜伽女) であり、ヨーギーはヨーギンの単数主格形(日本語にすると「一人の男性行者は」)に当たる。インド研究家の伊藤武によると、サンスクリット語のヨーギニーに「ヨーガをする女性」の意味はない。現代日本ではヨーガを行う女性を俗にヨギーニと呼ぶことがあるが、前述のようにサンスクリットでは「ヨー」は常に長母音なので、女性名詞はヨーギニー (yoginī) であってヨギーニではない。ヨギーニは英語読みに由来する発音だと説明する本もあるが、英語の発音は /'joʊgəni/ (ヨウギニ)または /'joʊgəniː/ (ヨウギニー)である。ヨギーニという日本固有の新しい呼称には、ヨーガに付いたオウム真理教のイメージを払拭しようというヨーガ関係者の意図があるようである。 修行者は男性であった。タントリズムの性的ヨーガにおいて、男性行者の性行為の相手をする女性がヨーギニーと呼ばれていた。南インドで、親が娘を神殿や神(デーヴァ)に嫁がせる宗教上の風習デーヴァダーシー(神の召使い)の対象となった女性もヨーギニーと呼ばれた。彼女たちは伝統舞踊を伝承する巫女であり、神聖娼婦、上位カーストのための娼婦であった(1988年まで合法であった)。
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