「えせ同和」の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 09:33 UTC 版)
「えせ同和」という言葉は、語の成り立ちの上で2つの解釈がありうる。 同和関係者ではないのに同和関係者を騙って利益を要求すること。 同和問題解決のためではないのに同和問題解決のためと騙って利益を要求すること。 「えせ」は「似非」、すなわち「まがいもの」の意味を持つ。また「同和」は被差別部落・被差別部落民の婉曲表現であると同時に「同胞融和」というスローガンの略語でもある。そのため、「同和」を被差別部落・被差別部落民の婉曲表現と解する場合には、定義1のような解釈が生じる。 しかし、地対協の1961年12月の意見具申では定義2を「えせ同和」の定義としている。すなわち、「えせ同和」の「同和」とは「同胞融和」というスローガンの略語であり、同胞融和の美名のもとに不当な利権あさりをおこなうのが「えせ同和」にあたる、という定義である。この定義によると、正真正銘の被差別部落民が部落解放のためと称しておこなった行為でも、真の目的が私利私欲の追求にあるなら「えせ同和」となる。 飛鳥会事件に際して、部落解放同盟が小西邦彦の行為を「同盟支部長という肩書きを悪用した『エセ同和行為』」、「もし同和をかたり、個人が利益を得ているとすれば、部落解放同盟末端支部幹部といえどもエセ同和行為であることに間違いなく」と批判したのは定義2の例である。 総務庁は「民間運動団体の指導者の多くは、差別を口実にわずかな金品でももらうことは運動の趣旨に反するので、そのような者がいれば、団体の一員であっても、即刻警察に通報してほしいとの厳しい姿勢を持っている」としている。実例としては部落解放同盟京都府連合会が解放センター建設資金のカンパを、みずから糾弾した企業から徴収して問題となったり、また部落解放同盟東京都連合会の幹部数人は、「地名総鑑」糾弾闘争を通じて「地名総鑑」購入企業の顧問や相談役に就任し、問題となったりしたことが挙げられる。。示現舎発行の「同和と在日」によると、部落解放同盟から糾弾を受けた企業は年間16万円から23万円の会費を徴収されて「同和・人権問題企業連絡会」(同企連)への加入を要求され、部落解放同盟の研究集会や糾弾会(糾弾側)への参加、「人権擁護法」制定運動への協力、部落解放同盟員の講師による有料の「人権啓発講演」の開催、同和研修の教材の購入を求められる。大阪同企連の場合、企業144社から年間2800万円程度を集めている。高知では、事業の設計単価を部落解放同盟が行政から事前に聞いておき、特定の事業者にその情報を漏らし、その業者が落札すると落札した単価の3パーセントが部落解放同盟に入るという問題が起きていた。 この様な行為を人権連は部落解放同盟そのものを「えせ同和行為の本家」と批判している。徳島県川島町では、町議の日出和男(無所属)が「解同はえせ同和行為」と議会で批判し、一度は差別発言として議会から1998年に除名処分を受けたが、1999年に徳島地裁で除名取り消しの判決を勝ち取ったこともある。 「七項目の確認事項」、「篠山町連続差別落書き事件」、「北九州土地転がし事件」、「飛鳥会事件」、「八尾市入札妨害恐喝事件」、「奈良市部落解放同盟員給与不正受給事件」、および「立花町連続差別ハガキ事件」も参照 また、自民党系の全日本同和会でも1980年代にえせ同和行為による逮捕者が続出し、警察の追及を逃れるため、組織は分裂し、自由同和会として現在に至っている。 部落解放同盟や同和会が同和予算を行政から獲得するため、同特法のいう「歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域」(被差別部落)が存在しない自治体にまで無理やり同和地区を作った事例もある(このような地区は「えせ同和地区」と呼ばれる)。1976年7月には、もともと被差別部落が存在しない宮崎県児湯郡都農町に同和会が結成され、これに伴って同和会が都農町の一部を同和地区指定させ、支部助成金など同和予算495万円の計上を約束させた。1976年9月の町議会は同和予算を全額削除したが、宮崎県同和対策室の圧力で最終的に1地区(9世帯、30人)が同和地区として認定させられた。こうして宮崎県では9市9町に36ヶ所の同和地区が指定されることとなったが、全解連書記長の村尻勝信によると、その3分の1は「えせ同和地区」であるという。大分県でも同和予算目当ての「でっち上げ同和地区」「ニセ同和地区」の存在が報告されている。1977年の県南事件では、同対法の期限切れを目前に控え、大分県南の各市町村で、同和予算を要求した解同支部長が被差別部落と無関係であることが発覚したり、要求提出の前日に支部長が他市町から転入手続をしたり(弥生町や緒方町の事例)といった行為が問題となった。 このように、どの団体が「えせ同和団体」にあたるかは境界線が曖昧であり、正真正銘の被差別部落の当事者団体でも「えせ同和行為」をおこなう場合があるため、法務省では「えせ同和行為排除の対象となるのは、当該「行為そのもの」です。団体ではありません。また、えせ同和行為をする者がどのような団体に所属するかも問いません」と表明している。
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