新世界より (小説)
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世界観・用語解説
物語の舞台は、現代(21世紀初頭)から1000年後の日本。その中でも「神栖66町」が主な舞台となる。作中の人類は「呪力」と呼ばれる超能力を身に着けている。
歴史
呪力、すなわちサイコキネシス(PK)の存在は、西暦2011年にアゼルバイジャンで行われた実験によって初めて科学的に立証された。それ以降、世界各地でPKを持つ能力者が確認されるようになり、最終的には世界人口の0.3%に達した。その当時のPKはさほど強力なものではなかったが、PKを用いた犯罪が頻発したことからPK能力者に対する弾圧が開始され、それに対抗するかの如く、より強力なPKを操る能力者が出現するようになる。
能力者と非能力者間の際限のない抗争は、結果として旧来の社会体制の崩壊、現代文明の終焉をもたらした。それにより、世界人口は最盛期の2%以下に激減したと推定される。その後、「暗黒時代」と呼ばれた、約500年間に渡る争乱期が到来した。
「暗黒時代」において、東北アジアの人間社会は4つの集団に分化した。それらはPKの君主を戴く奴隷王朝、非能力者の狩猟民、PKを持ち家族単位で移動する略奪者、先史文明の生き残りの科学者の4つである。略奪者は仲間割れによって早期に自滅し、奴隷王朝は600年以上存続したが世代間の抗争によって血筋が途絶え、暗黒時代は終焉する。その後狩猟民と奴隷王朝の民との間で戦争が起き、膨大な死者を出した。これを収拾するためにそれまで歴史の傍観者に徹してきた科学者たちが乗り出し、戦乱期を終わらせ、現在の社会体制が生み出される。
これらの歴史は、情報操作によって一部の人間以外には知らされていない。
社会
呪力を持つ人間同士が、社会生活を営むに当たって最も問題となったのは、呪力による対人攻撃の抑止である。PK能力には理論上、力の上限がないとされ、たった1人の能力者が無限の力を振るう事によって、社会や統治の枠組みが簡単に崩壊してしまう事を意味していた。
事実、先史文明や暗黒時代における略奪者の集団などは、野放図な呪力の使用によって破滅を迎えているため、「いかに人間の持つ攻撃性や攻撃的な呪力の使用を抑止するか」という点に重点を置いて社会は構築されている。これは、幼年期からのマインドコントロールに等しい思想教育や強力な情報統制、さらには記憶操作や不適格者の早期排除、後述の「攻撃抑制」や「愧死機構」といった仕組みの人間への組み込みといった、多重の手段となって現れている。
一見、のどかで牧歌的に見える世界も、その実態は、安全のためには手段を選ばぬ様々な抑制によって、辛うじて平和が保たれている状態にある。ただし、そういった事実の公知化自体が、人々には多大なストレスとなり社会の不安定化をもたらすため、一般には秘匿情報とされ厳重に管理されている。真実を知るのは倫理委員会議長など、街の中でも一握りの重要人物のみである。
地理
作中の日本列島の人口は5 - 6万人であり、神栖66町を含む9つの町が存在する。残り8つの町の名は「夕張新生町」(北海道)、「白石71町」(東北)、「胎内84町」(北陸)、「小海95町」(中部)、「精華59町」(近畿)、「石見銀山町」(中国)、「四万十町」(四国)、「西海77町」(九州)。科学文明が衰退しているため、町同士の交流はほとんどない。また、海外との交渉も数百年行われていない。
- 神栖66町(かみすろくじゅうろくちょう)
- 現実世界の茨城県神栖市の辺りに位置する町。物語の主な舞台となる。
- 人口はおよそ3000人強[4]。周囲50キロメートルほどの地域に点在する七つの郷から構成される。郷の名はそれぞれ「茅輪の郷(ちのわ - )」、「松風の郷(まつかぜ - )」、「白砂の郷(しらすな - )」、「水車の郷(みずぐるま - )」、「見晴の郷(みはらし - )」、「黄金の郷(こがね - )」、「櫟林の郷(くぬぎばやし - )」。利根川から引かれた数十の水路が、町の中を縦横無尽に張り巡らされている。
- 貨幣は存在せず、助け合いと無償の奉仕を基盤とした社会が築かれている。町の中と外は、外から悪いものが侵入するのを防ぐ「八丁標(はっちょうじめ)」という注連縄によって隔てられている。子供たちは、決して八丁標の外に出てはならないと言いつけられている。
- 和貴園(わきえん)
- 神栖66町に3つある小学校のひとつ。早季・覚・瞬・真理亜の母校。6歳で入学し、卒業の時期は個々人で異なる。町にある他の2つの小学校は「友愛園(ゆうあいえん)」と「徳育園(とくいくえん)」。
- 全人学級(ぜんじんがっきゅう)
- 茅輪の郷にある上級学校。呪力の発現を示す「祝霊」が訪れた者が進学する。呪力のトレーニングが行われる。
- 妙法農場(みょうほうのうじょう)
- 黄金の郷にある農場。呪力で改造された動植物が育てられている。
- 清浄寺(しょうじょうじ)
- 八丁標の外、利根川上流にある寺。呪力が発現した子供は、ここで護摩を焚く儀式を経て、呪力を起動する鍵となる真言(マントラ)を授けられる。
- 東京
- 人間やバケネズミすら近寄らない不毛の大地。かつては日本の首都だったが、1000年前の戦争によって破壊された。その後の長い年月で建造物が溶け、地上は太古のカルスト台地のように変貌し、地下空間は熱と湿気に覆われて不気味な生物が跋扈する地獄と化している。
呪力
- 呪力(じゅりょく)
- この世界の人間が備えているPK(念動力、サイコキネシス)。脳内でイメージを描くことによってそれを具現化し、様々なことに応用することができる。12歳頃に「祝霊(しゅくれい)」と呼ばれるポルターガイスト現象が起こるのを機に発現する。
- 呪力を行使するには目標を視認しイメージする必要がある。神栖66町では目を大事にするよう教育しており、視力に少しでも不安を感じた場合には予測不可能な危険を伴うため、呪力の行使を禁じている。また一人の人間が呪力を行使している対象に、他の人間が行使して割り込むと虹のような干渉模様が現れ、空間が歪み極めて危険な事態となるため、これも固く禁じている。
- 使えるエネルギーには事実上上限が無く、強力な呪力行使は核兵器の威力すらも上回る。ただし呪力行使には集中力が必要とされ、呪力を行使する人間の体力・精神力には限りがある。
- 攻撃に特化した一方、防御では弓矢や投石をせき止めるなど応用できるものの、呪力による直接攻撃を防ぐことは鏑木肆星や日野光風クラスの達人であってもできない。また視認できない攻撃(火縄銃、死角からの攻撃など)・罠・毒ガス・薬物・生物兵器などにも対処が困難であり不利となる。そのため、同種間攻撃などが少しでも起こった場合には社会全体の崩壊も起きかねず、それを避けるべく「攻撃抑制」と「愧死機構」が呪力を持つ人間の遺伝子には組み込まれている。実際に先史文明が滅びた歴史が語られているが、その原因は対象を視認しただけで破壊できるという圧倒的に先制攻撃する側が有利なため、いつ殺されるかわからないという疑心暗鬼に陥ったため滅びたとされている。
- 呪力の原理は、恒星の莫大なエネルギーを利用しているというものと、人間の脳を介して量子力学的な現象をコントロールしているという、二つの説が提唱されている。
- 攻撃抑制(こうげきよくせい)
- 強力な呪力を持った人間同士の争いを避けるため、あらかじめ人間の遺伝子に組み込まれている機構。
- オオカミなどの野生動物では、攻撃能力が高い分、争いが起きた時の群れ内での被害が大きくなるため、攻撃的な衝動を抑制する機構がある。これを基にして開発された仕組みで、人間の攻撃的な衝動を抑える。
- 愧死機構(きしきこう)
- 攻撃抑制と同じく、あらかじめ人間の遺伝子に組み込まれている機構。同種である人間を攻撃しようとした際に作用する。
- 対人攻撃を脳が認識すると、無意識のうちに呪力が発動し、眩暈・動悸などの警告発作が起こる。それでもなお警告を無視し攻撃を続行した場合には、強直の発作により死に至る。これは教育などの施しによって、さらに作用を付加・強化することができる。
- 計画当初、ボノボに肖った過度な性的接触や仲間内での触れ合い、徹底とした教育、あるいは薬物を使った洗脳で人間の殺戮衝動を押さえ込もうとしていたが、それだけでは十年以内に破綻することが算出され、最後の手段として人間へと組み込まれた。
- 悪鬼(あっき)
- 神栖66町に伝わる伝説の怪物。八丁標の外に出ると悪鬼に襲われると言われている。
- 実際は「ラーマン・クロギウス症候群」、別名「『鶏小屋の狐(フォックス・イン・ザ・ヘンハウス)』症候群」に該当する精神病質者を指す言葉。先天的に攻撃抑制および愧死機構が機能しておらず、呪力で同種である人間への攻撃を躊躇なく行い、殺戮の限りを尽くし続ける。混沌型と呼ばれるラーマン型と、秩序型と呼ばれるクロギウス型に大別される。なお、「ラーマン」および「クロギウス」は、それぞれ過去に数万人を殺した悪鬼の少年の名前が由来。
- 業魔(ごうま)
- 悪鬼と同じく、神栖66町に伝わる伝説の怪物。
- 実際は「橋本・アッペルバウム症候群」の重篤期患者を指す言葉。パニック障害に類似した事象が脳内で起こって呪力の制御が不可能となり、無意識に大量の呪力を漏出させ、周囲の生物・無生物を異形化させてしまう。治療法はない。
- サイコ・バスター
- 現代文明の末期に、対PK能力者用に開発された生物兵器。悪鬼に対抗しうる唯一の手段とされている。
- 正式名称はSTBA(強毒性炭疽菌)。遺伝子操作によって毒性や寿命の向上が行われた炭疽菌であり、大量破壊兵器に分類されるが、放たれてから数年で弱毒化するため、他の大量破壊兵器と比較すると戦後処理は容易。バイオハザードマークを象った十字架型の容器に封入されており、PK能力者の足元に叩きつけて使用される。米国製であり、米軍を通じて日本にも持ち込まれていた。
生物
- バケネズミ
- 毛の無いネズミのような外見をした哺乳類で、ハダカデバネズミから進化したとされる生物。呪力を持つ人間を神と崇め、絶対的に服従している。体長は大きいもので1メートルにも達し、二本の脚で直立すれば人間の子供とほとんど変わらない身長になる。
- 社会性昆虫のように真社会性を持ち、女王を中心とした巨大なコロニーを形成している。一つのコロニー内には小規模なものでも数百匹、大規模なものになると一万匹に及ぶバケネズミを抱えている。人間並みの知能を持ち、独自の言語(通称バケネズミ語)で意思疎通する。指揮官や女王など、上位の個体は人間の言語(作中では日本語)を使い会話することができる。
- 人間に忠誠を誓ったコロニーは、人間側に貢物と役務を提供する代わりに生存を保障され、そういったコロニーには漢字の名前が与えられる(通常は虫偏の着いたもの。『木蠹蛾』、『塩屋虻』、『大雀蜂』など)。また、人間から正式な漢字名を授かったバケネズミは、突出した能力を認められた者が多く、全てのバケネズミの中でも十数匹しかいない。
- 物語の最終盤において、バケネズミはハダカデバネズミの進化種ではなく、呪力をもたない非能力者の存在を恐れた能力者が、非能力者の遺伝子を操作して作り上げた元人間であることが明らかになる。バケネズミの醜い外見には、能力者がバケネズミを同類として認識することを阻害し、結果としてバケネズミの殺害に対して愧死機構が発動しないための役割がある。
- ミノシロ
- ミノウミウシが進化したと言われる生物。複数の触手と歩行肢を持つ芋虫のような姿[注 3] をしており、複数の亜種が存在する。神聖な動物とされているが、バケネズミは食料としている。早季の調査によれば、ここ数百年の間に現れたらしい。
- ミノシロモドキ
- 声 - 玉川砂記子
- ミノシロに擬態している、国立国会図書館つくば館の自律進化型・自走式アーカイブ。正式名称は「Panasonic 自走型アーカイブ・自律進化バージョンSE-778HΛ」。2129年までに出版された約4000万冊の本をデータ化して記録している。微生物や小動物の血液などを栄養源とする他、発光による催眠術などの自衛手段も持っている。
- 風船犬(ふうせんいぬ)
- 怒らせると体が膨れていき、最後には破裂する生物。その正体は土蜘蛛コロニーが兵器として生み出したミュータント。なお、他にも数種類のミュータントが存在している。
- ネコダマシ(猫騙し) / 不浄猫(ふじょうねこ)
- 小学校を卒業できない子供を連れ去ると言われる、猫の化け物。子供達の噂だけの存在だと思われていたが実在している。その正体は呪力による変異を利用した品種改良で強化された猫で、何らかの理由で「不要」と判断された人間を密かに始末するための生物兵器。大型ネコ科動物のような巨体にグロテスクな容姿を持つ。呪力によって物理法則を無視した動きを取ることが可能で、気配を絶ちつつ如何なる場所でも奇襲攻撃を仕掛けることができる。ただし、単純な戦闘力では呪力を全開にした人間には敵わない。
- フクロウシ(袋牛)
- 牛に寄生する袋状の生物。牛の仲間が進化したもの。
- カヤノスヅクリ(茅の巣作り)
- 鳥のようなくちばしを持つ蛇。鳥の巣を模倣したものを造り、そこに偽卵を生みつけ、托卵する鳥の卵を奪う。
- トラバサミ(虎挟み)
- 大型・肉食性のカニ。ガザミが進化したもの。
この他、東京の地下には地下生活に適応した何種類もの生物が生息している。
注釈
出典
- ^ “渡辺 早季”. www.tv-asahi.co.jp. テレビ朝日公式サイト. 2019年8月5日閲覧。
- ^ “渡辺 早季(14歳)”. www.tv-asahi.co.jp. テレビ朝日公式サイト. 2019年8月5日閲覧。
- ^ エンドクレジットでは役名が表記されていない。
- ^ “新世界より 第一話|バンダイチャンネル”. バンダイチャンネル. 2019年8月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 『オトナアニメ Vol.26』洋泉社、2012年11月10日発行、92頁、ISBN 978-4-8003-0029-4
- ^ “TVDATA”. www.tv-asahi.co.jp. テレビ朝日公式サイト. 2019年8月5日閲覧。
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