鷹狩 鷹狩の概要

鷹狩

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/23 18:14 UTC 版)

カタールで鷹狩に使われるセーカーハヤブサ

こうして鷹を扱う人間は、鷹匠たかじょうと呼ばれる。日本語の古語においては鳥狩とがり、鷹田、放鷹、鷹野などとも称する。また、鷹を訓練する場所は鷹場たかばと称される。

概説

『De arte venandi cum avibus』に描かれた2人の鷹匠

鷹狩はアジアの遊牧民の間で発達した狩猟法である[1]

紀元前3000年から紀元前2000年ごろの中央アジアないしモンゴル高原が起源と考えられているが、発祥地と年代について定説はない[2]アッシリアサルゴン2世の時代(紀元前722-705)になると明らかな証拠が存在する[3][4]。中国ではの時代、紀元前680年ごろに鷹狩りの存在が確認できる[5]。ヨーロッパには紀元400年ごろ、フン族アラン人の侵入の際に持ち込まれたと考えられている[6]神聖ローマ帝国フリードリヒ2世(1194-1250)は鷹狩りに深い造詣を持ち、さらに十字軍遠征の際に中東の鷹狩りについて書かれた解説書をラテン語に翻訳している[7]。フリードリヒ2世は『De arte venandi cum avibus(鳥類を利用した狩猟技術)』という鷹狩りの研究書を書いており、この書は鷹狩りについて包括的にまとめた初めての書であるだけでなく、鳥類学動物学の発展にも大きく寄与している[8]

歴史的に鷹狩りは中世貴族の娯楽または権威の象徴であり、時間、金銭、空間などが必要とされることから貴族階級や富裕層に制限されてきた。鷹は黄金よりも高額で取引されることもあり、豪胆公フィリップの息子ジャンオスマン帝国に囚われたときには、バヤズィト1世は身代金として20万枚の金貨の申し出を断り、12頭のシロハヤブサを要求している[5]

近代以前は、東は日本、西はアイルランドモロッコ、北はモンゴルスカンディナヴィア、南はインドに至るユーラシア/北アフリカ全域で各地方独特の鷹狩文化が開花した。現代では、かつて盛行したインドイランで絶滅しかけている反面、南北アメリカおよび南アフリカでも行われている。また、鷹狩の技術は猛禽類の繁殖放鳥や傷病鳥リハビリテーションに応用されている[9]2010年11月16日に、UAE、モンゴル、チェコ等11カ国の鷹狩がユネスコ無形文化遺産の「代表一覧表」に記載された(2012年にさらに2か国が追加記載)。国際組織としてInternational Association for Falconry and Conservation of Birds of Preyが結成されている。20世紀に入ると、近代獣医学の知見と送信機の発明により、鷹の寿命は延び、獲物を追い求める鷹を鷹匠が見失うことも少なくなってきている。

狩り以外の活用

空港周辺でのバードストライク防止のため鷹狩が鳥を追い払うのに用いられている[10]

ベルギーでは、特産品のムール貝を砂抜きするための大規模な洗浄施設において、貝がカモメに食べられたり糞で汚されたりしないよう、鷹匠を雇って警備に当たらせている。また、日本では、海苔の養殖場等で害鳥を追い払う仕事を行っている[11]

イギリス海軍デヴォンポート海軍基地などで海鳥を追い払うため、民間人の鷹匠に業務委託している。また、全英オープンでは海沿いのコースで開催されることが多いため飲食スペースや屋台の上を常にカモメが飛んでいるため対策としてワシ、鷹、フクロウを使った警備が行われており、2015年にセント・アンドリュース オールドコースで行われた大会から2022年まで4回警備に関わっている。さらに2015年からスコットランドで行われる大会では毎大会携わっている[12][13]

第二次世界大戦においては、イギリスの情報機関 MI5で、伝書鳩を襲うイギリス沿岸部に生息する猛禽を駆除するために5人規模の鷹狩チームを結成した。また、ドイツ側で伝書鳩を襲う鷹狩が存在したという噂を信じている人間もいるが証拠は見つかっていない[14]


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 鷹狩りと御旅所”. 徳島県立文書館. 2019年10月31日閲覧。
  2. ^ Soma 2012a, pp. 168–170
  3. ^ Egerton 2003, p. 40
  4. ^ Soma 2012a, p. 168
  5. ^ a b c d Shawn E. Carroll. “Ancient & Medieval Falconry: Origins & Functions in Medieval England”. Richard III Society. 2015年2月18日閲覧。
  6. ^ Egerton 2003, pp. 40–41
  7. ^ Egerton 2003, p. 41
  8. ^ Ferber, Stanley (1979), Islam and The Medieval West, SUNY Press, p. 57, ISBN 9780873958028, https://books.google.co.jp/books?id=rcrj9bWyie0C&pg=PA57 
  9. ^ A Falconer with His Falcon near Al-Ain”. World Digital Library (1965年). 2013年7月7日閲覧。
  10. ^ INC, SANKEI DIGITAL. “空港で勤務する鷹、その仕事内容は…”. 産経フォト. 2023年1月9日閲覧。
  11. ^ 令和2年6月号伝統的な仕事誇りに活躍 鷹匠(たかじょう)田中和博さん(48歳)”. www.city.neyagawa.osaka.jp. 2023年1月9日閲覧。
  12. ^ ゴルフの聖地にスゴ腕“警備員”がいた 飲食スペースのカモメ対策要員はワシ、タカ、フクロウ - ピッチマーク - ゴルフコラム : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2022年7月21日閲覧。
  13. ^ 全英オープンのゴルフ場がイーグル採用 カモメ退治に猛禽類が活躍”. CNN.co.jp. 2022年7月21日閲覧。
  14. ^ The MI5 Was So Paranoid About German Infiltration That It Trained Falcons to Take Down Enemy Carrier Pigeons” (英語). warhistoryonline (2022年9月23日). 2023年1月10日閲覧。
  15. ^ Chris Spargo (2015年2月7日). “Falconry now a million dollar industry complete with drones and tracking devices”. デイリー・メール. 2015年2月18日閲覧。
  16. ^ Falcon Hospital a major tourist attraction in Abu Dhabi”. UAEinteract.com (2015年2月17日). 2015年2月17日閲覧。
  17. ^ Dubai Falcon Hospital”. 2015年2月17日閲覧。
  18. ^ Abu Dhabi International Hunting and Equestrian Exhibition” (2015年2月17日). 2015年2月17日閲覧。
  19. ^ A DESCRIPTION AND HISTORY OF FALCONRY”. 2015年2月18日閲覧。
  20. ^ Rachel Dickinson (2009). Falconer on the Edge: A Man, His Birds, and the Vanishing Landscape of the American West. Houghton Mifflin Harcourt. p. 21. ISBN 9780547523835. https://books.google.co.jp/books?id=AMs84ZgX_cIC&pg=PT42 
  21. ^ History of Falconry 3”. International Association for Falconry and Conservation of Birds of Prey. 2015年2月18日閲覧。
  22. ^ A brief history of North American Falconry”. North American Falconers Association. 2016年2月17日閲覧。
  23. ^ 相馬 2012, p. 105
  24. ^ a b Soma 2012b, p. 308
  25. ^ Soma 2012b, p. 309
  26. ^ Soma 2012b, pp. 312–313
  27. ^ Soma 2012b, pp. 310, 314
  28. ^ Falconry / The History of Falconry in New Zealand and The World”. The Wingspan National Bird of Prey Centre. 2015年2月18日閲覧。
  29. ^ |title= Falconry in History | contribution = South African Falconry History|publisher[リンク切れ]
  30. ^ 片山, 共夫「元朝の昔寶赤について : 怯薛の二重構造を中心として」、九州大学文学部東洋史研究会、1982年3月25日、doi:10.15017/24544 
  31. ^ 著:箭内亙 『元朝怯薛考』
  32. ^ a b 秋吉正博「日本古代の放鷹文化と統治思想」(根本誠二 他編『奈良平安時代の〈知〉の相関』岩田書院、2015年) ISBN 978-4-87294-889-9
  33. ^ 宮永一美「戦国武将の養鷹と鷹書の伝授―越前朝倉氏を中心に―」(二木謙一編『戦国織豊期の社会と儀礼』吉川弘文館、2006年)
  34. ^ 宮本義己「徳川家康公と医学」(『大日光』66号、1995年)
  35. ^ 秋山高志ほか編 『図録 山漁村生活史事典』(柏書房、1991年)p.52
  36. ^ 巣山 すやま コトバンク
  37. ^ 日本ワシタカ研究センターサイト「沿革」の項
  38. ^ a b "鷹(たか)を継ぐもの". NHK. 2023年6月30日. 2023年6月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月24日閲覧
  39. ^ アメノトリ / アメノトリ - macoso”. サンデーうぇぶり. 2023年5月16日閲覧。






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