雑草
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/30 15:32 UTC 版)
社会学的な考えでは、農耕地などで作物以外の、人の意図にかかわらず自然に繁殖する植物[1]、景観を損ねる所に生える人に望まれない植物など、間接的、直接的に損害を与える所に生える植物のことを指す場合が多い。社会学的な雑草の定義は個々の人間の主観、価値観により変わり、どの種が雑草であるかの定義も人それぞれである。
生物学的定義では雑草とは「土壌攪乱に対応した植物を指す」とされ、種子が不良な温度変化、湿度変化に耐え、休眠状態で死滅せずに土壌中に深くに保存され、その後に耕しなどの人為要因や、降雨降雪などの自然要因により土壌が攪乱され、種子が土壌表層に持ち上げられ自然に発芽し育った、その場に生える植物のことを指す。 生物学において人里や河川敷に自然に生える植物は雑草と定義される[2][3][4](その他、狭義の定義については雑草#定義を参照)。通常、草(草本)についていう[注釈 1]。雑草を単に草という場合もある(除草、草刈りなど)。
概要
特定の分類群を示すものではないが、人の活動、操作によって強く攪乱を受けた空間を生息場所とする点で、共通の生態学的特性を共有することが多い。転じて、重視されないがたくましい存在、悪く言えばしぶとい存在として、比喩に用いられる[5]。
これらは、分類上は多種多様な植物からなる群であるが、シダ植物で雑草と見なされるものはきわめて少ない。裸子植物は皆無である。被子植物でも、イネ科・キク科のものがかなりの部分を占める。これらは、被子植物の中でも進化の進んだグループと見られている。また、帰化植物も多い[6]。これは、人の生活範囲に密着している植物であるがゆえ、ある意味で当然であると言える。また特定の栽培植物には、それに対応する雑草が存在する場合がある。
繁茂状況によって、これらに付随して生息する動物群も存在し、カやハエやその他の昆虫、それらを餌にするクモなどの節足動物・ネズミ等の小型哺乳類・小型の鳥といった小動物が生活する格好の場所を提供する。しかし雑草によって、人間の活動にとって害虫が発生する元にもなる。
日本語では種の名称に、ある種の蔑みを含んだものが用いられることもある。例えば、動物の名前を冠すもの(カラスウリ、カラスノエンドウ、ヘビイチゴ、イヌガラシ、スズメノテッポウ)や、迷惑感を示すもの(ワルナスビ。ただし、これは有毒である)などがある。そのほかハキダメギク(掃溜菊)やヘクソカズラ(屁糞蔓)といった有難からぬ名前を付けられた種もある。これは、人々にとって有用でない、あるいは一般には取るに足らない存在と捉えられていることから名付けられた。
雑草の研究は、雑草の駆除や管理を対象に進められてきた。
定義
雑草の定義として、以下のようなものが挙げられている[7][8]。
- 農学の立場からみて、「作物に直接または間接的な害をもたらし、その生産を減少させる植物(荒井:1951)」[5]
- 植物生態学の立場からみて、「人の活動で大きく撹乱された土地に自然に発生・生育する植物(ハーパー:1944)」[5]
- 一般人の立場からみて、「人々の身の回りに自生する草」(人里植物)[9]。
- アメリカ雑草学会「人類の活動と幸福・繁栄に対して,これに逆らったりこれを妨害したりするすべての植物」[10]。
このうちの1だけを雑草と見なす考え方もある。
注釈
出典
- ^ 『広辞苑』(第四版)岩波書店〈岩波書店〉、1992年。
- ^ 萩本 宏「雑草の定義と雑草学の役割」『雑草研究』第46巻第1号、日本雑草学会、2001年、56-59頁、doi:10.3719/weed.46.56。
- ^ “雑草管理に関するQ&A”. 雑草管理教育研究センター. 2023年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月3日閲覧。
- ^ 河野 昭一「種生物学の立場からみた雑草」『雑草研究』第20巻第4号、日本雑草学会、1975年、145-149頁、doi:10.3719/weed.20.145。
- ^ a b c 雑草の話 第1話
- ^ 『新版 日本原色雑草図鑑』
- ^ 雑草の話 第1話 第25話
- ^ 三浦 (2009)
- ^ 『きらわれものの草の話』p.8
- ^ a b 三浦励一「ドメスティケーションとは何か : 雑草とは何か : 特にドメスティケーションとの関係において」『国立民族学博物館調査報告』第84巻、2009年3月、35-50頁。
- ^ 頑固な雑草の名前としつこい雑草の抜き方
- ^ “雑草学ノート”. hp.brs.nihon-u.ac.jp. 日本大学. 2023年8月8日閲覧。
- ^ a b c 4章 雑草の除草回避戦略 サイト:京都大学
- ^ 幹二, 伊藤 (2018). “雑草リスク情報-その2:その傷害や病気,実は雑草が原因です”. 草と緑 10: 54–65. doi:10.24463/iuws.10.0_54 .
- ^ “農業技術事典NAROPEDIA”. lib.ruralnet.or.jp. 2023年6月20日閲覧。
- ^ 除草機. コトバンクより。
- ^ “Chapitre 12. Désherbage des cultures par les oies”. www.fao.org(国際連合食糧農業機関). 2023年6月13日閲覧。
- ^ “面倒な草刈りをしてくれる“除草ヤギ”が大人気…かわいすぎて除草させられない人も|FNNプライムオンライン”. FNNプライムオンライン (2020年11月5日). 2023年6月20日閲覧。
- ^ “農薬代わりに豚活用 ブドウ園で試み―仏:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2023年9月4日閲覧。
- ^ 耕作放棄地対策のための豚放牧技術を確立 愛知県農業総合試験場
- ^ “ヒガンバナ:ご先祖の知恵 (常陽新聞連載「ふしぎを追って」) (情報:農業と環境 No.114 2009年10月)”. www.naro.affrc.go.jp. 2023年6月20日閲覧。
- ^ 笹原和哉・吉永悟志 2014. 2013 年度日本農業経済学会論文集. 289-296.
- ^ 冨永, 達 (2003年12月25日). “絶滅に瀕する耕地雑草の現状”. 京都府立大学学術報告. 人間環境学・農学 = The scientific reports of Kyoto Prefectural University. Human environment and agriculture. pp. 101–105. 2023年8月9日閲覧。
- ^ “100 Äcker für die Vielfalt - 100 Äcker für die Vielfalt”. www.schutzaecker.de. 2023年8月9日閲覧。
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ [3]
- ^ [4]
- ^ https://www.facebook.com/ToyokeizaiOnline+(2015年3月28日).+“戦国武将は、なぜ雑草を家紋にしたのか”. 東洋経済オンライン. 2023年8月9日閲覧。
- ^ 田中直著「雑草とご愛草」『宮中侍従物語』p.225-230
- ^ 流行語大賞は「雑草魂」「リベンジ」「ブッチホン」(1999年12月2日 読売新聞)
雑草と同じ種類の言葉
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