銀河系 年齢と形成史

銀河系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/24 05:44 UTC 版)

年齢と形成史

銀河系の年齢は、約130億年と見積もられている[21][22]。銀河系で最も古い天体としては、HE 1523-0901の132億年や[23]HD 140283の約145億年などがある。HD140283の年齢が正しければ約138億年前の宇宙開闢よりも古くなってしまうが、誤差が8億年ほど存在するため、最も若い見積もりであれば矛盾は解消する[24]

銀河系はおおよそ100億年前にガイア=エンケラドゥス (Gaia-Enceladus)と呼ばれる矮小銀河と衝突し合体した。この際の残骸が銀河系のハローを形成したとの研究が2019年に発表されている[25]。また銀河系にほど近いいて座矮小楕円銀河はこれまで約50億から60億年前、約20億年前、10億年前の3度にわたって銀河系と衝突を繰り返しており、この衝撃によって銀河系内での恒星の誕生が促され、太陽系もこのときの衝撃によって誕生した可能性があるとされる[26]

構造

銀河系の渦状腕の構造(黄色の点は太陽系)の想像図。グレーの部分は太陽系から見て銀河系の反対側にあるため、詳細な構造が不明である領域。

銀河系はハッブル分類でSBbcに分類される棒渦巻銀河[10]、総質量は約1兆2600億太陽質量であり[4]、約2000億 - 4000億個の恒星が含まれていると考えられている[5]

銀河系が普通の渦巻銀河でなく棒渦巻銀河であると考えられるようになったのは1980年代になってからである。2005年にスピッツァー宇宙望遠鏡によって行われた観測でもこのモデルは裏付けられており、さらに銀河系の棒構造はそれまで考えられていたよりも大きいことが明らかになっている[27]

銀河系の中心には超大質量ブラックホールと目される、非常に大きな質量を持つ小さな天体(いて座A*)が存在しており、2022年5月12日には直接観測に成功したと発表されている[28]。現在ではほとんどの銀河の中心に大質量ブラックホールが存在すると考えられている[29]

銀河系は多くの銀河の場合と同様に、銀河系内の恒星の軌道速度が中心からの距離によらずほぼ同じ速度となるような質量分布を持っている。中心のバルジや外縁部を除くと、銀河系の恒星の典型的な速度は約210から240 km/sである[30]。したがって、典型的な恒星の軌道周期はその軌道の長さのみに単純に比例する。これは系の中心に質量のほとんどが集中している太陽系のケプラー運動のような、異なる軌道を持つ天体がその軌道に応じて異なる軌道速度を持つ場合とは大きく異なっている。

銀河系のディスク(銀河円盤)の両端を結んだ直径は約10万光年と見積もられている[31]。太陽から銀河の中心までの距離は約2万6000光年から約3万5000光年と見積もられている。ディスク(銀河円盤)は銀河中心では外側に膨らんでおり、中心から遠さがるにつれて膨らみが小さくなる。

銀河系の棒構造は約2万7000光年の長さを持ち、太陽系と銀河中心を結ぶ直線に対して約44±10度の角度で銀河中心を貫いている。棒構造は主に年齢の古い赤い星から形成されている。

渦状腕

銀河北極から見た銀河系の渦状腕の構造図。実線は観測によるもので、点線は推定。大半の星は時計回りに移動する。太陽(中央上部にある黄色い点)の位置からの灰色の線は、各星座の方向を表している。
渦状腕
青緑 3kpc腕 (3kpc Arm)・ペルセウス腕 (Perseus Arm)
じょうぎ腕 (Norma Arm)・はくちょう腕 (Cygnus Arm,Outer Arm)
たて・ケンタウルス腕(Scutum-Centaurus Arm)
いて・りゅうこつ腕(Carina–Sagittarius Arm)
このほか、下記のものを含む少なくとも2つの小規模な腕が存在する。
オレンジ オリオン・はくちょう腕 (Orion–Cygnus Arm、太陽と太陽系が含まれる)

銀河系の各渦状腕は(他の全ての渦巻銀河と同様に)対数螺旋を描いており、その角度は約12度である。銀河系には銀河中心から伸びた4本の渦状腕が存在すると考えられていて、それぞれ以下の名称が付けられている。

また、これ以外に二つの小さな腕や弧が存在する。代表的なものは以下の腕である。

銀河系のディスク(銀河円盤)は古い恒星や球状星団からなる回転楕円体の銀河ハローに取り囲まれている。銀河ハローの直径は約25万 - 40万光年である[32]。ディスク(銀河円盤)にはガスや塵が含まれ、いくつかの波長では見通すことができないが、銀河ハローにはそのような物質はほとんどない。ディスク(銀河円盤)のうち、特に物質密度の高い渦状腕の内部では活発な星形成が行なわれているが、銀河ハローでは星形成はほとんど見られない。散開星団も主にディスク(銀河円盤)に存在している。

銀河系の質量のほとんどは暗黒物質で、ダークハローを形成している。ダークハローは銀河中心に向かって密度が高くなっている[33]

21世紀初頭の発見によって、銀河系の構造についての知識は広がりつつあると共に誤った知識から正しい知識へと変わりつつある。2005年、アンドロメダ銀河 (M31) のディスクがそれまで考えられていたよりもずっと大きく広がっていることが発見され[34]、銀河系のディスクもそれまでの推定より大きい可能性が高まっている。このことは、はくちょう腕がさらに外側に続いていることが発見されたことからも裏付けられている[35]。また、いて座矮小楕円銀河の発見と同時に、銀河の「破片」からなる帯がいて座を中心として極軌道を描いて取り巻いていることが発見され、これはこの伴銀河が銀河系との相互作用によって分裂しつつある姿であることが明らかになっている。この帯はいて座ストリームと呼ばれ[36]、約10億年前の銀河衝突の名残とされている[37]。同様におおいぬ座矮小銀河の発見に伴って、この銀河と銀河系との相互作用で生じた銀河の小片がリングとなって銀河系のディスクを取り巻いているのも見つかっている。

2006年1月9日プリンストン大学のMario Juric他はスローン・デジタル・スカイサーベイの北天のデータから、天の川の中に現在考えられている銀河系のモデルに合わない巨大な(満月の約5000倍の面積に広がっている)淡い構造を発見したと発表している。この構造は恒星の集団で、銀河系の渦状腕の面に対してほぼ垂直に広がっている。彼らはこの構造についての可能性の高い解釈として、矮小銀河が銀河系と合体しつつある姿ではないかとしている。この銀河は暫定的にVirgo Stellar Streamと名付けられ、地球から見ておとめ座の方向に約3万光年離れた位置に存在している[38]

2006年5月9日にはDaniel ZuckerとVasily Belokurovが、同様にスローン・デジタル・スカイサーベイの観測データからりょうけん座うしかい座の位置に2個の矮小銀河を発見したと発表している[39]

チャンドラX線観測衛星による銀河系中心部のX線モザイク画像
2MASSの観測データに基づく銀河系の赤外線画像

太陽の位置

太陽はオリオン腕の内側の縁近く、銀河中心から7.94±0.42 kpcの距離[40][41][42]にある局所恒星間雲と呼ばれる星間雲に属している。太陽系が属している腕と隣のペルセウス腕との距離は約6500光年である[43]。太陽系は銀河系におけるハビタブルゾーンの中にあると考えられている。

太陽が銀河系内を運動する方向を太陽向点と呼ぶ。太陽の銀河系内運動の標準的な方向はベガの近くのこと座ヘルクレス座の境界付近で、銀河中心から約86度の方向である。太陽の銀河系内の軌道はほぼ楕円軌道で、これに銀河系の渦状腕や一様でない質量分布による摂動が加わっていると考えられている。太陽は現在、この軌道上の近銀点(銀河中心に最も近づく点)の手前約1/8の位置にいる。

太陽系が銀河系内の軌道を一周するには約2億2500万から2億5000万年ほどかかり[44]、太陽系が誕生してから現在までに約20〜25周していると考えられている。太陽系の軌道速度は約220km/sで[45]、約8日で1天文単位、約1400年で1光年進む。


注釈

  1. ^ a b 「天の川銀河」「銀河系」ともに文部科学省による学術用語集 天文学編(増訂版)に掲載されている学術用語である[7]

出典

  1. ^ Mass distribution in our Galaxy - arXiv
  2. ^ a b How large is the Milky Way? - NASA
  3. ^ The disc of the Milky Way is bigger than we thought
  4. ^ a b c d e The mass of the Milky Way: Limits from a newly assembled set of halo objects, 2003
  5. ^ a b c How Many Stars are in the Milky Way? - en:Universe Today
  6. ^ Discovery of HE 1523-0901, a Strongly r-Process Enhanced Metal-Poor Star with Detected Uranium - arXiv
  7. ^ オンライン学術用語集「銀河」
  8. ^ a b c d 「銀河系」美星町 星のデータベース”. 美星町. 2017年10月22日閲覧。
  9. ^ NHK高校講座 地学基礎”. NHK. 2017年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月2日閲覧。
  10. ^ a b Swinburne University of Technology. “Milky Way”. COSMOS - The SAO Encyclopedia of Astronomy. 2016年7月2日閲覧。
  11. ^ https://sorae.info/astronomy/20220513-sgr-a-star.html 「【解説】天の川銀河の超大質量ブラックホール「いて座A*」ついに撮影成功! その輪郭が捉えられた」soare 2022-05-13 2023年6月2日閲覧
  12. ^ 「天の川が消える日」p13-14 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  13. ^ 「星の文化史事典」p21-26 出雲晶子編著 白水社 2012年4月9日発行
  14. ^ 「物理学は歴史をどう変えてきたか 古代ギリシャの自然哲学から暗黒物質の謎まで」p161 アン・ルーニー 立木勝訳 東京書籍 2015年8月18日第1刷発行
  15. ^ 「天の川が消える日」p18-24 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  16. ^ https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/galaxy/galaxy05.html 「国立科学博物館-宇宙の質問箱-銀河編」日本国立科学博物館 2023年1月3日閲覧
  17. ^ 「物理学は歴史をどう変えてきたか 古代ギリシャの自然哲学から暗黒物質の謎まで」p173-174 アン・ルーニー 立木勝訳 東京書籍 2015年8月18日第1刷発行
  18. ^ 「天の川が消える日」p56-58 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  19. ^ 「天の川が消える日」p160-162 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  20. ^ 「Newton別冊 現代の宇宙像はこうして創られた 天文学躍進の400年」p50 ニュートンプレス 2009年5月15日発行
  21. ^ https://www.nao.ac.jp/news/science/2015/20150909-subaru.html 「突然、星を作らなくなった銀河の発見 ―100億年前、銀河に何が起こったのか?」国立天文台 2015年9月9日 2023年6月1日閲覧
  22. ^ https://sorae.info/astronomy/20220330-milky-way.html 「天の川銀河の形成が始まったのは約130億年前だった可能性」sorae 2022-03-30 2023年6月1日閲覧
  23. ^ https://www.astroarts.co.jp/news/2007/05/16galactic_fossil_star/index-j.shtml 「推定年齢132億歳の恒星、天の川銀河に発見」Astro Arts 2007年5月16日 2023年6月1日閲覧
  24. ^ https://www.astroarts.co.jp/news/2013/03/12hd140283/index-j.shtml 「宇宙最古の星の年齢をさらに正確に推定」Astro Arts 2013年3月12日 2023年6月1日閲覧
  25. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3195522 「銀河系ハロー、100億年前の銀河「巨大衝突」で形成」AFPBB  2018年11月1日 2023年6月2日閲覧
  26. ^ https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11277_sagdeg 「矮小銀河の衝突が天の川の星形成を促し、太陽も誕生させた可能性」Astro Arts 2020年5月29日 2023年6月2日閲覧
  27. ^ Bar at Milky Way's heart revealed” (2005年8月16日). 2005年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月20日閲覧。
  28. ^ “銀河系中心のブラックホール撮影 国立天文台など参加の国際研究”. 時事ドットコム. 時事通信社. (2022年5月12日). オリジナルの2022年5月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220512132927/https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051200836&g=soc 2022年5月12日閲覧。 
  29. ^ 「宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門」p34 村山斉 講談社ブルーバックス 2011年7月20日第1刷発行
  30. ^ Mass of the Milky Way Galaxy”. 1999年10月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月20日閲覧。
  31. ^ 「天の川が消える日」p24-25 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
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  33. ^ filler
  34. ^ On the accretion origin of a vast extended stellar disk around the Andromeda galaxy” (2005年4月6日). 2012年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月20日閲覧。
  35. ^ Milky Way Ring”. www.solstation.com. 2022年2月20日閲覧。
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  37. ^ 「天の川が消える日」p47-48 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  38. ^ https://www.astroarts.co.jp/news/2006/05/19milkyway_neighbor/index-j.shtml 「近すぎて見えなかった…天の川銀河のごく近くに星の大集団を発見」Astro Arts 2006年2月2日 2023年5月31日閲覧
  39. ^ https://www.astroarts.co.jp/news/2006/05/19milkyway_neighbor/index-j.shtml 「天の川の「支流」とその「水源」」Astro Arts 2006年5月19日 2023年5月31日閲覧
  40. ^ Reid, M. J. (1993), "The distance to the center of the Galaxy". Annual Review of Astronomy and Astrophysics, Vol. 31, p. 345-372.
  41. ^ Eisenhauer, F., et al (2003), "A Geometric Determination of the Distance to the Galactic Center" Astrophys.J. 597 L121-L124.
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  43. ^ Astronomy Images: Canadian Galactic Plane Survey Map 1 of the Milky Way Galaxy”. www.ras.ucalgary.ca. 2022年2月20日閲覧。
  44. ^ Period of the Sun's Orbit around the Galaxy (Cosmic Year) - The Physics Factbook”. hypertextbook.com. 2022年2月20日閲覧。
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  46. ^ 「銀河Ⅱ 銀河系」(シリーズ現代の天文学第5巻)p177-179 祖父江義明・有本信雄・家正則編 日本評論社 2007年4月25日第1版第1刷発行
  47. ^ 「天の川が消える日」p127-128 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行
  48. ^ 特殊相対論では、宇宙には銀河系の運動の基準となるような特別な慣性系は存在しないとしている(物体の運動は常に他の物体に対する運動として特定しなければならない)。
  49. ^ https://wired.jp/2017/02/01/dipole-repeller-milky-way/ 「銀河系を押し返す「謎の宇宙領域」が見つかる:研究結果」WIRED 2017.02.01 2023年6月2日閲覧
  50. ^ Redshift data for Messier Galaxies”. www.messier.seds.org. 2022年2月20日閲覧。
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  53. ^ 「天の川が消える日」p155 谷口義明 日本評論社 2018年6月25日第1版第1刷発行


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