近接戦闘 警察による危機対応

近接戦闘

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/23 01:50 UTC 版)

警察による危機対応

CQC演習中に部屋を襲撃する準備を行うFBI HRT(人質救出チーム)の要員。

各国の国内で近接戦闘を行うのは、主に警察の危機対応チーム(CRT)である。 近接戦闘の発生が予期される状況においては、通常、従来の警察の対応能力を越える異常な脅威を伴う。したがって、CRTは、こうした状況に対応するために特別に編成され、装備を与えられ、また訓練を受けている。こうした状況においては、建物へのエントリーとルームクリアリングの手順を含む特別な戦術と技術が必要になることが多いが、これらは近接戦闘術の特徴である。

警察における近接戦闘規範は、部隊の種類と目的によって専門化されている。例えば、機動隊刑務所の警備隊FBI人質救出班およびSWAT部隊は、それぞれ異なる目標を持っているが、非致死性兵器の使用など、使用する戦術や技術には共通点がある。例えば、刑務所には高リスク状況下における人員救出を専門とする部隊があり、精神科病院や病棟にも同様の専門チームが置かれていることがある。警察の近接戦闘の中心となる「非致死性」装備と戦術には、スタンガン唐辛子スプレーライオットシールド催涙ガスならびにゴム弾、プラスチック弾またはビーンバッグ弾を発射するためのライオットガンが含まれる。しかし、いわゆる「非致死性」兵器であっても人を負傷させる可能性はあり、死に至らしめる可能性もゼロではない。

民間産業

紛争地帯において警備業務または軍事作戦に従事する民間企業が社内に近接戦闘部隊を整備していることがある。こうした部隊は、例えば、当該企業が警備業務を受託した政府施設における事案発生時に投入される「危機対応部隊(CRT)」として機能し、脅威を「排除」する。また、高級外交官や軍の高官が紛争地帯を訪問する際に、民間軍事会社の警備員が投入されることがある。例えば、アメリカ合衆国国務省は、イラクにおいてそのような近接戦闘装備を身につけた警備部隊を雇用していた[9]

民間警備会社SCGは、ミシシッピ州ホリースプリングスで戦術訓練コースを実施している。この訓練課程には、SWATの戦術に加え、白兵戦および高度の脅威からの防御戦術が含まれる[10]

ブラックウォーター社は、民営化によって近接戦闘の訓練を新たなレベルに引き上げた。特別な作戦要件を満たすための訓練を外注したい顧客のための訓練メニューに近接戦闘の訓練を取り入れ、業界の第一人者となったのである[11]。実際の作戦においても、ブラックウォーターの警備員は、近接戦闘のスキルおよび死ぬ覚悟ができている点においてローマのプラエトリアニに喩えられた[9]

自衛隊でのCQB訓練

日本の自衛隊では、戦車砲を含む直射火器の射程内における戦闘行為を既に「近接戦闘」と総称していた[注釈 1]ため、比較的新しい概念であるCQBに相当する状況を特に区別する場合には混同がないよう「人対人の至近距離戦闘[注釈 1]」「閉所[注釈 2]戦闘」などの表現が使われる。

自衛隊は、もともと大規模な侵略行為に対しての対処をしてきた。しかし、ソビエト連邦の崩壊や、アメリカ同時多発テロ事件などの世界情勢の変化によって、特に陸上自衛隊は大規模な侵略行為だけでなく、テロリストゲリラ市街地などに侵入した際の対策を強化している。

2001年12月に発生した北朝鮮の工作船事件などから、このような船で特殊部隊工作員が上陸する可能性への警戒が強まった。事実上の空白地帯だった九州南西部の防衛を担う西部方面普通科連隊が創設されたのをきっかけに、他の全国の陸上自衛隊の部隊でも対ゲリラ・特殊部隊(ゲリラコマンド)や対テロ対策のための試みが行われている。近年は各地の駐屯地祭などでも市街地での戦闘などが訓練展示として行われており、89式小銃型の電動ガンを使用した近接戦闘訓練も一部の部隊で実施されている。

陸上自衛隊だけではなく、航空自衛隊の基地防衛を任務とする基地警備隊も市街地戦闘を重視した訓練を行っている。基地警備教導隊がその中心である。海上自衛隊海上保安庁でも船舶臨検などにおいて、こうした近接戦闘訓練を行っているとされる。

市街地訓練場

王城寺原演習場でのプレハブ小屋を使用した訓練の様子(2004年2月9日)
日本原演習場での市街地戦闘訓練の様子(2007年11月13日)
中部訓練場での都市型戦闘訓練施設を使用した訓練の様子(2008年3月17日)

近年、陸上自衛隊では市街地戦闘訓練の需要が高まっている。今まで各部隊では宿営地などにある廃屋(例:北九州、曽根訓練場では陸軍毒ガス製造工場を使用していた)や、隊舎などの一部を使用したり、また、ベニヤ板などで部屋などを想定したものを使用しているが、より専門的な訓練場の必要性が指摘され、各方面隊で1ヶ所ずつ市街地戦闘訓練を行うための「市街地訓練場」と呼ばれる施設を整備している。

東部方面隊には富士駐屯地富士学校)近傍の東富士演習場内に「市街地訓練場」が2006年3月に完成した。約3万平方メートル(縦約150メートル、横約200メートル)の市街地訓練場内には総工費約25億円をかけて官公庁舎・テレビ局学校銀行・テナントビル・ホテルマンションアパートレストランスーパーを模した鉄筋コンクリート造りの施設計10棟と管理棟を合わせた計11棟が建ち、地下鉄などを想定した地下道ヘリポートも設けられており、本格的に都市が再現されている。建物の屋上や屋内には可動式のテレビカメラが設置されており、管理棟のモニターで1度に40ヶ所の訓練状況を確認できる。夜間の使用も可能なこの国内最大規模の市街地訓練場ができた事で全国で唯一、中隊規模(約150人)での市街地戦闘訓練が行えるようになった。ただ、これでも諸外国の訓練施設と比べると小規模なものである。

市街地訓練場一覧

※東富士演習場以外では5棟程度の建物が整備されており、小隊規模の訓練が可能。


注釈

  1. ^ a b 自衛隊経ヶ岬分屯基地のイベントで、自衛隊における近接戦闘概念を解説する自衛隊員 0:25~ https://www.youtube.com/watch?v=tV6VWTcenhc&t=25
  2. ^ 小銃の訓練資材などに「閉所戦闘訓練用」といった呼称がついているが、特に建物内部などの閉鎖空間での用途に限定する意味ではない。

出典

  1. ^ “Overview”. U.S. Marine Close Combat Fighting Handbook. Skyhorse Publishing Inc.. (2011) 
  2. ^ Chambers, John W., OSS Training in the National Parks and Service Abroad in World War II, Washington, D.C., U.S. National Park Service (2008), p. 191
  3. ^ History of Modern Self-Defence”. 2014年10月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年11月28日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g U S Department of Defense (2007). U.S. Army Ranger Handbook. Skyhorse Publishing Inc.. pp. 200–206. ISBN 978-1-60239-052-2 
  5. ^ a b c Southworth, Samuel A.; Tanner, Stephen (2002). U.S. Special Forces: a guide to America's special operations units. Da Capo Press. pp. 138–140. ISBN 978-0-306-81165-4. https://archive.org/details/usspecialforcesg0000sout/page/138 
  6. ^ Egusa, Alan (2010). Martial Art of the Gun: The Turnipseed Technique. Dog Ear Publishing. pp. 60–61. ISBN 978-1-60844-226-3 
  7. ^ Kahn, David (2004). Krav maga: an essential guide to the renowned method--for fitness and self-defense. Macmillan. pp. 18–26. ISBN 978-0-312-33177-1 
  8. ^ Ford, Roger; Tim Ripley (2001). The whites of their eyes: close-quarter combat. Brassey's. p. 16. ISBN 978-1-57488-379-4 
  9. ^ a b Fitzsimmons, Scott (2016). Private Security Companies during the Iraq War: Military Performance and the Use of Deadly Force. Oxon: Routledge. pp. 43. ISBN 9781138844261 
  10. ^ Axelrod, Alan (2013). Mercenaries: A Guide to Private Armies and Private Military Companies. Washington, D.C.: CQ Press. ISBN 9781483364667 
  11. ^ Engbrecht, Shawn (2011). America's Covert Warriors: Inside the World of Private Military Contractors. Washington, D.C.: Potomac Books, Inc.. pp. 87. ISBN 9781597972383. https://archive.org/details/americascovertwa0000engb/page/87 
  12. ^ 北海道平和委員会青年協議会による視察レポート[リンク切れ]
  13. ^ 野口卓也「武装工作員を鎮圧せよ! 東北方面隊市街地訓練」『』2007年8月号
  14. ^ 赤嶺政賢. “福岡県北九州市小倉南区曽根の陸上自衛隊の都市型戦闘訓練施設における訓練内容等に関する質問主意書(平成十七年十月十七日提出 質問第二〇号)”. 衆議院. 2019年10月26日閲覧。


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