裁判官 歴史

裁判官

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 11:40 UTC 版)

歴史

17世紀のスペインにおける法服を着た裁判官。ディエゴ・ベラスケス作。

古来より、さまざまな犯罪や係争が存在し、ある程度の社会が作られて以降はその紛争解決制度が必要となった。

古くは、社会構造については記録なども残されておらず、具体的な様相なども不明である。部族・民族ごとにさまざまな紛争解決方式が取られており、一律に理解することもできない。主として、「集団の中で権力を持つ者の裁定」や「神権裁判」などが行われた可能性が指摘されている。裁定を行う権力者や神託を告げる者などが裁判官の役割を果たした[注釈 1]

政治体制・統治機構が整うにつれ、一般的に、裁判は、王・領主・宗教者などの権力者が行うものとされ、裁判人もそれらの者、ないしはその委託を受けた者が行うようになった。

中世・近世西欧

前近代のヨーロッパでは裁判人(判断する者)と検察官(糾弾する者)が多くの国で分離されてもいなかったことに注意する必要がある。長い間、刑事裁判では、裁判官は「犯罪者を糾弾する者」という役割をあわせて担っていた(糾弾主義)。

近世日本

江戸時代は、「お白洲」に代表されるように、捜査機関である奉行所奉行が裁判官であったりもした。奉行(特に町奉行)は現代の警察官・検察官・裁判官を兼ねた職責および権限を持っていたといえ、前近代の西欧と類似点があるともいえよう。

イスラム教圏

イスラム教圏ではシャーリアに基づいて裁判を行う裁判官をカーディーと呼び、マレーシアやパキスタンなどのアラビア語圏以外のイスラム教圏でもカーディと呼ばれている。ムハンマドが存命だった時代から始まって2009年現在でもイスラム教国では裁判官として活動している。

近代

近代以降、裁判官の位置づけは大きく変更される。まず、三権分立という概念が持ち込まれることで、裁判官は、立法・行政から切り離された。また、刑事裁判の面では裁判所と検察が分離され、裁判官は「判断をする」という役割に専念することとなり、「犯罪者を糾弾する」という役割を受け持たなくなった(弾劾主義)。こういった役割分担の変更に伴い、裁判官は「極めて高度な法的知識を必要とする専門職」とされ、また、裁判の公平性を維持するために、「立法・行政からの影響を避けるための手厚い身分保障」が必要であるとされるに至った。


注釈

  1. ^ 例えば、アイヌ民族では「ちゃらんけ」と呼ばれたが、徹底した討論によって問題解決を目指すという文化を持つ集団もあり、この場合は、「仲裁者」という役割は存在しなかった。
  2. ^ 5年以上10年未満の裁判官経験者又は10年以上20年未満の法律専門家経験者(検察官、弁護士、簡易裁判所判事、大学法学部教授、大学法学部准教授)であっても、判事補、裁判所調査官、最高裁判所事務総長、裁判所事務官、司法研修所教官、裁判所職員総合研修所教官、法務事務次官、法務事務官又は法務教官の職に在ったときは、その在職についても法律専門家(検察官、弁護士、簡易裁判所判事、大学法学部教授、大学法学部准教授)の在職とみなして在職日数を計算することができる。簡易裁判所判事、検察官、弁護士及び判事補、裁判所調査官、最高裁判所事務総長、裁判所事務官、司法研修所教官、裁判所職員総合研修所教官、法務事務次官、法務事務官又は法務教官の職に在った年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在った年数とする。3年以上大学の法律学の教授又は准教授の職に在った者が簡易裁判所判事、検察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、検察官又は弁護士の職に在った年数については適用しない。
  3. ^ 沖縄の復帰に伴う法務省関係法令の適用の特別措置等に関する政令第1条により、沖縄の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者も対象。刑法第34条の2により、刑期満了後に罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した時は、欠格事由の対象外となる。
  4. ^ 但し、退官した裁判官が、かつて自身が担当していた事件の記録を公開したケースは存在する[43]
  5. ^ 尤も、かつては、世間の注目を集めた事件などで、裁判官が判決後に記者会見に応じることがあった[44]

出典

  1. ^ 太田, 松村 & 岡本 (2000), p.p. 40 - 41.
  2. ^ 令和4年度 女性の政策・方針決定参画状況調べ”. 内閣府男女共同参画局 (2023年10月6日). 2024年2月23日閲覧。
  3. ^ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会(裁判所) - 裁判所(最高裁判所)Webサイトより《2017年11月5日閲覧;現在はインターネットアーカイブ内に残存》
  4. ^ 兼子一『裁判法』竹下守夫共著(第3版)、有斐閣法律学全集〉、1994年3月、224頁。ISBN 978-4641007345全国書誌番号:94039486 
  5. ^ 岩瀬達哉 2020, p. 3.
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  8. ^ 山形道文『われ判事の職にあり』(文藝春秋)昭和57年、31頁
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  12. ^ 懲戒処分の公表指針 - 最高裁判所
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  14. ^ 裁判官の分限事件手続規則 (PDF) - 最高裁判所規則
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  17. ^ 牧野 2012, pp. 127–131.
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  20. ^ a b 牧野 2010a, p. 3
  21. ^ 牧野 2012, p. 133.
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  23. ^ 牧野 2012, p. 131.
  24. ^ 牧野 2010a, p. 4
  25. ^ 牧野 2012, pp. 133–140.
  26. ^ 牧野 2010b, p. 1
  27. ^ a b 牧野 2010b, p. 2
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  29. ^ 牧野 2010b, p. 6
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  33. ^ 牧野 2010b, p. 4
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  35. ^ 安倍晴彦『犬になれなかった裁判官―司法官僚統制に抗して36年』NHK出版、2001年5月。ISBN 978-4140806098全国書誌番号:20178487 ”など
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  37. ^ 秋山賢三『裁判官はなぜ誤るのか』岩波書店岩波新書〉、2002年10月18日。ISBN 978-4004308096全国書誌番号:20342299 
  38. ^ 第193回国会 衆議院 法務委員会 第21号 平成29年6月7日」(PDF)『第193回国会』議事録、21巻、衆議院事務局、2017年6月27日、34頁。「当該ページ後半掲載の「池内委員」答弁の後半部分”きょうお配りの配付資料を・・・・・・つまり、深刻なジェンダーバイアスがあるのではないか。これは最高裁と刑事局長にお聞きします。”など」
  39. ^ a b 司法制度改革審議会 集中審議第3日 議事概要”. 司法制度改革審議会. 首相官邸 (2000年8月9日). 2009年10月16日閲覧。
  40. ^ 『裁判官がおかしい』という週刊新潮の短期集中連載記事及び『裁判官はなぜ誤るのか』(岩波新書)を読んで” (PDF). みのる法律事務所便り「的外(まとはずれ)」第151号. みのる法律事務所 (2002年11月). 2017年11月4日閲覧。
  41. ^ 「常識」の通じない裁判はなぜ続くのか”. ブログ「夏炉冬扇の記」. 門田隆将オフィシャルサイト(kadotaryusho.com) (2013年6月7日). 2017年11月4日閲覧。
  42. ^ 杉浦太一 (2009年2月9日). “特集vol.39 森達也(作家・映画監督)インタビュー/ぼくらが人を殺すかもしれないというリスク”. CINRA.NET. CINRA. p. 2. 2017年11月5日閲覧。 “全3頁構成(→p.1p.3)” ※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
  43. ^ 酒鬼薔薇の報道についてBLOGOS、2015年4月11日)
  44. ^ 1967年3月29日付朝日新聞東京夕刊11面、恵庭事件での裁判官の会見の様子を伝える記事
  45. ^ “なぜ裁判官は裁判員みたいに記者会見しないの?=回答・北村和巳”. 毎日新聞. (2009年10月3日). https://web.archive.org/web/20091004053324/http://mainichi.jp/select/wadai/naruhodori/news/20091003ddm003070079000c.html 2017年11月5日閲覧。  ※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
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  47. ^ What Does It Take to Be a Judge? Job Description and Career Profile”. thebalance.com. 2017年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月18日閲覧。
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  51. ^ 福田剛久 (2001年10月23日). “ドイツの裁判官制度の実情について”. 裁判官の人事評価の在り方に関する研究会. 最高裁判所. 2017年11月5日閲覧。 ※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存






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