著作権法
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沿革
日本では、近代以前においては版木の所有者である版元が出版物に関する権利者と考えられ、著作権に相当する概念が存在しなかったとされている。明治初期に福沢諭吉らの紹介と政府への働きかけにより、「版権」として著作権の一部が保護を受けることになった。
19世紀末に日本がベルヌ条約への加盟をするにあたり、国内法の整備の一環として初めて著作権法が制定された。この著作権法は「旧著作権法」とも呼ばれるもので、1970年に旧法を全部改正して制定された新著作権法とは通常区別される。その後新法も時代に合わせた改訂を重ねている。
- 1886年 - ベルヌ条約締結。
- 1887年 - 版権條令制定[3]。
- 1893年 - 版権法制定[3]。
- 1899年 - 日本がベルヌ条約に加盟[4]。
- 1899年 - 旧著作権法制定[3](版権法等関連旧法は廃止)。
- 1931年 - プラーゲが音楽著作権の使用料を要求(プラーゲ旋風)。
- 1939年 - 仲介業務法施行[5]。
- 1951年 - サンフランシスコ平和条約第15条C項により戦時加算。
- 1970年 - 新著作権法制定[6]。
- 1985年 - 昭和60年6月14日法律第62号により著作権法(昭和45年法律第48号)の一部が改正され、「プログラムの著作物」が著作権法で明示的に保護対象になった。1986年(昭和61年)1月1日から施行された。
- 1999年 - 平成11年6月23日法律第77号により著作権法(昭和45年法律第48号)の一部が改正され、私的使用のための複製の場合は技術的保護手段を回避するような複製ができなくなった。1999年(平成11年)10月1日から施行された。
- 2000年 - 著作権等管理事業法施行にともない、仲介業務法廃止。
20世紀半ば以降、企業により著作物が製作されるようになると、便宜的に架空の人物を著作者とした事例が出てくるようになった(八手三郎、アラン・スミシーなど)。
旧・著作権法制定前
日本で最初に著作権の保護が規定されたのは、1869年の出版条例である。出版条例では、出版者に対して図書の「専売ノ利」を与えていたが、その内容はむしろ出版の取締りに重点が置かれていた。1887年、出版条例から版権の保護に関する規定が独立し、版権条例が制定された。版権条例は版権を著作者に認め、登録を要件としてその保護を規定していた。同時に、脚本楽譜条例(明治20年勅令第78号)及び写真版権条例(明治20年勅令第79号)も制定され、図書以外の著作物に対する著作者の権利が保護されるようになった。1893年、版権条例が改正され、版権法(明治26年法律第16号)が1893年4月14日公布された。
旧・著作権法の成立と改正
1899年、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)加盟にあわせ、水野錬太郎が起草した著作権法(明治32年3月4日法律第39号)が3月4日公布、7月15日施行され、版権法、脚本楽譜条例及び写真版権条例は廃止された。これは現在の日本では一般に「旧著作権法」と呼ばれる。起草者の水野錬太郎は著書「著作権法要義」[7]で旧著作権法の逐条解説を行った。
現行の著作権法は、1970年に旧著作権法の全部を改正して制定され、1971年1月1日に施行された。[8]
注釈
- ^ 著作物、実演、レコード、放送又は有線放送。以下同じ
- ^ 送信可能化されているレコードを直接放送または有線放送した場合を含む(後述のTPP11改正による)
- ^ 改正法(平成二十八年法律第百八号)附則第7条の規定により、著作物、実演及びレコードに関し、改正前の著作権法によると2017年12月29日時点で著作権又は著作隣接権が存するものについては改正後の保護期間が適用され、改正前の著作権法によると2017年12月30日時点で著作権又は著作隣接権が消滅しているものについては改正前の保護期間が適用される。
- ^ 著作者人格権若しくは著作権、出版権又は実演家人格権若しくは著作隣接権
- ^ 技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合を除く
- ^ a b c d e f 著作物、実演、レコード又は放送もしくは有線放送
- ^ a b (プログラムの著作物にあっては、当該著作物を電子計算機において利用する行為を含む)
- ^ 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法
- ^ a b 著作権者、出版権者又は著作隣接権者
- ^ 日本国外で行われた提供又は提示については、日本国内で行われたものとみなす。
- ^ 公衆送信には、放送、有線放送、送信可能化が含まれる
出典
- ^ "第一条 この法律は、著作物 ... に関し著作者の権利 ... を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。" 著作権法(令和五年法律第三十三号による改正).
- ^ 茶園成樹『著作権法 第3版』有斐閣 2021年 ISBN 978-4-641-24351-4 pp.2
- ^ a b c 山本桂一 1973, p. 22.
- ^ 土肥一史 2003, p. 228.
- ^ 土肥一史 2003, p. 275.
- ^ 土肥一史 2003, p. 229.
- ^ 著作権法要義 - 国立国会図書館デジタルコレクション(水野錬太郎、明治32年5月、国立国会図書館デジタルコレクション)
- ^ “e-Gov法令検索ー著作権法ー附則抄ー第1条(施行期日)”. 2022年3月25日閲覧。
- ^ 著作権法2条1項2号
- ^ 著作権法15条1項
- ^ b:著作権法第16条
- ^ b:著作権法第14条
- ^ p.10 of 文化庁著作権課. 令和4年度著作権テキスト. 文化庁公式HP. 2023-06-19閲覧.
- ^ "複製権は ... 全ての著作物が対象となり ... 著作物を「形のある物に再製する」(コピーする)ことに関する権利" p.14 of 文化庁著作権課. 令和4年度著作権テキスト. 文化庁公式HP. 2023-06-19閲覧.
- ^ 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 15.
- ^ 日本の著作権法に独特の規定。
- ^ a b c 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 16.
- ^ a b 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 17.
- ^ 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 18.
- ^ 著作権法63条1項
- ^ 北川善太郎京都大学法学部教授『ソフトウェアの使用と契約-開封契約批判』NBL435号11~12頁
- ^ b:著作権法第21条
- ^ a b c d 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 14.
- ^ b:著作権法第2条1項15号
- ^ 著作権法2条1項15号イ
- ^ 著作権法2条1項15号ロ
- ^ b:著作権法第49条
- ^ b:著作権法第79条
- ^ 岡田有花 (2017年10月10日). “「日本は機械学習パラダイス」 その理由は著作権法にあり”. ITmedia 2017年10月16日閲覧。
- ^ 潮海 2019, pp. 679–722.
- ^ 著作権法2条5項(文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 19)
- ^ 著作権法38条1項
- ^ a b c 半田、松田 2015a, p. 705.
- ^ 北朝鮮の作品に著作権保護義務なし 最高裁判決MSN産経ニュース、2011年12月8日
- ^ 著作権なるほど質問箱 - 文化庁
- ^ 米最高裁がGoogleの訴えを却下、OracleとのJava著作権訴訟で - ITPro・2015年6月30日
- ^ a b 第2節5款の制限は著作者人格権に影響しない(第50条)
- ^ 山本桂一 1973, p. 13.
- ^ a b 『著作権とは何か』 123頁。
- ^ 著作物が自由に使える場合は? - 著作権情報センター
- ^ 「一切の複製を禁じます」という著作権契約は有効か?:「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」について - 栗原潔のIT弁理士日記・2014年9月4日
- ^ 「いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について(解説資料)」 - 文化庁
- ^ 土肥一史 2003, p. 256.
- ^ 『著作権とは何か』 123・176-177頁。
- ^ 平成14年04月25日最高裁判所第一小法廷判決、民集第56巻4号808頁
- ^ 土肥一史 2003, pp. 257–258.
- ^ 土肥一史 2003, p. 257.
- ^ “著作権なるほど質問箱 - Q 公園に設置されている彫刻は、屋外の場所に恒常的に置いてある美術の著作物として、大幅な自由利用が認められていると考えていいのですか。”. 文化庁. 2019年4月15日閲覧。
- ^ 例: 「機械学習用データセットA」という著作物は情報解析という利用様態をそもそも取る。ゆえにAの著作財産権を「情報解析のための権利制限」で制限すると A の財産性が実質ゼロになってしまい、著作権者の利益を不当に害する。ゆえにこの権利制限は認められない。参考: 旧47条の7. 愛知. (2020). AI生成物・機械学習と著作権法. 日本弁理士会中央知的財産研究所 研究報告第48号 『超スマート社会(Society 5.0)』に適合する知的財産保護の制度のあり方.
- ^ "その必要と認められる限度において" 第30条の4
- ^ 文言上,「必要と認められる限度において」 と規定されている ... 情報解析の目的のために「必要」であればよい(上野達弘 2021)
- ^ "いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。" 第30条の4
- ^ あらゆる利用形態も権利制限の対象になり得る ... 「複製」... 公衆への譲渡・公衆送信・頒布といった利用行為も広く許容され得る (上野達弘 2021)
- ^ 例: 録音・録画技術の開発と試験
- ^ 多数の著作物から要素情報を解析すること。その主体に制限はない(ヒトやコンピュータといった制限無し)。 "今般の改正により,①電子計算機を用いない情報解析のための利用も許容される" 愛知. (2020). AI生成物・機械学習と著作権法. 日本弁理士会中央知的財産研究所 研究報告第48号 『超スマート社会(Society 5.0)』に適合する知的財産保護の制度のあり方.
- ^ "コンピュータの情報処理の過程で,バックエンドで著作物をコピーして,そのデータを人が全く知覚することなく利用する行為 ... 等が ... 挙げられる" 文化庁. 著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について. 2022-10-25閲覧.
- ^ "二次的著作物の作成を認める著作権制限規定に基づいて二次的著作物を生成した場合、同一性保持権侵害が成立するのではないかが問題となる。" p.587 より引用。小泉ら. (2023). 条解著作権法. 弘文堂.
- ^ 血液型と性格事件
- ^ "血液型と性格事件 ... 上記説示については、指示する学説もある" p.587 より引用。小泉ら. (2023). 条解著作権法. 弘文堂.
- ^ "より厳格に解する立場からは ... とするのは妥当でないとする指摘もある ... もっとも、後者の場合も、著作権制限規定が設けられた趣旨を損なわないようにするために ... 「原著作者の人格的利益が損なわれる特別の事情がない限りは、同一性保持権の侵害とはならないとの結論が導かれるべきである」 ... とする。" p.587 より引用。小泉ら. (2023). 条解著作権法. 弘文堂.
- ^ a b 高林龍 『標準 著作権法』(有斐閣、2010年)230頁
- ^ “著作権法第2条第1項第3号、第4号”. 2022年2月20日閲覧。
- ^ “著作権法第2条第1項第5号、第7号”. 2022年3月25日閲覧。
- ^ “著作権法第2条第1項第6号”. 2022年2月20日閲覧。
- ^ 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 32.
- ^ a b 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 33.
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- ^ “著作権法第95条の3第3項”. 2022年3月25日閲覧。
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- ^ “著作権法第96条の2”. 2022年3月25日閲覧。
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- ^ “著作権法第97条の3第1項”. 2022年3月25日閲覧。
- ^ “著作権法第97条”. 2022年3月25日閲覧。
- ^ “著作権法第97条の3第3項”. 2022年3月25日閲覧。
- ^ a b c 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 39,41.
- ^ 文化庁「著作権テキスト令和3年版」, p. 40,41.
- ^ “平成30年12月30日施行 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について | 文化庁”. www.bunka.go.jp. 2018年11月8日閲覧。
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- ^ 平成28年3月8日(火)定例閣議案件
- ^ 閣法 第190回国会 47 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案
- ^ “環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う 関係法律の整備に関する法律案の概要”. 内閣官房. (2016年3月)
- ^ 平成30年3月27日(火)定例閣議案件
- ^ a b “閣法 第196回国会 62 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案”. www.shugiin.go.jp. 2018年11月9日閲覧。
- ^ “環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付):本会議投票結果:参議院”. www.sangiin.go.jp. 2018年11月9日閲覧。
- ^ “CPTPP underway – tariff cuts for our exporters on December 30” (英語). The Beehive 2018年11月9日閲覧。
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- ^ “平成 23 年度 知的財産権侵害対策ワーキング・グループ等 侵害対策強化事業 (リーチサイト及びストレージサイトにおける 知的財産権侵害実態調査) 報告書”. 国立大学法人 電気通信大学. (2012年3月)
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- ^ “国境を越えるインターネット上の知財侵害への 対応について (討議用)”. 内閣官房 知的財産戦略推進事務局. (2016年4月)
- ^ “知的財産推進計画2016”. 内閣官房 知的財産戦略推進事務局. (2016年5月9日)
- ^ “改正著作権法が成立 漫画・書籍など違法DLの対象拡大 21年1月1日に施行”. ITmedia NEWS. 2020年6月13日閲覧。
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