脂肪肝 原因

脂肪肝

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/17 00:53 UTC 版)

原因

最も多い原因で、特にエタノール換算で20 (g/日)を超える大量飲酒は、しばしばアルコール性脂肪肝を引き起こす。
急性妊娠脂肪肝(AFLP)・HELLP症候群
  • 栄養摂取異常・摂食障害(過多 - 肥満、不足 - 飢餓、拒食症[18][25]、小腸外科手術後[26])、糖代謝異常[27]

診断

いくつかの検査と問診により診断を行う。

NAFLD/NASH 診断チャート[28]
脂肪肝・
肝障害
HBs 抗原, HVC 抗体
各種自己抗体など
有り ウイルス性肝疾患、
自己免疫性肝疾患
無し 飲酒歴 有り アルコール性肝障害
無し NAFLD 生肝検による
病理診断
非アルコール性脂肪性肝炎
(NASH)
非アルコール性脂肪肝
NAFL
  • 「日本消化器病学会 NAFLD/NASH 診療ガイドライン2014」[28]を引用し改変

血液検査

B型肝炎ウイルス(HBs 抗原)、C型肝炎ウイルス(HVC 抗体)、各種自己抗体(自己免疫性肝炎)などの検査を行い原疾患の鑑別を行う。アラニンアミノ基転移酵素 (ALT)やアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の血液検査の結果だけで、脂肪肝の診断は行えない。理由はウイルス性肝炎が原因となる脂肪肝では ALT、AST がときに、時に100 (IU/L)を越える高値になるのに対して、非アルコール性脂肪肝では ALT、AST の上昇程度は小さい[29]。また、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では肝細胞の線維化が進行して正常な肝細胞が少なくなると、ALTやASTの値はむしろ低下するためである[29]

検査 正常値 脂肪肝では?
AST(GOT) 10-40 IU/L 軽度上昇。過栄養では ALT > AST
ALT(GPT) 5-35 IU/L アルコール性の場合は AST > ALT
γ-GTP 50 IU/L以下 アルコール性脂肪肝では高くなる
コリンエステラーゼ 186-490 IU/L 過栄養で上昇する
総コレステロール 120-220 mg/dl 高くなる
中性脂肪 50-150 mg/dl 高くなる
血小板 13-37.9 万/μL[30] 20万/μL以下[31]

総合南東北病院資料[32]より引用し改変。

画像検査

  • エコー検査
    肝腎コントラスト上昇(hepatorenal contrast)」(腎よりも肝が高エコー)や「肝脾コントラスト上昇」(脾よりも肝が高エコー)が見られる。また深部減衰(deep attenuation)もみられる。肝臓は腫大し、肝右葉下端が右下極よりも尾側に位置することがある。超音波が斜めに入射する胆嚢壁では、壁が不明瞭化する「fatty boundless sign」もみられる。
    限局性に脂肪沈着が多い部分・少ない部分がある場合、腫瘍と鑑別を要する。鑑別点は、門脈など正常の脈管構造の有無などである。
  • CT
    肝の脂肪化に伴い肝実質が低吸収となる。肝/脾のCT値比が0.9以下で肝脂肪化30%の目安となるため、CT上はこれによって脂肪肝とされることが多い。脈管が肝実質より高吸収となることもある。
  • MRI

病理検査

非アルコール性の脂肪肝疾病(NAFLD)のマッソン・トリクロームおよびヴァーホフ染色による顕微鏡写真。大きな楕円形の空隙が脂肪滴、残った肝細胞は赤、死滅した細胞の痕に集まった線維が緑に染まっている。大きく膨らんだ脂肪滴が、圧迫により肝細胞のを変形させている。

肝生検にての病理組織所見は決定される。基本的には肝細胞の脂肪変性が認められる。

  • アルコール性脂肪肝
  • 非アルコール性脂肪肝
診断基準

観察者の判断差異や施設間差異の低減のため、下記表によるスコアリングによる病理診断(NAS: NAFLD Activity Score)が行われる事がある[28]

NAS (NAFLD Activity Score)
項目 程度 点数
肝脂肪化 5%未満 0点
5-33% 1点
33-66% 2点
66%以上 3点
小葉内炎症 病巣なし 0点
200倍の視野で2箇所の病巣以下 1点
200倍の視野で2-4箇所の病巣 2点
200倍の視野で4箇所以上の病巣 3点
肝細胞の風船様変化 なし 0点
少数の風船様変性細胞 1点
多数の風船様変性細胞 2点
診断 合計
脂肪肝 (NAFL) 0-2点
境界型 NASH 3-4点
非アルコール性脂肪肝炎 NASH 0-8点

更に、下記 Younossiの診断基準を併用する事がある[28]

  1. 肝細胞の脂肪化(程度は問わない)に加え小葉中心性の肝細胞の風船様変性(centrilobular ballooning)やMallory-Denk体を認めるもの。
  2. 肝細胞の脂肪化に加え小葉中心性の細胞周囲/類洞周囲(pericellular/perisinusoidal)の線維化または架橋形成(bridging fibrosis)を認めるもの。

以上 1.または 2.を満たす場合NASHと定義する。

病態

炭水化物や糖分はグルコースに分解され生体活動で消費されるが、余剰分は中性脂肪脂に合成され肝細胞中に蓄積される。砂糖が分解してできる果糖は、量に依存する肝毒性を示す。果糖は、肝臓でのみ代謝される。この理由として、果糖はグルコースに比べ開環率が高く(約10倍も糖化反応に使われやすいため[33])、生体への毒性はグルコースよりも遥かに高い。この毒性を早く消す目的で、肝臓はグルコースよりも果糖を優先的に処理する[34]。果糖は、肝臓や骨格筋にインスリン抵抗性を引き起こす。インスリン抵抗性が生じると、膵臓からのインスリン分泌が促される。過剰なインスリンによる高インスリン血症は、各種の臓器障害をもたらす。例えば、脂質異常症や肝臓の炎症をもたらす[35][36]

これとは逆に、例えば拒食症などによって、生体の飢餓状態が長期にわたって続いた場合も、肝細胞内に脂肪が蓄積して、脂肪肝になることがある。

脂肪肝においては、血清フェリチンの増加がしばしばみられ、脂肪肝のなかでも非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) を含んだ非アルコール性脂肪性肝疾患では、肝組織内の鉄の過剰が肝障害の増悪因子と考えられている[37]


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