神戸連続児童殺傷事件
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マスコミ報道の様子
被害少年の首が学校の校門に晒されるという猟奇的な事件であった点から、マスコミはこの事件の報道を連日行った。この事件は海外においても報道の対象になっている。
犯人像
読売新聞大阪本社版の朝刊では「劇画やアニメの影響を受けた無口な犯人」と報道した[86]。言語学者からは、挑戦状に出てくる難しい熟語は劇画では頻繁に登場し、長文ながら口語調がほとんどない点について、犯人が日頃会話が少ないことの表れと分析している[87]。
朝日新聞には多数の意見が寄せられ、「高い教育程度」「孤独な30代」「複数の可能性」などの犯人像が報じられた[88]。
犯行声明文の文章の組み立ても論理的なことから高い教育を受けている[88]。—弁護士
年齢は30歳代と思う。10代や20代の若者では、声明文にあった「銜える」などの漢字を使おうという発想を持たないだろうし、逆にあえてこの漢字を使ったところに若さが抜けない30代ならではの背伸びを感じる[88]。—作家
単独犯人説が強いが、私はあえて知的レベルの高い複数犯と考える[88]。—作家
南京錠
5月30日付の朝日新聞大阪本社版の朝刊で「金物店に同型の南京錠求める不審な男性」が浮上と報道した[89]。男性は30代半ばで身長165センチ、ベージュの作業着に紺色のズボンと報道[89]。
読売新聞でも、アンテナ基地の南京錠と同じメーカーの錠を求めて5月初め、垂水区内の金物店を訪れた男は30-40歳と報道[89]。
しかし、6月23日付の産経新聞で、捜査本部が南京錠を購入するための金物店を訪れた2人の男性は無関係と報道した[89]。したがって、「南京錠を探していた男」の線は無くなった[89]。
スクーター
6月2日付の朝日新聞で「不審なスクーター目撃、『タンク山』へ向かう」という見出しが掲載された[90]。記事によると、タンク山の入り口付近で遺体が発見された前日の5月26日夕方、スクーターで山に向かう不審な男性が目撃されているという[90]。運転していた男性は40代で身長170センチ、眼鏡はかけておらず、白色のジャンパー姿だったという[90]。しかし、スクーターの男性が名乗り出たため、事件とは無関係と判明した[90]。
ところが、6月7日付の毎日新聞で、再びスクーターの男が浮上[90]。頭部が遺棄された時間帯に目撃された不審なスクーターがあるという情報が寄せられた[90]。当日は晴れていたにもかかわらず、紺色の雨合羽上下を着用し、つばのある黒いヘルメットをかぶっていた[90]。この男が、前かごから黒いポリ袋を落として走り去ったという[90]。その後の報道で、この男は黒いポリ袋をさげて歩いていた男と同一人物ではないかとされた[90]。
一旦は車説が浮上したためスクーター説がなくなったが、再浮上。6月23日付の朝日新聞で、「二輪車タイヤ痕採取」と報道[91]。頭部が置かれる直前の5月27日早朝、正門付近を猛スピードで走るスクーターが目撃されているころが判明[91]。黒のブルーバードに加えてスクーターについても事件に関連している疑いがあるとみて特定を急いでいる、と報道された[91]。しかし、この後にスクーターに関する新たな目撃談は取り上げられなかった[91]。
車
犯行に使用された車として多くの目撃情報が寄せられたのが「黒のセダン」と「白い車」であった[92]。不審車の目撃情報を追ったのは、被害者と犯人が路上で一緒にいるところを見たものがいないこと、被害者がいつも愛用している自転車を使わなかったこと、などから犯人が車を使って拉致したと考えたからである[92]。
まず、浮かび上がったのは「黒のセダン」で、新聞各社が、被害者の頭部が遺棄された5月27日午前5時過ぎ、友が丘中学校正門前で不審な旧式の黒い乗用車が目撃されている、と報じられた[92]。さらに、被害者が行方不明になった5月24日の昼過ぎにも、自宅マンション近くに黒っぽい不審な乗用車が停止しているのを近くの住民が目撃していた[92]。
また、胴体部が発見された「タンク山」のふもと付近の市道でも、事件前の5月22・23日の夜間に2日続けて黒い乗用車が停止しているのを近くの主婦が目撃したと報道[92]。この「黒のセダン」が犯行に使われた可能性が高いとして一気にクローズアップされた[92]。タンク山のふもと付近では、不審な中高年の目撃証言もあり、毎日新聞によれば、男は35-40歳、身長160-170センチで短髪のがっちり形で、目がぱっちりしているのが特徴だという[92]。
そして、6月12日付の朝日新聞大阪本社版で、被害者の自宅周辺などで相次いで目撃された不審な黒い乗用車について、捜査本部は、角張った車体の特徴などから、車種を旧型の日産ブルーバードと特定した、と報道した[93]。
その一方で、注目されたのが「白い車」だった[93]。頭部が発見された5月27日早朝、友が丘中学校付近で白いワゴン車が目撃されているという[93]。6月9日付の産経新聞では、最も重要視しているのは白っぽい車を使った身長170センチ前後、20-40歳の男と報道[93]。「黒のセダン」と「白のワゴン」の2台の不審車両の割り出しが犯人逮捕につながると各社は取材につとめた[93]。
黒い袋の男
マスコミは逮捕直前まで、「黒い袋の男」を追いかけていた[94]。5月28日付の産経新聞夕刊で、30歳くらいの不審者が頭部が発見された中学校正門前で目撃されたという情報が報じられた[94]。目撃された男は30歳代くらいで身長170-180センチで白っぽい上着を着用[94]。普段歩かない車道を歩いていたため不審に思ったという[94]。
5月31日付の読売新聞朝刊では、中学通用口にゴミ袋を持ってかがみ込んでいる不審な30歳代の男について報道[94]。
6月3日付の朝日新聞夕刊で「中学校校門近くに黒い袋持つ男」の目撃証言を掲載[94]。男は40歳前後、身長170センチぐらい[94]。続けて6月9日付の朝刊に「黒い袋の男、3度目撃」と報じた[95]。目撃された日はゴミ収集日ではないこと、男の行動は極めて不自然として捜査本部も強い関心を寄せているとし、犯人である可能性が高いことを匂わせたという[96]。
6月24日付の朝日新聞で、「『黒い袋の男』最重要視」と報道[96]。
犯人像として浮かび上がったのは「30-40歳、身長170センチ前後」と各社ともだいたい同じだったが、最も具体的なのは読売新聞だった[96]。6月13日付朝刊で、「目撃証言のゴミ袋男はスポーツ刈り 後ろ姿の絵作成へ」とゴミ袋の男がスポーツ刈りだったと報じられた[96]。新聞によれば、捜査本部は数回に及ぶ事情聴取の結果、スポーツ刈りで、がっちりした体格の男との証言を得たという[96]。2日後には、行方不明になる前後にタンク山にいた不審な男の目撃証言も取り上げた[96]。この男の特徴も角刈り風の短髪、がっちりした体つきで目付きが鋭く、ゴミ袋の男と酷似している、と報じている[96]。
産経新聞でも、ゴミ袋の男は身長170センチ前後の筋肉質で横わけできないほどの短髪であると報道[96]。さらに、新たな目撃証言では、がっしりした体格でホームベース形の角張った顔、短髪という具体的な犯人像が浮かび上がった[97]。「ホームベース形の角張った顔」「横わけできないほどの短髪」という目撃情報が加わることにより、犯人像がどんどんひとり歩きした[98]。
6月24日付読売新聞では、兵庫県警察捜査本部は犯人像を「二十代から四十代前半までの身長一メートル七〇前後、スポーツ刈りの男」との見方を強め、不審者を約40人に絞りこんだ模様、と報じている[98]。
テレビ、週刊誌も新聞同様に「黒のブルーバード」「白いワゴン」「30-40歳の短髪男性」などをキーワードに犯人像の特定に励んだという[98]。
6月中旬、あるスポーツ紙が「本誌が全身像を作成」と独自に犯人のイラストを掲載[98]。「不審な30-40歳の男」は自社取材で肉付きがよく引き締まった顔、きつい目、首と腕が太い、などの特徴があることがわかったとし、それらのデータを元に全身像を作成した、という[98]。夕刊紙にも、スポーツ紙と似た「(本紙が)目撃情報をもとに独自に作製した『酒鬼薔薇聖斗』の似顔絵」をカラーで掲載[98]。
さらに、民放のワイドショー番組でも似顔絵を数種類作製し、不審人物を目撃したという市民に見せて回るという犯人捜しが行われた[91]。
右利きと左利き
5月29日付の産経新聞では「犯人は左利きか」という記事を掲載[93]。3月の連続通り魔事件では、重傷を負った女児のけがの特徴から犯人が左利きである可能性も指摘されているとし、犯人が残した挑戦状は、この特徴を隠すために定規を使ったのではないかと推測している[99]。
その一方で、6月17日付の朝日新聞大阪本社版では「犯人は右利きか 遺体の舌の骨折れず」と報じた[100]。両手で首を絞めた場合、強い力が加わり舌骨が折れることが多いが、被害者の首には右手の指の跡しか残っておらず、捜査本部は、犯人の利き腕が右手であると見ている、と報じた[100]。
なお、Aは右利きである。
その他
中国語
台北発として産経新聞は「挑戦状の一部が中国語と符合」と報じた[100]。記事によれば、犯人が被害者に残した挑戦状に中国語と類似する表現が含まれていることが、犯罪問題に詳しい台湾筋などで指摘されているという[100]。被害者の口に残されたメモには「酒鬼薔薇聖斗」など、日常の日本語とはかけはなれた感じの表記が多く見られるという[100]。台湾筋の指摘によると、「酒鬼」は「大酒飲み」を意味する標準中国語(北京語)の口語表現、「学校殺死」として登場する「殺死」も、「殺害する」という意味の動詞であり、中日大辞典は「殺死」の項目で「首を切り落として殺すことをいうことが多い」と説明している[101]。しかし、挑戦状の新しい解釈として興味をひかれたものの、犯人との結びつきについては言及していない[94]。
ニュースでの光景
Aが逮捕された数時間後、須磨警察署からのニュース報道が行われたが、レポーターの背後に群がっていた野次馬に紛れた、茶髪の少年がピースサインをしたり携帯電話で電話しているという姿が映し出された[102]。
この光景に対して、神戸小学生殺人事件を考える会が行った調査では、半数以上が「馬鹿・恥知らず」という回答だった[102][103]。「馬鹿の見本市のようだった」「あの時間に須磨にいるのだから、全員が地元の子だろう。地元にいて、なぜあんなことができるのか。考える頭がないのでは?」「ことの重大さがわかっていない。親の顔が見たい」という意見があった[103]。また、「恥ずかしい・情けない」と答えた10代の回答者も多くいた[102][103]。「ピースサインはまだしも、携帯をかけていたのにはびっくりした。友達に『俺、映ってる?』と言ったのだろうが、見ているこっちが恥ずかしくなった」「最近の若者は馬鹿、と言われても仕方がないと思った」「酒鬼薔薇と同じように、あの少年たちの顔もモザイクでもかけてやったほうがいい。あんなにばっちり顔が映っては、将来に傷がつく」などの意見があった[103]。その一方で、「あれが普通の少年」という回答もあった[102][103]。「子供を殺しているよりは罪がない」「いつでもどこでもああいう子供たちはいる。無邪気で健全といえないこともない」といった意見も見受けられた[103]。また、他には「友が丘中学、タンク山近辺は他府県ナンバーの車が観光にやってきている。中学の校門前で、記念撮影している大人もいた。震災直後に崩壊した建物の前で記念撮影をしていた人たちを思い出した」といった意見もあった[103]。
アメリカでの報道
事件当初、アメリカでは大した規模での報道は行われていなかった[104]。しかし、犯人が14歳の中学生と分かった翌日の6月29日に各紙で取り上げられた[104]。日本社会に大きな影響を与えた事件として、事件の全容を概括している[104]。
1ヵ月前に発生した猟奇的殺害事件は、比較的凶悪犯罪の少ない日本全体を震撼させる大事件であり、橋本総理も解決に全力を傾けるよう、警察当局に指示を与えていた。犯人は警察や新聞に「殺人が楽しくてたまらない」など挑戦状を送り付け、次の犯行予告まで行い、犯罪心理学者らはその犯人像を20-40歳と推測していた。
警察当局は500人の警官を投入して遂に被疑者逮捕にこぎ着けたが、発表によると被疑者は同地区に居住する14歳の中学生ということであった。この地域は最近、猫が殺されるなど残虐行為の痕跡があり、これをつめることが逮捕に至ったようだ。
容疑者逮捕は一応、人々の心を落ち着かせたようだが、容疑者が14歳であるという事実が再度、国中に衝撃を与えているようだ。社会の風潮、インターネットなど、今度はかかる若年者を殺人者に仕立てていく日本の内部構造の解明が新たな要望として浮上してくる[105]。 — ワシントン・ポスト
日本をゆるがした小学生殺人・遺棄事件で、日本社会全体をはじめ警察をも犯人を凶悪な大人と想定して調査を続けてきたが、28日、この事件は14歳の中学三年生が容疑者として連行され、事情聴取の末、自白に追い込むという結末を迎えた。日本では19歳以下を少年法対象として保護するが、本件犯人も少年で刑事被告の対象とならない。最終的には20歳までの保護処分といったことになろう。
日本はこの事件のショックに動揺し、改めて家庭、社会、教育に関する議論が活発となる。10代の倫理道徳に関する議論も盛んとなっている。だが、日本の犯罪は統計的に見れば欧米のそれよりも遥かに低い[106]。 — ニューヨーク・タイムズ
日本中を騒がせた猟奇殺人事件で14歳の中学生が容疑者として逮捕された。
少年は被害者の知己であり、地域社会の普通の中学生である。この犯人は書状を新聞社などに送り付け、捜査を混乱させるとともに、世間には変質的な大人の犯行を思わせてきた。
近隣の住民は犯人逮捕に安堵したと同時に、それが地域内の少年であった事実にショックを隠せない。警察は当初から大人数の捜査官を投入していたが、鳩や小動物を殺していた学生を犯人として追い込んだ手順に関してはその説明を拒否している[107]。 — ワシントン・タイムズ
注釈
- ^ 神戸新聞社は、声明文と封筒のコピーをそのまま公開すれば、犯人の意思を世間に流布する行為となってしまう点や、筆跡などにより人物が絞られ、捜査に支障をきたす可能性に考慮し、ワープロで清書した物を他の報道機関などに公開、原文と封筒を写真撮影後、警察に提出した。
- ^ 神戸市須磨区友が丘八丁目204番地
- ^ a b c 少年Aの顔写真(無加工)が掲載された『FOCUS』(1997年7月9日号)は、第17巻第27号(通号:第795号)。
- ^ a b 少年Aの顔写真(目隠し加工入り)が掲載された『週刊新潮』(1997年7月10日号)は、第42巻第26号(通号:第2111号)。
- ^ 法務省は、顔写真に目隠し加工をした『週刊新潮』についても、「正面から写されたもので、容貌から本人であることを十分特定しうるため、少年法第61条に違反する」と判断した[111]。
- ^ 元少年は都内に居住しているとみられるが、『週刊文春』への封書は長野県の岡谷市から投函されている[154]。なお、同封されていたDVD-Rに保存された同内容のワードファイルの更新日時は、8月19日19時49分となっている[154]。
出典
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