百武彗星 (C/1996 B2) 百武彗星 (C/1996 B2)の概要

百武彗星 (C/1996 B2)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/21 14:40 UTC 版)

百武彗星
Hyakutake
1996年3月25日撮影
仮符号・別名 C/1996 B2
分類 彗星
軌道要素と性質
元期:J2000.0, 1996年11月13日UT
軌道長半径 (a) 2348.0650 AU
近日点距離 (q) 0.23020430 AU
遠日点距離 (Q) 3410 AU[1]
離心率 (e) 0.99990196
公転周期 (P) 113,782年
軌道傾斜角 (i) 124.92271度
近日点引数 (ω) 130.17293度
昇交点黄経 (Ω) 188.05770度
前回近日点通過 1996年5月1.39253日(UT)
次回近日点通過 115,778年ごろ
発見
発見日 1996年1月31日JST
発見者 百武裕司
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概要

百武彗星は、1996年1月の発見から2ヶ月後の同年3月に、地球に非常に近い距離を通過した。百武彗星は「1996年の大彗星(The Great Comet of 1996)」とも呼ばれ、過去200年間で地球に最も近づいた彗星の一つである。このため、地球から見た彗星の光度は非常に明るくなり、世界中で多くの人々がこの彗星を観測した。その人気は、翌年に大彗星となることが前年から待望され、当時木星軌道付近まで近づいていたヘール・ボップ彗星を一時的に凌ぐこととなった。しかし、百武彗星が最も明るかった期間はわずか数日間に終わった。

百武彗星の科学的観測によって、いくつかの大きな発見がなされた。彗星研究者にとって最も驚きだったのは、彗星からのX線の放射が発見されたことであった。百武彗星は、彗星からのX線放射が見つかった初めての例である。このX線は、太陽風に含まれる荷電粒子が彗星のコマの中性原子と相互作用することで放射されると考えられている。また、太陽探査機ユリシーズは百武彗星のから5億km以上離れた距離で偶然にもこの彗星の尾の中を通過した。このことから、百武彗星がこれまで知られていた彗星の中で最も長い尾を持つことが確認された。

百武彗星は長周期彗星である。前回太陽系内を通過する以前にはその軌道周期は約15,000年であったが、太陽系の巨大惑星からの重力的影響によって現在ではこの周期は約72,000年に延びている。

発見

百武彗星は、1996年1月31日(JST)に日本のアマチュア天文家百武裕司によって発見された。百武はそれまで福岡県で数年にわたって彗星捜索を行なっており、農村地域のより暗い空を求めて1993年鹿児島県に転居した。百武彗星の発見時、百武は強力な25x150双眼鏡で掃天捜索していた。

後に大彗星となる百武彗星 (C/1996 B2) は、百武が2番目に発見した彗星で、この発見のわずか数週間前の1995年12月26日(JST)に、百武は最初の彗星 C/1995 Y1 を発見していた[1]。1月31日、百武はこの最初の彗星(この彗星は肉眼等級になることはなかった)を再観測していた時に、たまたま第一の彗星の発見位置近くの空を眺めた。驚いたことにその天域にはもう一つ別の彗星がいた。この第二の彗星の位置は第一の彗星の発見位置から3度ほどしか離れていなかった[2]。百武は、第一の彗星発見のすぐ後にもう一つ彗星を発見するなどとはほとんど信じられなかったが、翌朝に自分の観測データを国立天文台に報告した。その日の遅くになって百武の発見は別の独立観測によって確認された。

このように百武の名前が命名された彗星が2個存在するため、区別するために C/1996 B2 を非公式に百武第二彗星と呼ぶ場合がある。これは基本的には2回以上の回帰が観測された周期彗星に用いる命名方法であるため正式なものではないが、天文ファンや公共天文台の一般向け資料などで用いられる場合がある。

百武彗星は発見時の光度が11.0で、コマの大きさは約2.5分角だった。発見当時、彗星は太陽から約2AUの距離にあった。後に、この彗星の発見前の像が1月1日に撮影された写真上で見つかった。この時彗星は太陽から約2.4AUの距離にあり、光度は13.3等だった。

軌道

百武彗星の軌道が最初に計算されると、この彗星は3月25日に地球からわずか0.1AUという近距離を通過することが明らかとなった。これよりも近い距離まで接近した彗星は過去100年間で3個しか存在しない。当時はヘール・ボップ彗星が大彗星になる可能性が既に議論されていたため、百武彗星も明るくなるであろうことが天文学のコミュニティで知られるようになるまでにはやや時間がかかった。しかしこれだけ地球に近づくということは、百武彗星が大彗星になる可能性が非常に大きいことを意味していた。

この彗星が明るくなると予想されたもう一つの材料として、彗星の軌道から考えてこの彗星は前回約17,000年前に太陽系内部に回帰していると分かった点が挙げられる。このことは、百武彗星が軌道周期数百万年というオールトの雲から初めてやって来た彗星ではなく、おそらく過去に数回太陽に近づいていることを意味している。太陽系内部に初めてやってくる彗星は初めは急速に増光するが、太陽に接近するにつれて核表面にある揮発性物質の層が蒸発するためにかえって暗くなってしまう。1973年コホーテク彗星がこの典型例で、当初は世紀の大彗星として宣伝されたが、実際には中程度の光度にしかならなかった。これに対して古い彗星の場合にはより一貫した予測可能な増光パターンを見せるものが多い。

また、地球に極めて近づくことに加えて、この彗星の軌道から、この彗星は地球最接近の頃には北極星に非常に近い位置を通過するため、北半球から一晩中見られることが分かった。ほとんどの彗星は最大光度の時期には天球上で太陽に近づいているため、薄明のない暗夜の時間帯には観測できないのが普通である。


  1. ^ Horizons output (2011-01-30). "Barycentric Osculating Orbital Elements for Comet Hyakutake (C/1996 B2)". Archived from the original on July 3, 2013. Retrieved 2011-01-30. (Horizons)
  2. ^ Irvine, W. M., et al. (1996) "Spectroscopic evidence for interstellar ices in comet Hyakutake." 03 October 1996, Nature, 383, 418‒420.
  3. ^ a b 菅原春菜、「彗星の有機分子とその物質進化への役割」 『地球化学』 2016年 50巻 2号 p.77-96, doi:10.14934/chikyukagaku.50.77
  4. ^ Lis, D. C., Keene, J., Young, K., Phillips, T. G., Bockelée-Morvan, D., Crovisier, J., Schilke, P., Goldsmith, P. F. and Bergin, E. A. (1997a) "Spectroscopic observations of comet C/1996 B2 (Hyakutake) with the Caltech Submillimeter Observatory." Icarus, 130, 355‒372., doi:10.1006/icar.1997.5833
  5. ^ Woodney, K. M., McMullin, J. and AHean, M. F. (1997), "Detection of OCS in comet Hyakutake (C/1996 B2)." Planetary and Space Science, 56, 717‒719., doi:10.1016/S0032-0633(97)00076-7
  6. ^ C. M. Lisse, K. Dennerl, J. Englhauser, M. Harden, F. E. Marshall, M. J. Mumma, R. Petre, J. P. Pye, M. J. Ricketts, J. Schmitt, J. Trümper, R. G. West, others (1996). “Discovery of X-ray and Extreme Ultraviolet Emission from Comet C/Hyakutake 1996 B2”. Science (American Association for the Advancement of Science) 274 (5285): 205-209. doi:10.1126/science.274.5285.205. https://doi.org/10.1126/science.274.5285.205. 


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