火力発電所
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/07 08:30 UTC 版)
火力発電所の歴史
世界初の商用発電所は、トーマス・エジソンにより建設され、1882年9月から稼働したニューヨーク・マンハッタンのパール・ストリートの火力発電所であった。当時の動力は石炭燃料による175HPの往復動式蒸気機関であった。電灯需要地に近いエリアへ直流送電するため都市内に建設されたものである。
1880年代後期にはニコラ・テスラとウェスティングハウス・エレクトリックによる高圧交流送電技術の実用化が進み、火力発電所も都市外縁部や郊外で冷却水の確保に有利な河川沿いや沿海部に展開されるようになった。またこれと軌を一にした水力発電技術の進歩、長距離高圧送電技術の向上に伴い、世界各国で火力発電と水力発電を併用して需給調整に応える手法が広まった。
その後、より高速で大型化に適した蒸気タービンが1890年代以降に実用化され、火力発電に利用されるようになると、火力発電所の大型化が進んだ。水力発電に比して立地の自由度が高いこと、石炭のほかに石油・天然ガスなど多様な燃料を利用し得ること、需要に応じた拡張が技術的に容易なことから、水力発電の好適地以外では発電手段の主流となっている。
1970年代には石油危機により石油代替エネルギーとして原子力発電の利用が促進されたものの、1990年代以降になると先進国での原子力開発が鈍化した結果、原子力発電の伸び率は年平均約0.6%と鈍化した[2]。
2016年の世界の電源設備容量の発電設備構成の比率では火力発電が最も大きく61.6%となっている。また、2016年の世界の発電電力量では、石炭火力が38.4%、石油火力が3.7%、ガス火力が23.2%という比率となっている[3]。
2010年代には地球温暖化対策の視点などから、二酸化炭素の排出量の多い石炭火力からの脱却が求められるようになった。2016年に行われた第22回気候変動枠組条約締約国会議(COP22)に合わせ、フランスは2023年、イギリスは2025年、カナダは2030年までに石炭火力を廃止する方針を打ち出したが[4]、日本は東日本大震災の影響で原子力発電所の再開ができず、代替エネルギーの確保に追われていた状況から抜本的な方針を打ち出せずにいた。ようやく2018年に新規石炭火力発電所の設置に規制を掛ける方針を示したが[5]、2019年の第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)では、集中的な非難を浴びることとなった[6]。
2017年に誕生したアメリカのドナルド・トランプ大統領は、地球温暖化問題に懐疑的で、従来型の経済活動を阻害するパリ協定から離脱するなど二酸化炭素の排出問題に後ろ向きな姿勢を示していたが、同時期、アメリカ国内ではコスト的な問題などから多くの石炭火力発電所が閉鎖されていった[7]。トランプ大統領が2020年アメリカ合衆国大統領選挙で敗れ、ジョー・バイデン政権が誕生するとアメリカも政策転換が図られ[8]、世界的に石炭火力発電所の風当たりは増すこととなった[9]。
長所と短所
- ^ 九電出資火力に環境相異議、千葉に建設計画 - 読売新聞、2015年8月29日、9月10日閲覧
- ^ 「平成30年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2019)第3節 二次エネルギーの動向 資源エネルギー庁、2020年5月2日閲覧。
- ^ “第3節 二次エネルギーの動向”. 経済産業省. 2019年12月28日閲覧。
- ^ “石炭火力「全廃」へ、英国・フランス・カナダ”. スマートジャパン (2016年11月24日). 2021年5月3日閲覧。
- ^ “石炭火力の新設規制、小型は事実上禁止に 経産省”. 日本経済新聞 (2018年7月25日). 2021年5月3日閲覧。
- ^ “COP25、CO2排出量首位の中国をスルーで日本叩きの「謎」「日本だけ非難されるのはおかしい」の声”. zakzak (2019年12月13日). 2021年5月3日閲覧。
- ^ “米国の石炭火力発電所、トランプ政権下で50か所閉鎖 新設わずか1か所” (2019年5月10日). 2021年5月3日閲覧。
- ^ “バイデン新大統領 “パリ協定復帰” 署名 政策転換をアピール”. NHK (2021年1月21日). 2021年5月3日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会. “大手金融グループ 脱炭素で石炭火力発電所向け融資停止へ”. NHKニュース. 2021年5月17日閲覧。
- ^ a b “橘湾火力発電所 | 火力発電所開放イベント開催予定”. www.jpower.co.jp. 電源開発. 2020年5月3日閲覧。
- ^ “発電設備と発電電力量”. www.fepc.or.jp. 電気事業連合会. 2020年5月3日閲覧。
- ^ a b c d e f 経済産業省 資源エネルギー庁「第5次エネルギー基本計画」, 2018年7月, 20-22頁
- ^ a b c d e “戦後日本のイノベーション100選 現代まで 高効率石炭火力発電”. koueki.jiii.or.jp. 公益社団法人発明協会. 2020年4月15日閲覧。
- ^ 石炭火力発電の石炭に関する放射線規制免除について
- ^ “日本の石炭火力発電所はクリーン | もっと知ってほしい石炭火力発電”. www.jpower.co.jp. 電源開発. 2020年5月3日閲覧。
- ^ “北京周辺の石炭消費、大気汚染悪化の原因に=11年に1万人死亡―中国”. レコードチャイナ (レコードチャイナ). (2013年6月20日) 2013年7月5日閲覧。
- ^ “大阪製油所の精製停止へ JXTG、発電事業に転換”. 共同通信 (2019年7月23日). 2019年7月23日閲覧。
- ^ 実際、沖縄ガスでは、沖縄電力保有の天然ガスを購入という所で2015年と遅めながら沖縄県で初めて天然ガスに転換している。
- ^ a b “40MW級アンモニア専焼火力発電、三菱パワーが2025年にも”. 日経クロステック. 2021年6月19日閲覧。
- ^ “世界初,2,000kW級ガスタービンで液体アンモニアの70%混焼に成功 ~航空エンジン技術の応用により,安定燃焼が困難な液体アンモニアの燃焼技術を開発~”. IHI. 2021年6月15日閲覧。
- ^ 「わが国における「石油火力発電」の扱いと石油業界の考え方について」 (PDF) 石油連盟
- ^ 経済産業省資源エネルギー庁・ガス事業部「電源開発の概要」
- ^ “次世代⽕⼒発電協議会 (第5回会合資料)” (PDF). 経済産業省. 2019年3月13日閲覧。
- ^ “中国に石炭火力発電所がさらに464基建設されたら韓国はどうなるのか”. 朝鮮日報 (2019年3月9日). 2019年3月13日閲覧。
- ^ “【第223-1-6】主要国の発電電力量と発電電力量に占める各電源の割合(2016年)”. 経済産業省. 2019年12月28日閲覧。
- ^ “主要国の電源別発電電力量の比率”. 電気事業連合会. 2019年7月9日閲覧。
- 1 火力発電所とは
- 2 火力発電所の概要
- 3 火力発電所の分類
- 4 日本の火力発電所
- 5 中国の火力発電所
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