手拭
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 23:27 UTC 版)
手ぬぐいの被り方
頭に冠した「鉢巻き」と、頭を被い後頭部で結ぶ「姉さん被り」と、頭と頬を被った「頬被り」と、乗せただけで、結ばない「着流し」のおおよそ4つに分類できる。被り方には男性だけのものや、女性だけのものがあり、女性においては年齢によっても被り方が区別されている。下記のほか被り方の詳細はわからないが、「道心被り」というものもある。日本髪から大きく変わったこともあり、被り方の名称は時代とともに変化した可能性がある。時代とともに変化した(姉さん被り、塵除け、田舎女)、そのためか混同している(米屋被り、巻被り、喧嘩被り)などもある。かぶりは「冠り」とも表記する。
歌舞伎においては、演じる役柄によって被り方が決められているものもあり、鉢巻きについては助六の紫を始めとし、白・樺色・紅などの色が指定されている場合もある。
手拭が新しい若しくは糊がかかって「ぱりっと」しているのか、使い古して「よれっと」しているのかによって、出来る被り方と出来ない被り方がある。頭頂部に折り目を施して山形に見せたり庇を出したり、被る前の手拭の用い方もそうであるが、特に結んだ後の端(耳ともいう)の処理が、そのまま「捻じる」、「縒る」、「折り畳む」など色々あり、そこから「上に突き出す」、「斜め上に突き出す」、二本まとめて「一本に見せて突き出す」、両端を真っ直ぐ横に突き出し「真一文字に見せたり」と、様々な処理の仕方があり、各々の被り方に更に細かい種類を作り出し、名称の有るもの無いものも合わせ、個人個人の気風を体現するかのように無数に存在した。
鉢巻き
- 紐状にして鉢に巻く
- 鉢巻 - 四つ折りなど、帯状にして鉢巻にし後ろで結ぶ。
- 向う鉢巻 - 四つ折りなど、帯状にして鉢巻きにし前で結ぶ。前で結んだ際に端を一本にまとめて、上に突き出してカブトムシの角(つの)の様にしたり、その結び目をちょっと中央からずらすなどの、結びと端の処理があるが、これらは髷の位置との兼ね合いから髷と手拭の端が、重なって見えないように工夫したためと考えられる。向こう見ず(むこうみず)や向こうに回す(むこうにまわす)、向かって行くという表現から、「向う鉢巻き」を「喧嘩巻き」とする解釈もある。
- 喧嘩鉢巻 - 捻じって紐状にして、前で結ぶ。江戸時代から鳶職に代表される被り方。
- 横鉢巻 - 四つ折りなど、帯状にして鉢巻きにし横で結ぶ。
- 捻り鉢巻 - 捻って紐状にして鉢巻きにし結ぶ。
- お三輪巻 - 日本髪を結った女性の鉢巻きで、後ろの髷の下からまわして、額ではなく前髪のふくらみの後ろと、髷の間で結ぶ形の鉢巻き。画像の歌麿画:『汗を拭く女』も参照。
- 病鉢巻 - 四つ折りなど、帯状にして鉢巻きにし横で結んだあと両端を下に垂らす。歌舞伎や人形浄瑠璃で病気や恋煩いをしている人を疑似的に象徴するための装束として使われている。
- 紐状にしないで鉢に巻く
- 子守被り - 後頭部を広く被い端を前頭部で結び端を開く。子守をしている少女がした被り方。
- 喧嘩被り - 現在では、頭を被い両端を捻じって後ろで結ぶ、または頭を被い両端を後ろで結ぶとなっているが、歌舞伎においては巻被りの被り方で、片方の端を上に立てた形を喧嘩被りとしていて、この形は喧嘩被りの一種になっている。
- 道中被り(どうちゅうかぶり) - 筒状にして被り、上端を両端から折って三角形にし、前に倒す。
- 巻被り - 左右どちらかから手拭を頭に巻きつけ筒状にして被り、端を頭頂部で巻き込んで折りたたむ。この被り方は『 近世風俗志 』に記載されているが、名称は「米屋被り」とされ、歌舞伎においてはこの巻被りの被り方で、片方の端を上に立てた形を「喧嘩被り」としている。
- 名称不明 - 物売りなどがよくした被り方があり、前から頭を被い後ろで、両端を交差させ、また前頭部に持っていき、端は四折りにして結び、結びの成りで上を向く方は上にし、下を向く方の端を上に折り返し鉢に巻いた手拭の下から通して上に出すというものもある。江戸の下町などでは、この形を「米屋被り」としているところもある。
姉さん被り
- 姉さん被り - 姉さん被りといわれるものは、現在では田舎女の形を指すが、塵除け(角隠しの形で頭頂部が被われたもの)といわれる形が、姉さん被りであった。これは、日本女性の髪形が日本髪から変化してきたため、塵除けが少なくなっていったためと考えられる。塵除けにしても田舎女にしても、前から手拭で被い、日本髪が崩れないような、乗せるような緩い被り方で、「さっ」と脱ぐこともできるという点においては共通している。
- 吉原被り - 大尽被り(だいじんかぶり)・大臣かぶり(おとどかぶり)ともいい、手拭を二つ折、若しくは四つ折りにして額の上では山折りに折り目を付け、後ろで結ぶ。額の庇となる部分を頭頂部に向かって、折り返すやり方などもあり、前の結んでいない方の両端は両横に垂らすか跳ね上げるなどの応用もある。
頬被り
- 頬被り - (ほおかむり・ほっかぶり・ほっかむり)ともいい「頬冠り」とも表記する。頭から被り顎の下で結ぶ。
- 火男被り(ひょっとこかぶり) - とうなすかぶり(南瓜被り・唐茄子被り)ともいい、真新しいものや糊を利かせた手拭を使い、頬被りの形で額の部分に布を付けず、山折りの折目を強調して、前に突き出す剱先を表現した被り方。
- 素男被り(すっとこかぶり) - 頬被りの形で、手拭をぴったりと額に付け、顔の横は耳を隠さずに出すようにする。安来節どじょうすくい踊りの時や滑稽芸で人を笑わせるためや、歌舞伎などの演劇で三枚目を暗示させるために用いる被り方。異説として、この「すっとこ被り」を逆さにして、顎から回し頭頂部で結んだ滑稽を演出した被り方を南瓜被り・唐茄子被りと言う説もある。
- 若衆 - 小姓被り(こしょうかぶり)ともいい、頬被り形で結んだ端を下に垂らす。端が短いと、頬被りと変わらなく見えるので、長めの手拭が使用されたか、頬被りの場合は端が短くなるように処理されていたと考えられる。
- 五郎 - 道行ともいい、頬被り形で耳のところで結ぶ。下に向いた端を折り返し手拭の下を通し、もう一方と一緒に上に向ける。駆け落ちや心中を選んだ男女が、そういった道を選んでいった(逝った)ことから道行と名付けられた元々は歌舞伎での演出であったが、それをきっかけに、心中や駆け落ちが流行り、実際にこの被り方をした悲恋の男女が多く見られたといわれる。
- 彌造被り(やぞうかぶり) - 頬被り形で首のところで結ぶ。下に向いた端を折り返し手拭の下を通し、もう一方と一緒に上に向ける。首のところで結ぶので、角度が丁度、斜め上になり、和服で上半身の片方のもろ肌を見せるときの、片腕を懐から通し、斜め上に突き上げる形を「彌造」といったので、それにちなんで名付けられた。
- 鉄火(てっか) - 顎の下で結ばず、鼻から下を覆い隠し、目の周りしか出さない被り方。本来は任侠的な人が好んだと言われ、その鉄火気質から名づけられた。
- 鼻掛け(はなかけ) - 顎の下ではなく鼻の下で結んだ被り方。歌舞伎や演劇の影響で、現在では時代劇などで、鼠小僧などの泥棒の被り方として紹介されている。歌舞伎においては、盗人被りとも呼ばれる。
- 笄被り(こうがいかぶり) - 鼻掛けの形で結んだ端を四つ折りにし、真中で折り返し結び目の下に通す。結び目と結んだ端が横に一直線となり、端が真っ直ぐに切れ中央の結び目に向かうにつれ、幅が狭くなるので、その形が笄に見えるのでこう名付けられた。
着流し
- 吹き流し - 女性の場合は、そのまま頭にかけて、頬を隠すように前屈み気味に下に垂らし、下がった片方を口で軽く咥える。時代劇などで夜鷹といわれる遊女などがしている。男性の場合は耳の横で垂らし口にはくわえない。
- 置き手拭 - のせ手拭ともいい、折りたたんで頭に乗せただけであるが、「ぱりっと」したものは二つ折りと四つ折りがあり、端は両横に垂らすが、「よれっと」したものは二つ折りで頭にのせ、両端を4分の1ずつで折り返し無造作に乗せるといった被り方がある。銭湯や温泉でのしきたりで、湯船に手拭を浸けることはご法度なので、このときに入浴する者がよくする被り方である。置手拭兜(おきてぬぐいかぶと)という兜の形の一つがあるが、これは、置き手拭をした人の頭に形状が似ているので名づけられた。
- ^ 平凡社編『新版 日本史モノ事典』平凡社、2017年6月21日、166頁。ISBN 9784582124293。
- ^ 勝川春章画:四代目松本幸四郎
- ^ 歌川国芳画:自画像
- ^ 歌川国芳画:『東都富士見三十六景』の『新大橋 橋下の眺望』
- ^ コトバンク
- ^ 歌川国芳画:『夕寿豆美』
- ^ 朝櫻楼国芳画:『艶 發合』『女 みは』「みわ」という女が髢(かもじ・髪文字)を作っているところ
- ^ 葛飾北斎画:『東海道五十三次』の『吉田宿』
- ^ 東洲齋寫樂 画:『四代目[[松本幸四郎 (4代目)|]]の肴屋五郞兵衞』大判錦絵、『敵討乘合話』より、寛政6年
- ^ 葛飾北斎画:『北斎漫画』井戸から水を汲み、水桶を天秤棒で担いで運ぶ女達。
手拭と同じ種類の言葉
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