戦時国際法 適用対象

戦時国際法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/14 11:26 UTC 版)

適用対象

戦時国際法は戦時における国際法であるため、まず時間的な適用の範囲が規定されることとなる。つまり適用開始の要件と終了の要件である。現在の戦時国際法は武力紛争の存在を適用開始の要件としており、宣戦布告の有無や戦争状態の認定を問わない[2]

さらに戦時国際法の適用を終了する要件としては紛争当事国の軍事行動の終了時、または占領の終了時である[3]。また適用対象となるのは紛争当事国である。また武力紛争を類型された上で適用される。これには国際的武力紛争と非国際的武力紛争がある。非国際的武力紛争においては国内法の維持と非国際的武力紛争の適用という矛盾がしばしば発生する。

もし非国際的武力紛争の要件が満たせば犠牲者の保護が義務付けられ、さらに指揮系統の存在、反徒の組織性、軍事行動の時間的継続性と事実上の領域支配、という要件を満たすことができれば文民保護などの交戦法規が義務付けられる[4]

軍事的必要性

ユス・アド・ベルム(jus ad bellum)と呼ばれる概念で、国際連合憲章および慣習国際法によって定められている。

国連憲章第2条では自衛の名のもとの戦争も含め、いかなる武力による威嚇と武力の行使を禁止している。

もし威嚇や武力行使をする国が出た場合には、安全保障理事会が国連憲章などに基づいてその行為が合法かどうか判断する。 違法と判断されれば、まず勧告を行い、続いて国連加盟国で武力以外の制裁を加え、最終的には国連軍による武力制裁を加えることとなる(同39条)。 これが集団安全保障と呼ばれる仕組みである(同42条)。

ただし集団安全保障が機能しない場合や安保理による判断が間に合わない場合にのみ、反撃する権利を自衛権として認めている。 自国のみで反撃するのが個別的自衛権、他国とともに反撃するのが集団的自衛権と呼ばれる。 また自衛権の行使には安保理への報告義務と、同42条発動までの間にのみ認められるという制限がついている(同51条)。

なお、下記の節からの戦闘中における行動の規制は、全て人道性に基づく概念でユス・イン・ベロ(jus in bello)に該当する。

交戦法規

陸戦法規

陸戦法規は陸上作戦における武力行使についての規則であり、現代では主に1977年に署名されたジュネーヴ諸条約第一追加議定書によって規定される。その内容は主に攻撃目標の選定と攻撃実行の規則であり[注釈 2]、従来の戦闘教義にも変化を促した。

攻撃目標の選定の原則は、攻撃を行う目標をどのように選定するのかについての原則である。まず攻撃目標は敵の戦闘員か軍事目標に定められる。戦闘員とは紛争当事国の軍隊を構成している兵員であり、陸戦法規における軍事目標とは野戦陣地、軍事基地兵器、軍需物資などの物的目標である[注釈 3]。また攻撃目標として禁止されているものは、降伏者、捕獲者、負傷者、病者、難船者、軍隊の衛生要員、宗教要員、文民、民間防衛団員などの非戦闘員と、衛生部隊や病院などの医療関係施設、医療目的の車両および航空機、教育施設、歴史的建築物、宗教施設、食料生産設備、堤防、火力や水力、原子力発電所などの軍事目標以外の民用物[注釈 4]である。

攻撃実行においては主に3つの規則が存在する。第1に軍人と文民、軍事目標と民用物を区別せずに行う無差別攻撃の禁止を定めている。これによって第二次世界大戦において見られた住宅地や文教施設、宗教施設を含む都市圏に対する戦略爆撃は違法化されている。第2に文民と民用物への被害を最小化することである。軍事作戦においては文民や民用物が巻き添えになることは不可避であるが、攻撃実行にあたっては、その巻き添えが最小限になるように努力し、攻撃によって得られる軍事的利益と巻き添えとなる被害の比例性原則に基づいて行われなければならない。第3に同一の軍事的利益が得られる2つの攻撃目標がある場合、文民と民用物の被害が少ないと考えられるものを選択しなければならない。

海戦法規

海戦法規(海戦法、海上作戦法規)は海上での武力紛争に適用される戦時国際法である。海戦法規は海上での軍事目標、武力紛争における臨検拿捕機雷使用などについて定めたものである。海戦法規は陸戦法規とは異なり、その大部分が19世紀までの慣習国際法に基づいたものである。ただし海上戦力の多様化や新しい海洋法環境法の成立があったことで、人道法国際研究所は海上武力紛争法サンレモ・マニュアル英語版を完成させ、海戦法規の普及と、将来の条約化に貢献している。

海戦における軍事目標の規定は慣習国際法によって構成される。軍事目標として識別される敵国の船舶はまず海軍に所属した軍艦と補助船舶であり、これに対しては攻撃または拿捕することが可能である。また商船も直接攻撃や機雷敷設などの敵国の戦争行為に従事している、または敵軍の補助を行っているならば軍事目標である。また軍事物資の輸送作戦の従事などの戦争遂行努力英語版に組み込まれた敵国商船も軍事目標となる。ただし敵国の船舶であっても、病院船や沿岸救助用小型艇、などの非軍事的な任務を担う船舶は特別の保護を受けているために攻撃・拿捕が免除されている。

中立国軍艦および軍用機は公海及び排他的経済水域から成る国際水域においては自由に航行・飛行・訓練・情報収集などを行う権利を有する。中立国の軍艦や軍用機に対して攻撃することは、中立国に対する武力攻撃であり、中立国自衛権を行使することが出来る。過失であっても攻撃した国家は国家責任を負うことになり、謝罪・賠償・責任者処罰・再発防止措置などが求められる。

空戦法規

空戦法規(空戦規則、空戦に関する規則案)は航空戦における武力行使について規定したものであり、ワシントン軍縮会議で設置された戦時法規改正委員会において日本、イギリス、オランダ、アメリカ、フランス、イタリアが1923年に署名した報告書で規則が定められたが、当時は将来的な航空機の発展可能性に鑑みて運用が制限されることを回避したために、現在条約として存在しない。しかし、慣習法としてしばしば引用される場合がある。

軍用機は全方位から視認できる軍用の外部標識と単一の国籍記載を有し、軍人が操縦する航空機であり、これだけに交戦権の行使が容認される。非軍用機や民間人は交戦権が認められず、どのような敵対行為も禁止される。空襲は非戦闘員保護の観点から軍事目標、すなわちその破壊が交戦国に明確に軍事的利益をもたらす目標に限定される、などが定められている。


注釈

  1. ^ 「軍事的考慮」と「人道的考慮」とも言う。小寺彰、岩沢雄司、森田章夫編『講義国際法』(有斐閣、2006年)468頁
  2. ^ ここでいう攻撃とは攻勢作戦、防勢作戦や、その戦術行動に拘らない暴力行為をさす。第1追加議定書第49条第1項
  3. ^ 石油貯蔵施設、港湾施設、飛行場鉄道発電所、産業施設など間接的に軍事力に貢献するものについては、その全面的、または部分的な破壊、無力化、奪取が明らかに軍事的利益になる場合にのみ限られる。防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』(かや書房、2000年)60頁
  4. ^ 民用物は軍事目標以外の全ての物を言う。第1追加議定書第52条第1項
  5. ^ ただし背信行為の禁止を定めた『ジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書』の37条(背信行為の禁止)1項(d)英語 Article 37 1.(d))では「国際連合又は中立国その他の紛争当事者でない国の標章又は制服を使用して、保護されている地位を装うこと」が禁止されているのであり、「敵対する紛争当事者の旗、軍の標章、記章又は制服を使用すること」を禁止しているのは同39条(国の標章)2項英語 Article 39 2.)である。

出典

  1. ^ 誰も教えない時事と教養「ユスアドベルムとユスインベロを分けて考えよう」(憲政史研究者 倉山満の砦)
  2. ^ ジュネーブ条約共通2条1文、議定書Ⅰ1条3項4項・3条(a)
  3. ^ 議定書Ⅰ3条(b)
  4. ^ 小寺彰、岩沢雄司、森田章夫編『講義国際法』(有斐閣、2006年)468-470頁
  5. ^ 田岡良一『空襲と国際法』(巌松堂書店、1937年)119-120頁
  6. ^ 防衛法規研究会『自衛官国際法小六法』(学陽書房、平成18年版)の総目次を参考






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