戦時国際法 概説

戦時国際法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/14 11:26 UTC 版)

概説

17世紀ヴェストファーレン条約から始まる戦時国際法においてはユス・アド・ベルム (jus ad bellum)「軍事的必要性英語版」とユス・イン・ベロ(jus in bello)「人道性」の原則、法的基盤がある[注釈 1]。軍事的必要性とは敵を撃滅するために必要な戦闘行動などの軍事的措置を正当化する原則であり、人道性とは適切な軍事活動には不必要な措置を禁止する原則である。 国際紛争においてはユス・アド・ベルムとユス・イン・ベロの双方を遵守することが求められている。つまり正当性が無い相手だからと何をやってもいい訳ではないし、正当性があるからと何をやってもいい訳ではない[1]

ユス・アド・ベルムは戦争を正当なものと不当なものに区別し、正当なもののみを合法とするもので、正戦論(正しい戦争論)とも呼ばれた。しかし主権国家間において、国家の上位に存在する機関がない以上、紛争当事国が正当性を主張する限り、戦争はいずれにとっても正当とならざるを得ない。そこで18世紀になると、戦争の正否を問わない「無差別戦争観」という考えが登場した。19世紀においては、国際法学は戦争の開始から終了までの手続き、戦闘の手段・方法等の規制にあるとされ、戦争の正当原因の研究・規律は国際法学の対象外との見解もあったが、20世紀になり第一次世界大戦後の戦争違法化の流れのなかで国際連盟が設立され、その後第二次世界大戦の勃発を防げなかった国際連盟の様々な反省を踏まえ国際連合が設立されると、そこで合法かどうか判断されることとなった。

ユス・イン・ベロは、戦闘における非人道的な行為の被害を最小化するために受け入れられており、近年では「国際人道法」として再構成されている。 内容は非常に幅広く、第1に戦時国際法が適用される状況についての規則、第2に交戦当事国間の戦闘方法を規律する規則、第3に戦争による犠牲者を保護する規則、第4に戦時国際法の履行を確保する規則、で主に構成される。具体的には開戦・終戦、交戦者資格、捕虜条約の適用、許容される諜報活動、害敵手段の禁止・制限、死傷者の収容・保護、病院地帯、非武装地帯などについて定めている。ハーグ陸戦の法規慣例に関する条約ジュネーヴ条約などが有名である。


注釈

  1. ^ 「軍事的考慮」と「人道的考慮」とも言う。小寺彰、岩沢雄司、森田章夫編『講義国際法』(有斐閣、2006年)468頁
  2. ^ ここでいう攻撃とは攻勢作戦、防勢作戦や、その戦術行動に拘らない暴力行為をさす。第1追加議定書第49条第1項
  3. ^ 石油貯蔵施設、港湾施設、飛行場鉄道発電所、産業施設など間接的に軍事力に貢献するものについては、その全面的、または部分的な破壊、無力化、奪取が明らかに軍事的利益になる場合にのみ限られる。防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』(かや書房、2000年)60頁
  4. ^ 民用物は軍事目標以外の全ての物を言う。第1追加議定書第52条第1項
  5. ^ ただし背信行為の禁止を定めた『ジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書』の37条(背信行為の禁止)1項(d)英語 Article 37 1.(d))では「国際連合又は中立国その他の紛争当事者でない国の標章又は制服を使用して、保護されている地位を装うこと」が禁止されているのであり、「敵対する紛争当事者の旗、軍の標章、記章又は制服を使用すること」を禁止しているのは同39条(国の標章)2項英語 Article 39 2.)である。

出典

  1. ^ 誰も教えない時事と教養「ユスアドベルムとユスインベロを分けて考えよう」(憲政史研究者 倉山満の砦)
  2. ^ ジュネーブ条約共通2条1文、議定書Ⅰ1条3項4項・3条(a)
  3. ^ 議定書Ⅰ3条(b)
  4. ^ 小寺彰、岩沢雄司、森田章夫編『講義国際法』(有斐閣、2006年)468-470頁
  5. ^ 田岡良一『空襲と国際法』(巌松堂書店、1937年)119-120頁
  6. ^ 防衛法規研究会『自衛官国際法小六法』(学陽書房、平成18年版)の総目次を参考






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