寄生虫 特徴と生態

寄生虫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 01:35 UTC 版)

特徴と生態

一般に寄生動物は、体を固定するための構造が発達する。他方、特に内部寄生虫は、使う必要のない運動器官感覚器官消化器官が退化する。しかし、生殖器官は発達する場合が多く、体が生殖器官だけになってしまうような例も見受けられる。

寄生虫にとって大きな問題となるのは、宿主間をどうやって移動するかである。特に内部寄生虫の場合、生活環のどこかで宿主間の移動をしなければならないが、大型の寄生虫では簡単な方法が少ない。たとえば、ヒトに寄生するギョウチュウは、ヒトの肛門周辺に産卵する。産卵の際に周辺部に痒みを引き起こし、掻き毟った手に卵が付着してヒトからヒトに移るので、比較的簡単に宿主間を移動するが、やはりよく知られるカイチュウでは、卵は大便とともに体外に排出され、その便が肥料として使用された際に野菜等に付着することで食物として他人の口に侵入するという経路を持つ。現在の日本では化学肥料の普及により糞便を肥料に利用することがほとんどないので、カイチュウの感染例は激減している。

食物連鎖を利用して宿主への侵入を果たすものもいる。カマキリカマドウマの寄生虫として有名なハリガネムシは、秋になると成虫が宿主の体外に出て、池などの水辺から水中に入り、そこで産卵する。孵化したハリガネムシの幼生は、まずカゲロウなどの水生昆虫の体内に侵入し、カマキリやカマドウマに宿主が捕食されることで再び捕食者の体内に侵入して成体へと成長する。

このように幼生と成体で異なる宿主を持つ場合、幼生の宿主を中間宿主、成体の宿主を終宿主という。中間宿主を複数持つ寄生虫も知られている。終宿主にたどり着けない場合、寄生虫は成体にはなれないことが多い。このような複雑な生活環を持つ種では、卵が成虫になる確率は極めて低く、成体は極めてたくさんの卵を産む。

さらに、中間宿主の体内で幼生が無性生殖を行って数を増やす例もある。吸虫類や条虫類ではそのような例が多い。例えばエキノコックスは本来はキツネなどを終宿主とする小型の条虫類であるが、幼生がヒトに入った場合、成虫になることができず、幼生のままで無性生殖を繰り返すため、大変危険な症状を引き起こす。

生活環の一部でのみ寄生生活を行う生物も知られており、そのような種では寄生による変化は大きくない。淡水産の二枚貝には孵化直後に魚の鰭に寄生するものがあるが、それ以外の段階では特に寄生性への適応が見られないのが普通である。寄生蜂、寄生バエには幼虫期に寄生生活を行うものがあり、これも成虫は非寄生性の仲間と比べて形態的にも運動能力的にも大きな差はない。ケンミジンコモンストリラ目のものは幼生期に多毛類に寄生する。この類でも成体は自由生活を営むが、口器が退化している。

生物群集との関連

ある地域に棲息する寄生虫の生命史は、その地域の生物群集においての種間関係や食物網が成立して初めて成り立つものである。たとえば食物連鎖のどこかで破綻が起きれば寄生虫は中間宿主に辿り着くことができなくなり、仮にいくら終宿主が豊富に存在していても種を維持することができなくなる。つまり寄生虫が脈々と子孫を残していくためには、地域の生物群集が充分に保全されている必要がある。そのような観点から、寄生虫から群集を見ると言う見方もあり得る。たとえば干潟巻貝中間宿主とし、を終宿主とする吸虫を調べることから干潟の保全を考える、と言ったことが試みられている。人の往来や物流が発展して、地球温暖化の傾向と連なって、従来では生息していない地域へ伝染する懸念がなされている。


  1. ^ くらしの衛生Vol.43 寄生虫”. 東京都食品環境指導センター (2001年3月). 2021年10月30日閲覧。
  2. ^ 富山市史編纂委員会編 『富山市史 第三巻』p642 1960年 富山市
  3. ^ 藤田紘一郎「アレルギー病はなぜ増えたか」『歯科薬物療法』第21巻第3号、日本歯科薬物療法学会、2002年、99頁、doi:10.11263/jsotp1982.21.99 
  4. ^ 今月の薬用植物 2001年4月 せんだん(Melia azedarach 熊本大学薬学部
  5. ^ a b 宿主動物を操る寄生虫”. 帯広畜産大学. 2022年12月11日閲覧。
  6. ^ 寄生虫の「マインドコントロール」が影響か、群れを離れるオオカミ 米研究”. CNN.co.jp. 2022年12月11日閲覧。
  7. ^ 日本経済新聞社・日経BP社. “寄生虫がハイエナを「操作」 自らライオンの餌食に|ナショジオ|NIKKEI STYLE”. NIKKEI STYLE. 2022年12月11日閲覧。
  8. ^ a b 脳を操る?トキソプラズマ SF顔負けの研究も:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2018年2月2日). 2022年12月13日閲覧。
  9. ^ トキソプラズマが脳を"乗っ取る"メカニズム明らかにに関する医療ニュース・トピックス|Medical Tribune”. Medical Tribune(メディカルトリビューン). 2022年12月13日閲覧。
  10. ^ 寄生虫ハリガネムシがカマキリを操作、驚きの謎の一端を解明”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 2022年12月11日閲覧。
  11. ^ カタツムリ、「操られた」末に迎える憐れな最期”. 東洋経済オンライン (2020年8月2日). 2022年12月13日閲覧。
  12. ^ 宿主を思うままに操る、ちょっとグロテスクな寄生生物たち”. 毎日新聞. 2022年12月11日閲覧。
  13. ^ 病原体による宿主脂質ハイジャック機序の解明と創薬への応用”. www.niid.go.jp. 2022年12月11日閲覧。
  14. ^ 寄生去勢. コトバンクより。
  15. ^ 星野憲三「つれづれなるままのカニ記 : 寄生去勢について」『CANCER』第2巻、日本甲殻類学会、1992年、7-12頁、CRID 1390001204425511168doi:10.18988/cancer.2.0_7ISSN 0918-1989 






寄生虫と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「寄生虫」の関連用語

1
100% |||||


3
100% |||||

4
100% |||||

5
100% |||||

6
94% |||||

7
94% |||||

8
94% |||||

9
94% |||||

10
94% |||||

寄生虫のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



寄生虫のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの寄生虫 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS