充電スタンド 概要

充電スタンド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 03:35 UTC 版)

概要

充電スタンドの明確な定義は公的に定められていない。一般にガソリンスタンドと同様に公道に面した公共空間に民間や公的な事業者により設置され、不特定多数が利用可能な接触式の充電サービスである。一般に急速充電器として知られているが、急速充電に限定されず、広義には自宅等での自動車以外の充電設備等も含まれる[1]

設備が地上に出ていない地下誘電コイルや地下電力線を使用する非接触式充電設備、運輸業宅配業倉庫工場などの各種事業所、個人ユーザーの住宅などに設置される急速充電以外の方法は一般に充電スタンドには含まれず、送電線とプラグを使用した接触式のものの中でも特に急速充電方式のもののみ充電スタンドと呼んでいる場合が多い[2]

この項目では自動車用の充電設備について記述する。(参照 充電器

特徴

急速充電スタンドの例
急速充電スタンドの例(地下)
普通充電スタンドの例(200V)
充電時間
工業用の三相200 V給電(低圧電力)による急速充電では20 - 30分と短時間で充電が終わるが、高価で大掛かりな設備が必要である。
自宅等の単相200 Vや100 V給電(従量電灯)による普通充電では、充電用に配慮された家庭用コンセントで行える。設備費用が安い反面、充電には10 - 20時間程度(PHVの場合は1時間半 - 3時間程度)掛かる[3]
利用料金
電力の転売が認められていないため、現在すべての充電スタンドにおいて電力は設置者負担となり、設置者と利用者が異なる場合には利用者へ直接の電気料金として課金(請求)はされていない。そのため充電電力による従量課金制は採用されておらず、ほとんどが時間単位による充電設備利用料や駐車場利用料に含めて徴収という形式をとっている。
利用時間・場所
充電スタンドは完全無人の為、24時間利用が可能である。時間指定が有る場合は駐車場や施設側の営業時間によるものが多い。設置場所は送電網から受電盤を通して導線を引ける場所であれば制約は少ない。その為、充電スタンドの導入可能エリアは製油所から燃料を輸送しなければならないガソリンスタンドより広い。これは発展途上国でも同じである。国内で50kwを超える充電スタンドは変電所扱いとなり規制強化をされていたが2023年度より規制緩和が行われ、200kwの急速充電設備でも50kWと同等の設置条件となる予定である[4]。また燃料と違い可燃性ガスを伴わない充電スタンドは屋内や地下施設にも設置可能である。
利用者
日本では市場工場等で用いられるターレットトラック用の施設内充電スタンド数が個別の利用規模としては最大であるが、急速充電は用いていない。
地方自治体自動車メーカーによる設置のほか、コンビニエンスストアや大規模商業施設での設置が大半であるが、全体に少数である。自治体設置の場合には自治体で利用する電気自動車の充電に用いられることも多い。
集合住宅でのEVへの充電は、個別に各戸ごとの配線を引き回して簡易な充電器を駐車場に備える代わりに、共同での急速充電装置の設置も考慮される。この場合は、会員制度のような形態を採用して集金システムを作らなければならないが、機器に高機能なものを採用して従量制にするか、機器には簡易なものを用い固定料金制にして利用者間の多少の損得は無視するかの判断が求められる。事業所での通勤用EVへも、同様の事が想定される。例えば今後、充電規格が分立した場合などは、自動車販売店自身が運営する特定車種向けのEV充電スタンドが現れると考えられ、会員制と同様の形態となると予想される。
規格
CHAdeMO(チャデモ):62.5 kWまでの直流急速充電器の日本統一規格である(急速充電)。
North American Charging Standard(NACS) - テスラの独自規格であった『スーパーチャージャー』が仕様公開されたもの(急速充電)。
J1772:米国SAEの110 v/230 vの交流充電コネクタ規格(通常充電)。
コンバインド・チャージング・システム(Combined Charging System) - 上記規格のJ1772を拡張した急速充電規格。北米での統一規格(通常充電と急速充電を兼用)。通称コンボ方式。
対応車種
車種ごとに充電用のプラグ形状や電圧、電流、安全面での種々の工夫や制御信号といったものが異なると、充電スタンド側では複雑な対応が求められるので好ましくない。また仮に、特定国・特定地域内だけで通じる規格が標準として規定された場合でも、他地域からの輸入車旅行といった事態では、どの程度、相互の対応ができるかは不透明である[注 1]。2012年(平成24年)現在も日本で行われているようにEVの車内に自ら充電用ケーブルを備え持ち運ぶことで、電流や電圧、制御機構の違いを吸収する方法は別にして、プラグ形状の違いだけは対応できるが、充電の度にそれを車内から取り出さなければならない不便さがある[1]

スマートグリッドとの関係

スマートグリッドの一環として、充電スタンドを電力供給の調整に用いようとする試みがある。充電スタンドは、電気によって走行するあらゆる車輌類と共にスマートグリッドの末端に位置するため、化石燃料を基盤とするエネルギー社会から、再生可能エネルギーや次世代エネルギーを基盤とする、新産業への参入機会を伺う国際的な大企業や、各国政府とその配下の団体を含めた多くの関係者にとって、規格の策定に加わることや、インフラ独占が目指されている。

スマートグリッドでは、家庭でのEV類への充電時間をコントロールするスマートメーター機能とも重なるアイデアに加え、V2HとV2Gという2つの機能も想定されている。

HEMS
Home Energy Management System(家庭エネルギー管理システム)の略。家電の電力管理を行うためのシステムであるが、管理対象を太陽光発電や電気自動車等にまで広げる構想がある。
V2H
"Vehicle to Home"(車輌から家へ)の略。太陽電池燃料電池といった自家発電装置とEVを電気的に接続し、EVが家庭内に駐車している間は搭載バッテリーを戸別発電システムの一部として充電/放電という双方向の電力のやり取りを行うというものである。家庭内での直流給電とも関係する技術であるが、普及が進むデジタル家電は交流電力利用のため、実現には障害が大きい。電力の無駄を省きながら地域全体での消費と供給の平準化とそれによるコストダウンを目指す考えである。
V2G
"Vehicle to Grid"(車輌から配電網へ)の略。夜間や休日などで停車中のEVをスマートグリッドに接続することで、搭載バッテリーをスマートグリッド全体の蓄電設備として電力会社が利用するものである。V2Hと同様に電力の無駄を省きながら広域での消費と供給の平準化とそれによる電力会社側の発電や蓄電設備の設置負担軽減を目指す考えである。V2Gは電力会社の新たな収益源と期待されるアンシラリーサービス(ancillary survice、優先的品質確保供給保証サービス)[注 2]を実現するためのシステムとして機能する。
問題点
HEMS、V2H、V2Gのいずれも、バッテリーから他の用途に電力供給を行う状況が不定期に発生するため、EVの使用者が利用したい時に十分なバッテリー残量がなければ走行可能距離が不十分となり、EV本来の利便性が大きく損なわれる。[1]
家庭用太陽光発電には余剰電力の固定価格買取制度が存在するため、V2Hの自家発電電力のバッテリーへの充電部分は自家消費となり、売電できず、経済的損失につながる。損失補償を誰が負担するかが問題となる。
外部に電力供給を行う場合があるV2Gでは、外部利用によるバッテリーの無償利用が発生するため、設備利用負担をどう分担するかが問題となる。

注釈

  1. ^ 各国ごとに家庭用コンセントの電圧や形状が異なるので、海外旅行時には電気製品の利用が不便であることが知られている。
  2. ^ 電力送電/受電における「アンシラリーサービス」とは、対価を取って電力の品質を特別に保証する事であり、この場合の品質とは電圧位相周波数ノイズといった電力の精度に関するものだけでなく、停電瞬停といった根本的な問題の回避も含まれている。発電所の事故や送電線の断線といった不測の事態でも、グリッド中に予備的な電力源が存在すれば、その近隣への特に優先度の高い施設へ電力供給を絶やさずに済む可能性がある。逆にグリッド中に逆潮流逆潮流を起こす不確定要素が増えることで、上手に制御しないと電力の品質が低下すると危惧されている。
  3. ^ 本稿ではEVは、プラグインハイブリッド車 (Plag-in Hibrid Electric Vehicle, PHEV) と電気自動車 (Electric Vehicle, EV) に電動二輪車 (Electric Bicycle, EB) を加えたものとする。
  4. ^ 米国のカリフォルニア州では「Zero-emission vehicle規制」によって自動車販売に一定割合のEV等の車輌の販売が義務付けられているため、米国内でもEVの普及が最も進んでいる州である。

出典

  1. ^ a b c d e f g 『充電インフラを握れ』、日経エレクトロニクス2010年3月22日号
  2. ^ 廣田幸嗣著、『電気自動車の本』、日刊工業新聞社、2009年11月25日初版1刷発行、ISBN 9784526063572
  3. ^ 充電設備について EV・PHV情報プラットフォーム”. 経済産業省. 2013年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月24日閲覧。
  4. ^ 200kw超のEV急速充電器、規制緩和で設置容易に │ LOGI-BIZ online ロジスティクス・物流業界ニュースマガジン”. online.logi-biz.com (2023年1月5日). 2023年9月9日閲覧。
  5. ^ 電気自動車に対する充電サービス事業の位置付けについて (PDF) - 資源エネルギー庁
  6. ^ EVタクシー時代にらみ運用実験 日本交通社長 - 日本経済新聞(2010/6/9 9:00更新)2018年5月31日閲覧
  7. ^ バッテリー交換プログラム試験運用開始 - テスラジャパン(2015年1月20日発表)2018年5月31日閲覧
  8. ^ バッテリースワップ イベント - テスラ(2013/06/21 YouTubeに公開)2018年5月31日閲覧
  9. ^ テスラ、待望のバッテリー交換ステーションの試験営業をカリフォルニアで開始! - オートブログ(2014年12月24日 18時30分更新)2018年5月31日閲覧
  10. ^ テスラ、15分で完了するEV電池交換システムを特許出願。車載可能、リフト搭載 - Engadget日本版(2017年9月18日, 午後11:00翻訳)2018年5月31日閲覧





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