ワシントン・ポスト 歴史

ワシントン・ポスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 06:49 UTC 版)

歴史

創刊と初期

1948年当時の社屋

1877年スティルソン・ハッチンス英語版(1838-1912)によって創刊された。1880年には日曜版を加え、ワシントンD.C.で初の週7日発行の新聞となった[25]

『ワシントン・ポスト・アンド・ユニオン』の題字

1878年4月、ポスト紙は創刊4か月目で、ジョン・リンチが1877年末に創刊した競合紙『ワシントン・ユニオン』を買収した。買収した時点でユニオン紙は創刊から約6か月しか経っていなかった。統合後の4月15日からは題名を『ワシントン・ポスト・アンド・ユニオン』とし、発行部数は13,000部だった[26][27]。『ポスト・アンド・ユニオン』の名前は4月29日まで約2週間使用され、4月30日からは元の『ワシントン・ポスト』に戻った[28]

1889年、ハッチンスはポスト紙を元郵便局長のフランク・ハットン英語版とオハイオ州の元民主党下院議員のベライア・ウィルキンス英語版に売却した。新オーナーは、当時アメリカ海兵隊軍楽隊のリーダーだったジョン・フィリップ・スーザに、新聞社の作文コンテストの授賞式で使う行進曲の作曲を依頼した。こうして作曲されたのが『ワシントン・ポスト』であり[29]、19世紀末のダンスブーム(dance craze)の際に流行したダンス「ツーステップ」の定番音楽となり[30]、スーザの代表作の一つとなっている。

1893年、本社をワシントンD.C.北西地区の14番通りとE通りの角に移転し、1950年まで使用した。このビルでは、取材、広告、植字、印刷といった新聞社の機能を1つの本部にまとめ、24時間体制で運営していた[31]

『ミシシッピで一線を画する』(Drawing the Line in Mississippi) クリフォード・K・ベリーマン英語版

米西戦争中の1898年、ポスト紙はクリフォード・K・ベリーマン英語版の風刺漫画『メイン号を忘れるな』(Remember the Maine) を掲載した。この題名は、米西戦争中のアメリカ人水兵が士気を高めるための合言葉となった。1902年、ポスト紙にベリーマンの風刺漫画『ミシシッピで一線を画する』(Drawing the Line in Mississippi) が掲載された。これは、狩猟に出かけたセオドア・ルーズベルト大統領が、傷を負った子熊を仕留めず助けてやった様子を描いたもので、ニューヨークの店主モリス・ミットム英語版テディベアを作るきっかけとなった[32]

1894年、ハットンの死去に伴い、ウィルキンスがハットンの持ち分を取得した。1903年のウィルキンスの死後、その息子のジョンとロバートが2年間経営した後、1905年に『シンシナティ・エンクワイアラー英語版』紙のオーナーのジョン・R・マクレーン英語版に売却した。ウッドロウ・ウィルソン大統領時代に、ポスト紙はワシントンの歴史の中で「最も有名な新聞の誤植」を犯した。ウィルソン大統領が後妻のガルト夫人を「楽しませていた」(entertaining)と書くべきところを、ガルト夫人に「入っていた」(entering)と書いてしまった[33][34][35]

1916年にジョン・マクレーンは亡くなったが、彼は遺言で新聞社を信託した。プレイボーイとして知られる息子エドワード・"ネッド"・マクレーン英語版が遺産を管理できるとは思えなかったからである。ネッドは裁判を起こして信託を破棄し、経営権を獲得したが、ネッドの下で新聞社の経営は傾いていった。ネッドは新聞社の利益を搾取して贅沢な生活をし、自身の政治主張のために新聞を利用した[36]。最終的に、ポスト紙を発行するワシントン・ポスト・カンパニーは、世界恐慌中の1933年に破産し、競売にかけられた。

1919年に全米各地で起きた人種暴動事件「赤い夏」において、ポスト紙は白人の暴徒を支持し、白人の軍人が黒人のワシントン市民への攻撃を実行するための集会の場所を一面に掲載したこともあった[37]

メイヤー=グラハム時代

1929年、金融家のユージン・メイヤーは、秘密裏に500万ドルでポスト紙の買収を提案したが、ネッド・マクレーンに断られた[38][39]。1933年6月1日、メイヤーは連邦準備制度理事会 (FRB) 議長を退任した3週間後に、競売にかけられていたワシントン・ポスト・カンパニーを82万5千ドルで落札した。匿名で入札していたメイヤーは、他の入札者よりもはるかに高い200万ドルを入札のために用意していた[40][41]。他の入札者の中には「新聞王」ウィリアム・ランドルフ・ハーストもいた。ハーストは以前から、自身が経営するワシントンの新聞社を有利にするために、経営不振のポスト紙を買収して廃刊にしようと目論んでいた[42]

その後、メイヤーはポスト社の健全性と評判を回復させ、ハーストの新聞社にも勝利した。ハーストが保有していた『ワシントン・タイムズ[注釈 1]と『ワシントン・ヘラルド』は、1939年に合併して『ワシントン・タイムズ=ヘラルド』となった後、1954年にポスト社に買収され、ポスト紙に吸収された[43]。合併後、題字には『ワシントン・ポスト・アンド・タイムズ=ヘラルド』(The Washington Post and Times-Herald) と書かれていたが、段々「アンド・タイムズ=ヘラルド」の表記が小さくなり、1973年には消滅した。この合併により、ポスト紙の競合紙は『ワシントン・スター』と『ワシントン・デイリー・ニュース英語版』の2紙のみとなり、両者は1972年に合併して『ワシントン・スター・ニュース』になった[44][45]

『ワシントン・ポスト』を読む少女(1969年撮影)。記事はアポロ11号の月面着陸に関するもの。

1946年、メイヤーが初代世界銀行グループ総裁に就任するに当たり、新聞の発行者の職を女壻のフィル・グラハムに継承させた[46]。メイヤーは世銀総裁を半年で辞任し、ポスト社の会長となったが、発行者はフィル・グラハムのままとした。1948年に実質的な支配権をフィル・グラハムとその妻でユージン・メイヤーの娘のキャサリン・グラハム(1917-2001)に譲り、1959年のメイヤーの死後、フィル・グラハムが社長兼会長に就任した。フィル・グラハムは、ポスト紙を全国的な新聞に成長させ、ポスト社を他の新聞社やラジオ局、テレビ局を所有するまでに拡大させたが、1963年に自殺した。

1963年のフィル・グラハムの死後、ポスト社の経営権は妻のキャサリン・グラハムに引き継がれた。それまでに、アメリカの出版社でこのような高い地位に就いた女性はおらず、キャサリン・グラハムには手本となる人物がいなかった。また、多くの男性社員からは軽く見られることが多かった。キャサリン・グラハムは、自分の知識に対する自信のなさと不信感を回顧録に記している。キャサリン・グラハムは、ポスト紙の発行者を1969年から1979年まで務め[47]1973年から1991年まで社長を、1999年から亡くなる2001年まで会長を歴任した。

1971年6月15日、ポスト社は株式の一部を公開し、ニューヨーク証券取引所に上場した。1株あたり26ドルで129万4千株が公開された[48][49]。グラハムがCEOとして在任した1991年の終わりには、1株あたり888ドルの価値を持つようになっていた[50]

グラハムはポスト社の事業を多角化し、1984年には4000万ドルで教育・研修会社のカプランを買収した[51]。その20年後、カプラン社の収益は新聞を上回るようになり、2010年には会社全体の収入の60%以上がカプラン社からのものとなっていた[52]

グラハムは、ベン・ブラッドリーをポスト紙の編集長として雇った。ブラッドリー編集長の下で、若手記者のボブ・ウッドワードカール・バーンスタインは、長期の取材により、1972年にワシントンのウォーターゲート複合施設英語版にあった民主党全国委員会のオフィスへの侵入事件の真相を解明していった。この記事は、最終的にリチャード・ニクソン大統領の辞任へとつながるウォーターゲート事件に発展し、1973年にピューリッツァー賞を受賞した[53]

1972年、ピューリッツァー賞を受賞した評論家、ウィリアム・マクファーソン英語版を初代編集長に迎え、「ブックワールド」というコーナーをスタートさせた[54]ジョナサン・ヤードリー英語版マイケル・ディルダ英語版などの批評家が登場し、ディルダはポスト紙の批評家としてのキャリアを確立した。2009年、「ブック・ワールド」は、読者の大きな反発と抗議を受けて2月15日を最後に廃止された[55]

1975年、印刷工の労働組合がストライキ (1975–1976 Washington Post pressmen's strike) を起こした。ポスト社は他の印刷工を雇って発行を継続し、組合員は1976年2月に現場に復帰した[56]

1979年、キャサリンの息子のドナルド・E・グラハムが発行者の職を継承し[47]、2000年まで務めた。

1995年、washingtonpost.comというドメイン名を取得した。同年、"Digital Ink"というオンラインニュースリポジトリを作ろうとして失敗し、翌年に閉鎖された。1996年6月に最初のウェブサイトが開設された[57]

ベゾス時代

2016年4月、15番通りの旧本社ビルの解体
現在の本社が入居するワン・フランクリン・スクエア英語版

2013年8月5日、ワシントン・ポスト・カンパニーは、ワシントン・ポストを含む同社の新聞事業を2億5千万ドルでAmazon.com創業者のジェフ・ベゾスに売却すると発表した[58][59][60][61]。同年10月1日に取引が完了し、ワシントン・ポスト(WP Company LLC)はベゾスの個人投資会社であるナッシュ・ホールディングスLLCの傘下になった[60]。この買収には、他の地方出版物、ウェブサイト、不動産も含まれていた[62][63][64]。一方で、ポスト社のテレビ事業英語版、教育事業(カプラン社)、一部の出版事業、医療事業などのその他の資産は本取引には含まれない。新聞事業を売却したワシントン・ポスト・カンパニーは、同年11月29日付でグラハム・ホールディングス・カンパニーNYSEGHC)に改称した[14][65]

この買収にAmazon.comは関与しておらず、ポスト紙を含むナッシュ・ホールディングスはAmazon.comとは別に運営されている[66][67]。ベゾスは、「ポスト紙を読むという「日々の儀式」を、単に個々の記事の連続ではなく、束ねて読む」ことを再現するビジョンを持っていると述べている[68]。ベゾスは、編集長のマーティン・バロン英語版と2週間に一度電話会議を行う程度であり、「ハンズオフ(口出ししない)・オーナー」と評されている[69]。ベゾスは、オンライン・ニュースメディア「ポリティコ」の創業者でCEOのフレッド・ライアン英語版を発行者兼CEOに任命した。これは、ポスト紙をよりデジタルに特化し、全米および全世界の読者に向けて発信していくというベゾスの意図を示すものである[70]

2014年、ポスト紙は15番通り1150番地から3ブロック先のK通りにあるワン・フランクリン・スクエア英語版の賃貸スペースに移転することを発表した[71]

ポスト紙はオンラインのパーソナル・ファイナンス部門を立ち上げ[72]、レトロをテーマにしたブログやポッドキャストを開始した[73][74]。ポスト紙は2020年のウェビー賞を受賞した[75]


注釈

  1. ^ 現存する同名の新聞とは無関係
  2. ^ 当時アメリカ共産党が発行していた新聞。

出典

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