ベルヌーイの定理 基本形

ベルヌーイの定理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/20 15:44 UTC 版)

基本形

完全流体の運動方程式からベルヌーイの定理を導出する[3]

オイラー方程式

バロトロピック性 ρ=ρ(p) と外力が保存力であることを仮定すると、非粘性流体の運動を記述するオイラー方程式

と変形できる。ただし、速度ベクトル、 は圧力、 は密度、 は外力のポテンシャル である。

なお、

をベルヌーイ関数と呼ぶ。更に、右辺第2項を圧力関数と呼ぶ。

オイラー方程式の変形の導出

非粘性流体の運動はオイラー方程式で記述される。

ただし、 は速度、 は密度、 は圧力、 は外力である。

バロトロピック性 と外力が保存力であることを仮定すると、

と書き換えられる。ただし、 は外力のポテンシャルである。

左辺は速度の物質微分、すなわち、加速度であるが、加速度の回転形表示を使うと、

と変形できるので、オイラー方程式は

となる。

これより、以下の二つの定理が導出できる。

(I) 定常流におけるベルヌーイの定理

外力が保存力である非粘性バロトロピック流体定常な流れでは、流線渦線から作られるベルヌーイ面上で

が、成り立つ。

なお、簡単のため、「ベルヌーイ面上」でなく「流線上」とすることが多い。

定常流におけるベルヌーイの定理の導出

定常流の場合、オイラー方程式の左辺第1項は消え、両辺に 内積でかけると左辺第2項も消え、

となる。流線上の道のりを s で表すと、速度ベクトルが流線に接していることと方向微分の考え方により、

となるので、

すなわち流線上で 

 

は一定値をとる。

なお、渦度ベクトル を結んで得られる渦線上でも一定値をとることも同様に示される。すなわち、流線と渦線から作られる面(ベルヌーイ面)上で

が成り立つ。

(II) 非定常・渦なし流れにおけるベルヌーイの定理

となる流れを渦なしの流れと呼ぶが、このとき、速度ポテンシャルと呼ばれる関数 が存在して、と表せる。

渦なしの流れにおいては以下の定理(一般化されたベルヌーイの定理

外力が保存力である非粘性バロトロピック流体渦なしの流れでは、全空間において

(圧力方程式)が成り立つ。ただし、 は任意の関数である。

が導ける。

  • (I)のタイプと違って、全空間で成り立つのが大きな特徴である。
  • 流れのポテンシャルを
と変更しても速度場は変わらないので、圧力方程式より を消去することは可能である。

渦なし流れにおけるベルヌーイの定理の導出

渦なしの流れでは と表せるので、オイラー方程式は

となり、これを積分すると

となる。ただし、 は任意の関数である。

ベルヌーイの定理の適用条件

  • 渦なしの流れであれば(II)のタイプ「一般化されたベルヌーイの定理」により、異なる流線間でも圧力や速さの比較ができる。非粘性流体においては上流が一様流である流れや静止状態から出発した流れは渦なし流れであるので、例えば、一様流の中のの問題では異なる流線でも比較ができる。(ただし、不連続流や噴流領域を跨いではいけない。また、実在流体の場合、後述のように境界層や伴流領域は除かれる。)
  • 上述のように「渦なしの流れ」の性質を使わなくても、一様流中の翼の問題においてベルヌーイの式を全空間で使えることを証明できる。以下簡単のため重力は無視する。

翼の近傍を通る任意の異なる2つの流線 A, B を考える。流線 A, B はともに上流の一様流まで伸びること、さらに、一様流中では速度だけでなく圧力、密度も一定、つまり、ベルヌーイ関数も一定値をとることを考慮すると、流線A上のベルヌーイ関数の値と流線B上のベルヌーイ関数の値とは等しいことが導かれる。これより、全空間でベルヌーイの式(ベルヌーイ関数の値=一定)が成立することが導かれた。

  • 一般には、(I)のタイプの定理では異なる流線間の比較はできないが、流線曲率の定理を使えば異なる流線間での比較ができる。流線上で成り立つベルヌーイの定理と流線曲率の定理は運動方程式の流線に関する接線成分と主法線成分にそれぞれ対応する。
  • 粘性流体であっても、境界層外部や伴流外部の層流領域のように、非圧縮・渦なし流れであれば粘性項の寄与を無視できるので、その領域ではベルヌーイの定理を適用可能である。

(0) 静水圧平衡

一般にベルヌーイの定理に含まれることはないが、静止流体における圧力と保存力の関係(静水圧平衡)も運動方程式の第一積分である。 をオイラー方程式に代入すると

が全空間で成り立つ。これより外力の等ポテンシャル面()の上では , であることが導かれる。一様重力の等ポテンシャル面である水平面に水面( = 大気圧 = 一定)が一致するのはこのためである[3]


  1. ^ 日野幹雄 『流体力学』朝倉書店、1992年。ISBN 4254200668 
  2. ^ ベルヌーイの定理:楽しい流れの実験教室” (日本語). 日本機械学会流体工学部門:楽しい流れの実験教室. 2021年6月22日閲覧。
  3. ^ a b c d 巽友正 『流体力学』培風館、1982年。ISBN 456302421X 
  4. ^ Babinsky, Holger (November 2003). “How do wings work?” (PDF). Physics Education 38 (6): 497. doi:10.1088/0031-9120/38/6/001. http://www3.eng.cam.ac.uk/outreach/Project-resources/Wind-turbine/howwingswork.pdf. 
  5. ^ Batchelor, G.K. (1967). An Introduction to Fluid Dynamics. Cambridge University Press. ISBN 0-521-66396-2  Sections 3.5 and 5.1
  6. ^ Lamb, H. (1993). Hydrodynamics (6th ed.). Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-45868-9  §17–§29
  7. ^ ランダウ&リフシッツ 『流体力学』東京図書、1970年。ISBN 4489011660 
  8. ^ 飛行機はなぜ飛ぶかのかまだ分からない?? - NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん - 松田卓也による解説。
  9. ^ Glenn Research Center (2006年3月15日). “Incorrect Lift Theory”. NASA. 2012年4月20日閲覧。
  10. ^ 早川尚男. “飛行機の飛ぶ訳 (流体力学の話in物理学概論)”. 京都大学OCW. 2013年4月8日閲覧。
  11. ^ Newton vs Bernoulli”. NASA. 2012年4月20日閲覧。
  12. ^ Ison, David. Bernoulli Or Newton: Who's Right About Lift? Retrieved on 2009-11-26
  13. ^ David Anderson; Scott Eberhardt,. "Understanding Flight, Second Edition" (2 edition (August 12, 2009) ed.). ,McGraw-Hill Professional. ISBN 0071626964 
  14. ^ 日本機械学会 『流れの不思議』(2004年8月20日第一刷発行)講談社ブルーバックス。ISBN 4062574527 
  15. ^ Report on the Coandă Effect and lift, オリジナルの2011年7月14日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20110714172646/http://newfluidtechnology.com/THE_COANDA_EFFECT_AND_LIFT.pdf 
  16. ^ Kundu, P.K. (2011). Fluid Mechanics Fifth Edition. Academic Press. ISBN 0123821002 






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