ヒマラヤ山脈 政治情勢

ヒマラヤ山脈

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/28 05:01 UTC 版)

政治情勢

インド、パキスタン、中国によって分割されたカシミール地区
カルドゥン・ラ(Khardung La)。インド軍の管理下にある。後ろに18,380 ft(5,602メートル)と書いた看板が見える。

ヒマラヤの20世紀後半の政治情勢は、南北の2大国である中国とインドの影響力拡大と角逐の歴史であるといえる。ヒマラヤ北麓のチベットは清朝時代から中国の影響下にあったが、半独立状態を保っていた。しかし1950年中国のチベット侵攻により完全に中国領となり、1959年にはチベット動乱によってダライ・ラマ14世がインドへと亡命し、ヒマラヤ南麓のダラムシャーラーチベット亡命政府を樹立した。

一方、南麓のインド側ではイギリス領インド帝国の支配のもと、ジャンムー・カシミール藩王国などいくつかの藩王国が存在し、また中国との間の緩衝国としてネパールブータンが独立国として存在し、また両国の間にはシッキム王国がイギリスの保護国として存在していた。しかしインドで独立運動が盛んになり、1947年8月15日インド・パキスタン分離独立が起こると、各地の藩王国はどちらかへの帰属を迫られるようになった。ジャンムー・カシミール藩王国は藩王がヒンドゥー教徒であるが住民の80パーセント以上はイスラーム教徒であり、藩王が態度を決めかねるなか、イスラーム系住民が蜂起してパキスタン帰属を要求。これに対し藩王はインドの介入を求め、これが引き金となって第一次印パ戦争が勃発した。この戦争の結果、カシミールはインド領のジャンムー・カシミール州とパキスタン領のアーザード・カシミールとに分断されることとなった。

その後、インドと中国はカシミール北東部(アクサイチン地区)やマクマホン・ラインなどの国境線をめぐって対立を深め、1962年には中印国境紛争が勃発した。この戦争で中国人民解放軍は勝利してアクサイチンやインド東北辺境地区を軍事占領し、東北辺境地区からは撤兵したもののアクサイチンは実効支配下に置いた。

この戦争ののち、インドはヒマラヤ地域への影響力を強化していく。1975年には先住民であるブティヤ人レプチャ人(チベット系)と移民であるネパール系の間で政治的対立の生じていたシッキム王国を制圧し、シッキム州として自国領土へと組み入れた。さらに1987年には直轄領であった係争地・インド東北辺境地区をアルナーチャル・プラデーシュ州へと昇格させ、支配を強化した。この動きを見たブータン王国は自国のアイデンティティの強化に乗り出し、1985年には国籍法を改正するとともに、1989年には「ブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策」を施行し、チベット系住民の民族衣装着用の強制(ネパール系住民は免除)、ゾンカ語国語化、伝統的礼儀作法(ディクラム・ナムザ)の順守などを実施して自国文化の振興に努めるようになったが、これはブータン南部に住むネパール系住民を強く刺激し、民族間の衝突が繰り返され多数の難民が流出することとなった[12]

一方、ネパールにおいては民主化運動によって1991年複数政党制が復活したものの、一向に進まない国土の開発に不満を持ったネパール共産党統一毛沢東主義派(マオイスト)が1996年に武力闘争を開始。さらに2001年6月1日にはネパール王族殺害事件が発生し、ビレンドラ国王が殺害されてギャネンドラ国王が即位した。ギャネンドラは専制的な政治スタイルをとって国勢の回復をめざしたが、国民の不満は高まる一方で、国土のかなりの部分をマオイストに征圧される事態となった。2006年には王制が打倒されて民主化され、マオイストとも和平が成立し、2008年には正式にネパールは共和国となった。


  1. ^ Definition of Himalayas”. Oxford Dictionaries Online. 2011年5月9日閲覧。
  2. ^ 辛島昇・前田専学・江島惠教ら監修『南アジアを知る事典』p594 平凡社、1992.10、ISBN 4-582-12634-0
  3. ^ C. R. Krishna Murti; Gaṅgā Pariyojanā Nideśālaya; India Environment Research Committee (1991). The Ganga, a scientific study. Northern Book Centre. p. 19. ISBN 978-81-7211-021-5. https://books.google.co.jp/books?id=dxpxDSXb9k8C&pg=PA19&redir_esc=y&hl=ja 2011年4月24日閲覧。 
  4. ^ "Ganges River". Encyclopædia Britannica (Encyclopædia Britannica Online Library ed.). 2011. 2011年4月23日閲覧
  5. ^ Penn, James R. (2001). Rivers of the world: a social, geographical, and environmental sourcebook. ABC-CLIO. p. 88. ISBN 978-1-57607-042-0. https://books.google.co.jp/books?id=koacGt0fhUoC&redir_esc=y&hl=ja 2011年4月23日閲覧。 
  6. ^ Sunderbans the world's largest delta”. gits4u.com. 2013年2月19日閲覧。
  7. ^ Vanishing Himalayan Glaciers Threaten a Billion”. Planet Ark (2007年6月5日). 2009年4月17日閲覧。
  8. ^ Glaciers melting at alarming speed”. People's Daily Online (2007年7月24日). 2009年4月17日閲覧。
  9. ^ Drews, Carl. “Highest Lake in the World”. 2010年11月14日閲覧。
  10. ^ Devitt, Terry (2001年5月3日). “Climate shift linked to rise of Himalayas, Tibetan Plateau”. University of Wisconsin–Madison News. http://www.news.wisc.edu/6138 2011年11月1日閲覧。 
  11. ^ 「世界地理4 南アジア」p385 織田武雄編 朝倉書店 1978年6月23日初版第1刷
  12. ^ 辛島昇・前田専学・江島惠教ら監修『南アジアを知る事典』p863 平凡社、1992.10、ISBN 4-582-12634-0
  13. ^ 「ビジュアル・データ・アトラス」p541 同朋舎出版 1995年4月26日初版第1刷
  14. ^ “水力発電はブータンの「白色金」、2020年までにGDPの5割を目指す”. AFP. (2013年7月8日). https://www.afpbb.com/articles/-/2954758 2014年12月29日閲覧。 
  15. ^ 「ヒマラヤ世界」pp138-139 向一陽 中公新書 2009年10月25日発行
  16. ^ http://j.people.com.cn/n/2014/1124/c95952-8813117.html 「チベット初の大型水力発電所、正式に稼働開始」人民網日本語版 2014年11月24日 2014年12月29日閲覧
  17. ^ “チベット自治区最大の水力発電所が稼働開始、中国”. AFPBB. (2014年11月25日). https://www.afpbb.com/articles/-/3032619 2019年7月27日閲覧。 
  18. ^ “エベレスト登山者にごみ収集を義務化へ、ネパール”. AFPBB. (2014年3月4日). https://www.afpbb.com/articles/-/3009742 2014年12月29日閲覧。 
  19. ^ 「情報も写真も無し、ヒマラヤ未踏峰に世界初登頂 早大隊」『朝日新聞』朝刊2017年11月8日(スポーツ面)
  20. ^ Dallapiccola, Anna (2002). Dictionary of Hindu Lore and Legend. ISBN 0-500-51088-1 
  21. ^ Pommaret, Francoise (2006). Bhutan Himlayan Mountains Kingdom (5th ed.). Odyssey Books and Guides. pp. 136–7. ISBN 978-9622178106 
  22. ^ “Tibetan monks: A controlled life”. BBC News. (2008年3月20日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7307495.stm 
  23. ^ “Mosques in Lhasa, Tibet”. People's Daily Online. (2005年10月27日). http://english.peopledaily.com.cn/200510/27/eng20051027_217176.html 






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