ヒマラヤ山脈
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政治情勢
ヒマラヤの20世紀後半の政治情勢は、南北の2大国である中国とインドの影響力拡大と角逐の歴史であるといえる。ヒマラヤ北麓のチベットは清朝時代から中国の影響下にあったが、半独立状態を保っていた。しかし1950年の中国のチベット侵攻により完全に中国領となり、1959年にはチベット動乱によってダライ・ラマ14世がインドへと亡命し、ヒマラヤ南麓のダラムシャーラーにチベット亡命政府を樹立した。
一方、南麓のインド側ではイギリス領インド帝国の支配のもと、ジャンムー・カシミール藩王国などいくつかの藩王国が存在し、また中国との間の緩衝国としてネパールとブータンが独立国として存在し、また両国の間にはシッキム王国がイギリスの保護国として存在していた。しかしインドで独立運動が盛んになり、1947年8月15日にインド・パキスタン分離独立が起こると、各地の藩王国はどちらかへの帰属を迫られるようになった。ジャンムー・カシミール藩王国は藩王がヒンドゥー教徒であるが住民の80パーセント以上はイスラーム教徒であり、藩王が態度を決めかねるなか、イスラーム系住民が蜂起してパキスタン帰属を要求。これに対し藩王はインドの介入を求め、これが引き金となって第一次印パ戦争が勃発した。この戦争の結果、カシミールはインド領のジャンムー・カシミール州とパキスタン領のアーザード・カシミールとに分断されることとなった。
その後、インドと中国はカシミール北東部(アクサイチン地区)やマクマホン・ラインなどの国境線をめぐって対立を深め、1962年には中印国境紛争が勃発した。この戦争で中国人民解放軍は勝利してアクサイチンやインド東北辺境地区を軍事占領し、東北辺境地区からは撤兵したもののアクサイチンは実効支配下に置いた。
この戦争ののち、インドはヒマラヤ地域への影響力を強化していく。1975年には先住民であるブティヤ人・レプチャ人(チベット系)と移民であるネパール系の間で政治的対立の生じていたシッキム王国を制圧し、シッキム州として自国領土へと組み入れた。さらに1987年には直轄領であった係争地・インド東北辺境地区をアルナーチャル・プラデーシュ州へと昇格させ、支配を強化した。この動きを見たブータン王国は自国のアイデンティティの強化に乗り出し、1985年には国籍法を改正するとともに、1989年には「ブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策」を施行し、チベット系住民の民族衣装着用の強制(ネパール系住民は免除)、ゾンカ語の国語化、伝統的礼儀作法(ディクラム・ナムザ)の順守などを実施して自国文化の振興に努めるようになったが、これはブータン南部に住むネパール系住民を強く刺激し、民族間の衝突が繰り返され多数の難民が流出することとなった[12]。
一方、ネパールにおいては民主化運動によって1991年に複数政党制が復活したものの、一向に進まない国土の開発に不満を持ったネパール共産党統一毛沢東主義派(マオイスト)が1996年に武力闘争を開始。さらに2001年6月1日にはネパール王族殺害事件が発生し、ビレンドラ国王が殺害されてギャネンドラ国王が即位した。ギャネンドラは専制的な政治スタイルをとって国勢の回復をめざしたが、国民の不満は高まる一方で、国土のかなりの部分をマオイストに征圧される事態となった。2006年には王制が打倒されて民主化され、マオイストとも和平が成立し、2008年には正式にネパールは共和国となった。
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- ^ 「ビジュアル・データ・アトラス」p541 同朋舎出版 1995年4月26日初版第1刷
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- ^ http://j.people.com.cn/n/2014/1124/c95952-8813117.html 「チベット初の大型水力発電所、正式に稼働開始」人民網日本語版 2014年11月24日 2014年12月29日閲覧
- ^ “チベット自治区最大の水力発電所が稼働開始、中国”. AFPBB. (2014年11月25日) 2019年7月27日閲覧。
- ^ “エベレスト登山者にごみ収集を義務化へ、ネパール”. AFPBB. (2014年3月4日) 2014年12月29日閲覧。
- ^ 「情報も写真も無し、ヒマラヤ未踏峰に世界初登頂 早大隊」『朝日新聞』朝刊2017年11月8日(スポーツ面)
- ^ Dallapiccola, Anna (2002). Dictionary of Hindu Lore and Legend. ISBN 0-500-51088-1
- ^ Pommaret, Francoise (2006). Bhutan Himlayan Mountains Kingdom (5th ed.). Odyssey Books and Guides. pp. 136–7. ISBN 978-9622178106
- ^ “Tibetan monks: A controlled life”. BBC News. (2008年3月20日)
- ^ “Mosques in Lhasa, Tibet”. People's Daily Online. (2005年10月27日)
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