ツチクジラ属 生息数

ツチクジラ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 07:44 UTC 版)

生息数

ミナミツチクジラの全生息数は不明である[25]

ツチクジラの全生息数の見積もりは3万頭以上である。

生態

ミナミツチクジラの生態はほとんどわかっていないが、ツチクジラに似ているものと考えられている。

ツチクジラは、通常は3頭から10頭程度の群を成して行動するが、稀に50頭程度の群が観察される。 群の構成は良くわかっていない。

雌の方が雄よりも若干大きいので、捕獲の困難さに雌雄の差がないならば、雌の捕獲頭数の方が雄よりも多いことが予想されるのだが、実際には全捕獲頭数の2/3が雄であるため、調査捕鯨の結果からも群の構成は良くわかってはいない。

主な餌は魚類頭足類などである。潜水深度は千メートル近くになり、深海性の大型のイカを捕食する事もある。

時には連続して海面から飛び出すジャンプ(ブリーチング)や、海面から周囲を観察する行動であるスパイホッピング、尾びれを海面に叩きつけるペックスラップなどの海面行動を見せることもある。

なお、コマンドルスキー諸島には通年を浅い沿岸水域で過ごす特異な個体群が存在する[26]

人間との関わり

IUCNの2006年版レッドリストでは、両種とも「低リスク-保全対策依存」 (LRcd : Lower Risk - Conservation Dependent) に分類(1996年)されている。

ツチクジラもミナミツチクジラも「ボン条約」の保護対象種に指定されている[27]が、日本では現在も商業捕鯨の対象になっている。なお、日本政府が捕鯨問題において捕鯨を正当化するために用いた「鯨食害論」は国内外の識者からの批判を受けており、2009年6月の国際捕鯨委員会の年次会合にて、日本政府代表代理だった森下丈二水産庁参事官が鯨類による漁業被害(害獣論)を撤回している[28]

なお、日本列島においても古くから捕鯨をタブー視する風潮も多く、捕鯨を禁止したり捕鯨に反対する住民が暴動を起こした事例も存在する(捕鯨問題#文化としての捕鯨を参照)[29]

捕鯨

ミナミツチクジラは捕鯨の対象となったことはない。 不明な点もあるが、おそらく絶滅の惧れはあまりないものと考えられている。

一方、ツチクジラは、20世紀、主に日本によって捕鯨の対象になっていた。 日本は1986年の商業捕鯨モラトリアムまでに約4,000頭を捕獲した。 最も多いのは1952年の年間300頭であった。 ソ連カナダアメリカも頭数は少ないが捕鯨を行っていた。 ソ連は1974年に捕鯨を中止するまでに176頭のツチクジラを、カナダアメリカは1966年に中止するまでに60頭のツチクジラをそれぞれ捕獲した。

現在日本は、自主規制による頭数制限(ツチクジラはIWCの管轄外)に従ってツチクジラを捕獲しており、その肉は日本の市場で流通しており、ミンククジラよりも多い。現在行われている程度の捕鯨頭数が種としての存続を脅かすことはないと考えられている。

千葉県房総半島南部の特産品としてツチクジラの肉から作られる鯨のたれが有名である。

近年、房総沖での発見・捕獲が困難になってきているとされるが、捕鯨の影響による個体群の減少なのか分布の変化なのかは不明とされる。同様に、浮島を始めとする東京湾では近年確認されている限りではストランディング個体のみのであり、相模湾伊豆大島周辺でも確認が少なくなってきている。また、日本海では捕鯨の影響が暫く無かったため、人懐っこい個体が増えてきたとも言われるが、近年再開された捕鯨業が行動にどのような影響を及ぼすかは不明である。

食料として見た場合、ツチクジラの体内に含まれる微量の水銀に注意する必要がある。 厚生労働省は、ツチクジラを妊婦が摂食量を注意すべき魚介類の一つとして挙げており、2005年11月2日の発表では、1回に食べる量を約80gとした場合、ツチクジラの摂食は週に1回まで(1週間当たり80g程度)を目安としている[30]

日本のツチクジラ捕鯨の推移

木白による資料に基づく日本のツチクジラ捕鯨の推移である。

  • 17世紀頃 - 明治初頭 - 手投げ銛による小規模な捕鯨
  • 第二次世界大戦後 - 小型捕鯨船による商業捕鯨活発(最も多い時で1952年の年間300頭以上)
  • 1983年 - 年間40頭までに自主規制
  • 1990年 - 年間54頭までに自主規制
  • 1999年 - 別途日本海における捕獲頭数を年間8頭までに自主規制(合計62頭)

ホエールウォッチング

上記の通り、ツチクジラはオホーツク海北海道を中心にホエールウォッチングの対象とされる場合があり、頻度こそ高くないものの、モントレー湾などアメリカ合衆国の沿岸のホエールウォッチングにおいても観察される事がある[31]。しかし、過去には根室海峡にて観光業と商業捕鯨との間に軋轢が生じたこともある[32]

ミナミツチクジラは、分布などの生態情報も少なく観察自体が珍しいため、商業用の観光ツアーが主だった観察対象としている事例もない。

クロツチクジラは、網走市知床半島ではホエールウォッチング船からの観察が記録されており、知床半島では陸上から観察される場合もある[22][23][24]

その他

日本列島の周囲では、漁網への混獲や、とくに相模湾伊豆大島の周辺や日本海側の沿岸にて、本種と高速船の衝突が懸念されている[15][16]

脚注


注釈

出典

  1. ^ 北海道新聞, 2020年07月07日, 「新種クジラ 英名に「Sato」」
  2. ^ 小坪遊, 2019年8月30日, 「カラスと呼ばれたクジラは新種 科博などのチームが発表」, 朝日新聞
  3. ^ 宇仁義和 (2006年). “知床周辺海域の鯨類”. 斜里町立知床博物館(英語版. 知床博物館研究報告. 2023年11月29日閲覧。
  4. ^ らうすのみどころ:クジラの見える丘公園”. 羅臼町. 2023年11月26日閲覧。
  5. ^ ニュージーランド自然保護(英語版) (2020年3月4日). “Mysterious beaked whales are another special feature of our marine biodiversity. Around 20 species are known globally and 13 have been recorded in NZ. Most records are from extremely rare strandings and few have been seen alive!”. Twitter. 2023年11月27日閲覧。
  6. ^ 西村三郎, 1970年,『Recent records of Baird's beaked whale in the Japan Sea』, 61-68頁, 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所水族館
  7. ^ Chang K.; Zhang C.; Park C. et al., eds (2015). Oceanography of the East Sea (Japan Sea). シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア. p. 380. ISBN 9783319227207. https://books.google.com/books?id=qYuQCgAAQBAJ&q=east+korea+bay+whale&pg=PA380 
  8. ^ 平野憲司, 2013年, 第四章 哺乳動物, 7頁, 佐伯市
  9. ^ Huogen W.; Yu W. (1998). “A Baird's Beaked Whale From the East China Sea”. Fisheries Science, 1998-05: CNKI – The China National Knowledge Infrastructure. オリジナルの20 November 2015時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151120223600/http://en.cnki.com.cn/Article_en/CJFDTOTAL-CHAN805.002.htm. 
  10. ^ 粕谷俊雄, 2017年, 『Small Cetaceans of Japan: Exploitation and Biology』, CRCプレス
  11. ^ Kaiya, Zhou; Leatherwood, Stephen; Jefferson, Thomas A. (1995). “Records of Small Cetaceans in Chinese Waters: A Review”. Asian Marine Biology 12: 119–39. オリジナルの4 October 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161004224826/https://swfsc.noaa.gov/uploadedFiles/Divisions/PRD/Publications/Zhouetal95%2826%29.pdf 2024年1月17日閲覧。. 
  12. ^ Kamio A. (1942). “About the accidents in history of Southeastern Santô peninsula”. Geographical Review of Japan 18 (7): 605–609. doi:10.4157/grj.18.605. 
  13. ^ a b 関東雄, 南部久男, 山田格, 石川創, 2005年, 『富山湾の海上における鯨類の目撃記録』, 富山市科学文化センター研究報告第28号,17-24頁
  14. ^ 河野博, 2011年, 『東京湾の魚類』, 第323頁, 平凡社
  15. ^ a b c 辻紀海香, 加賀美りさ, 社方健太郎, 加藤秀弘, 2013年,『日本沿岸域における超高速船航路上の鯨類出現状況分析』, 日本航海学会講演予稿集, 1巻2号, 120-123頁
  16. ^ a b 東海汽船株式会社, 3017年10月16日, 安全への取り組み
  17. ^ クジラ・イルカ・ウミドリウォッチング”. 網走市観光協会. 2023年11月20日閲覧。
  18. ^ 三大海獣との出会い”. ZEM House. 2023年11月20日閲覧。
  19. ^ 函館新聞社, 2010年08年27日「桧山沿岸でクジラ・イルカの目撃増加、観光資源化に期待」
  20. ^ Sato’s beaked whale”. WDC(英語版. 2023年11月29日閲覧。
  21. ^ Ivan D. Fedutin, Olga A. Filatova, Ilya G. Meschersky, エリック・ホイト(英語版) (2022年5月13日). “First confirmed observations of living Sato's beaked whales Berardius minimus”. ジョン・ワイリー・アンド・サンズ. Marine Mammal Science(英語版. 2023年11月29日閲覧。
  22. ^ a b 東京農業大学 (2023年5月12日). “無人航空機による「クロツチクジラ」の 希少な生体撮影に成功”. Digital PR Platform. 2023年11月29日閲覧。
  23. ^ a b 知床で出会う動物たち”. 知床ネイチャークルーズ. 2023年11月29日閲覧。
  24. ^ a b 丘からは観察出来たものの”. 知床ネイチャークルーズ (2023年5月19日). 2023年11月29日閲覧。
  25. ^ Berardius arnuxii — Arnoux's Beaked Whale”. 気候変動・エネルギー・環境・水資源省(英語版. 2023年11月26日閲覧。
  26. ^ Ivan D. Fedutin, Olga A. Filatova, Ilya G. Meschersky, Evgeny G. Mamaev, エリック・ホイト(英語版) (2023年3月15日). “Unusual use of shallow habitats may be evidence of a cultural tradition in Baird's beaked whales”. ScienceDirect. Animal Behaviour(英語版), Volume 209, 121-128頁. 2024年2月12日閲覧。
  27. ^ Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals, Species
  28. ^ 佐久間淳子, 2009年6月30日, 「クジラが魚食べて漁獲減」説を政府が撤回 - 国際捕鯨委員会で森下・政府代表代理が「修正」発言, JanJan
  29. ^ 岩織政美, 田名部清一, 2011年01月, 『八戸浦"クジラ事件"と漁民 : 「事件百周年」駒井庄三郎家所蔵「裁判記録」より』, 327頁, 「八戸浦"くじら事件"と漁民」刊行委員会
  30. ^ 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課 (2003年6月3日). “妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて(Q&A)(平成17年11月2日)”. 魚介類に含まれる水銀について. 厚生労働省. 2013年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月15日閲覧。
  31. ^ Monterey Bay Whale Watch - Whales”. Monterey Bay Whale Watch. 2023年11月26日閲覧。
  32. ^ 倉澤七生, 2007年, 海の生物多様性保全とクジラと私たち, JAWAN通信 No.89, 日本湿地ネットワーク


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