キハダ (植物) 利用

キハダ (植物)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 03:35 UTC 版)

利用

樹皮からコルク質を取り除いて乾燥させたものは、生薬黄檗(おうばく、黄柏)として知られ、薬用のほか染料の材料としても用いられる。蜜源植物としても利用される。

生薬

オウバク
生薬となる乾燥したオウバク
(丹波市立薬草薬樹公園)
生薬・ハーブ
効能 健胃薬
原料 キハダ樹皮
成分 ベルベリンなど
臨床データ
販売名 一般用医薬品検索
法的規制
投与経路 経口(粉末、湯液)
識別
KEGG E00063 D06689
別名 黄檗、黄柏、en:Huáng bǎi
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樹皮からコルク質・外樹皮を取り除いて乾燥させると生薬黄柏(おうばく)となり[10]、12 - 20年で採取できるようになる[13]。樹皮が厚いほど良品とされる[10]。夏のころ(6 - 7月)、樹液流動の盛んな時期に根際から切り倒して枝を払い、幹や枝の太い部分を1メートル間隔に輪状と縦傷をつけて切れ目を入れ、傷口にくさびを差し込んで樹皮をはぎ取り、外皮を除いて内皮の鮮黄色の部分を日干しして採取したものである[10][13][17]

黄柏にはアルカロイドベルベリンパルマチン、マグノフィリンをはじめ、オバクノン、タンニン粘液質などの薬用成分が含まれており、特にベルベリンは苦味成分と抗菌作用を持つといわれる[17][14]。主に苦味健胃、整腸剤として、製薬原料として用いられ[13][17]陀羅尼助百草などの薬に配合されている[15]。また、黄連解毒湯や加味解毒湯などの漢方方剤に含まれる。粘液質やタンニンには収斂や消炎作用があり、打ち身捻挫に外用される[17]日本薬局方においては、黄柏を粉末にしたものを「オウバク末」として薬局などで取り扱われており[17]、本種と同属植物を黄柏の基原植物としている。

民間療法では、胃炎口内炎、急性腸炎腹痛下痢に、黄柏の粉末(オウバク末)1回量1グラムを1日3回服用する用法が知られている[10][13][17]。強い苦味のため、眠気覚ましとしても用いられたといわれている。妊婦や胃腸が冷える人への服用は禁忌とされる[10]

このほか、打撲捻挫腰痛関節リウマチなどに、中皮を粉末にして同量の小麦粉と合わせてでドロドロに練り、布やガーゼに塗って冷湿布にして患部に貼り、乾いたら張り替える[13][18]

アイヌは、熟した果実を香辛料として用いている。

サプリメント

海外では、シナホオノキ 英語版の抽出物とキハダからの抽出物を合わせたサプリメント製品(リローラ、Relora®)が販売され、コルチゾールを低下させるとの報告がある[19]

染料

キハダは、黄蘗色(きはだいろ)ともよばれる鮮やかな黄色の染料で[15][20]、黄色に染め上げる以外に赤や緑色の下染めにも利用される。なかでも、紅花を用いた染物の下染めに用いられるのが代表的で、紅花特有の鮮紅色を一層引き立てるのに役立っている。なお、キハダは珍しい塩基性の染料で、酸性でないとうまく染め上がらない。このため、キハダで下染めをした後は洗浄を十分にする必要がある。

虫食いを防ぐ効果を期待し、仏教経典の染色にも使われた時代もある。現存する正倉院文書薬師寺伝来の『魚養経』などは経年によって茶色く変色しているが、染めた直後は書された文字を映えさせる効果もある[21]

木材

キハダの心材も黄色がかっており、木目が明確であるため、家具材などに使用される[15]。ただし、軽量で軟らかいため、あまりにも強い荷重がかかる場所には向いていない。一部ではの代用材として使用されるが、その場合には桑との区別として「女桑」と表記される。


  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron amurense Rupr. var. amurense キハダ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron amurense Rupr. var. suberosum (H.Hara) H.Hara キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron amurense Rupr. var. lavalleei (Dode) Sprague キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron amurense Rupr. var. sachalinense F.Schmidt キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron sachalinense (F.Schmidt) Sarg. キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron lavalleei Dode キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Phellodendron insulare Nakai キハダ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月27日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 118
  9. ^ a b c 田中孝治 1995, p. 131.
  10. ^ a b c d e f g h i 貝津好孝 1995, p. 24.
  11. ^ a b c d e f 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 221.
  12. ^ 辻井達一 1995, p. 220.
  13. ^ a b c d e f g h i j k l 馬場篤 1996, p. 44.
  14. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 222.
  15. ^ a b c d e 平野隆久監修 1997, p. 246.
  16. ^ a b 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 141.
  17. ^ a b c d e f 田中孝治 1995, p. 132.
  18. ^ 廣部千恵子「日本の民間薬4 : 皮膚のトラブルに対する民間薬2」『清泉女子大学紀要』第50巻、清泉女子大学、2002年12月、87-132頁、CRID 1050001201663234816ISSN 05824435NAID 110000952141 
  19. ^ “Effect of Magnolia officinalis and Phellodendron amurense (Relora®) on cortisol and psychological mood state in moderately stressed subjects.”. Journal of the International Society of Sports Nutrition. (2013). doi:10.1186/1550-2783-10-37. PMID 23924268. 
  20. ^ 新井清, 高沢道孝「古代染色の化学的研究: 第3報古代黄藥染について」『奈良大学紀要』第2号、奈良大学、1973年12月、1-13頁、CRID 1573668927392491136ISSN 0389-2204NAID 120002600810 
  21. ^ 黄蘗色【きはだいろ】『日本経済新聞』朝刊2019年7月14日(NIKKEI The STYLE)18面。





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