包括適応度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/12 03:51 UTC 版)
包括適応度(ほうかつてきおうど、英: Inclusive fitness)とは進化生物学において、1964年にウィリアム・ドナルド・ハミルトンによって定義された進化的成功の2つの指標の1つである。
- 個人適応度とは、個体が生み出す子孫の数(誰が救助・育成・支援するかに関わらず)を指す
- 包括適応度とは、個体がその行動を通じて育成、救助、またはその他の方法で支援する子孫相当数(誰が生み出すかに関わらず)を指す
解説
個体自身の子供は、個体の遺伝子の半分を持っているため、1人の子孫相当と定義される。個体の遺伝子の1/4を持つ兄弟の子供は、1/2の子孫相当である。同様に、個体の遺伝子の1/16を持ついとこの子供は、1/8の子孫相当である。
遺伝子の観点から見ると、進化の成功は最終的に、個体群内に自分自身のコピーを最大限残すことにかかっている。ハミルトンの研究以前は、遺伝子がこれを達成するのは、それが占める個体によって生み出される生存可能な子孫の数を通じてのみであると一般に考えられていた。しかし、これは遺伝子の成功についてのより広範な考察を見落としていた。最も明らかなのは、個体の大多数が(自分自身の)子孫を生み出さない真社会性昆虫の場合である。
概要
英国の進化生物学者ウィリアム・ドナルド・ハミルトンは、個体群の他のメンバーが自分の遺伝子を共有している可能性があるため、遺伝子はその遺伝子を持つ他の個体の繁殖と生存を間接的に促進することによっても、その進化的成功を高めることができることを数学的に示した。これは、「血縁理論」、「血縁選択理論」、または「包括適応度理論」と呼ばれる。このような個体の最も明白なカテゴリーは近親者であり、これらが関係する場合、包括適応度理論の適用は、より直接的に血縁選択説を通じて扱われることが多い[1]。ハミルトンの理論は、互恵的利他主義とともに、自然界における社会的行動の進化の2つの主要なメカニズムの1つと考えられており、一部の行動は遺伝子によって支配され、したがって将来の世代に受け継がれ、生物が進化するにつれて選択される可能性があるとする社会生物学の分野に大きく貢献した[2]。
ベルディングジリスはその一例で、捕食者の存在を警告するために地域集団に警戒の鳴き声を上げる。警戒の鳴き声を発することで、自分の居場所を知らせ、自分自身をより危険にさらすことになる。しかし、その過程で、地域集団内の親族(および集団の他のメンバー)を保護することができる。したがって、警戒の鳴き声に影響を与える形質の効果が通常、周辺のほかのリスを保護する場合、その形質は、リス自身の繁殖によって残せる数よりも多くの警戒の鳴き声の形質のコピーを次の世代に残すことにつながる。このような場合、共有された遺伝子の十分な割合が警戒の鳴き声の素因となる遺伝子を含んでいれば、自然選択は警戒の鳴き声に影響を与える形質を増加させる[3]。
真社会性エビであるユウレイツノテッポウエビは、その社会的特性が包括適応度の基準を満たす生物の一つである。大型の防衛個体は、コロニー内の若い幼体を外敵から守る。若い個体の生存を確保することで、遺伝子は将来の世代に引き継がれ続ける[4]。
包括適応度は、共有遺伝子が同一の祖先由来であることを必要とする厳密な血縁選択説よりも一般化されている。包括適応度は、「血縁」(近親者)が関与する場合に限定されない。
ハミルトンの法則
社会生物学の文脈において、ハミルトンは、包括適応度が利他行動の進化のメカニズムを提供すると提唱した。彼は、これにより自然選択は、包括適応度の最大化と相関する行動をとる生物を優先すると主張した。利他的行動を促進する遺伝子(または遺伝子複合体)が他の個体にも自分のコピーを持っている場合、それらの個体の生存を助けることで、遺伝子が受け継がれることが保証される。
ハミルトンの法則は、利他的行動の遺伝子が個体群内で広がるかどうかを数学的に表現している。
包括適応度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/22 02:56 UTC 版)
適応度をある個体の子孫だけでなくその親族、あるいは同じ対立遺伝子を持つ可能性のある他個体にまで広げたものを包括適応度と言う。社会性行動の進化を扱うさいには包括適応度を用いなければならない。この場合は通常、子にも包括適応度における血縁度の計算が適用される(有性生殖では子の遺伝的価値は親の半分であり、親子の進化的対立の原因である)。包括適応度は遺伝的適応度の概念の一つであり、包括適応度を個体の数で計算すると混乱の原因となる。包括適応度の上昇はある社会行動の効果に対して用いられる。例えば自分が親族を助けたことでその親族が多くの子を残した場合、自分の「利他行動に関する対立遺伝子」の包括適応度が上昇する。全く別の地域に移住し相互作用できなくなった親族が子を産んでも自分の包括適応度が上昇したことにはならない。 適応度の概念を提唱し、数学的なモデルとして構築したのは集団遺伝学者ロナルド・フィッシャー、J・B・S・ホールデン、シューアル・ライトらであった。W.D.ハミルトンはこれを拡張して包括適応度を提唱した。さらに後年、G.プライスの共分散則を取り入れて、包括適応度を親族以外にも適用できる概念へと拡張した。
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