missing-self説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 10:06 UTC 版)
「ナチュラルキラー細胞」の記事における「missing-self説」の解説
NK細胞が抗原を認識せずに細胞を殺すといっても、正常な自己の細胞は攻撃しない。では何を認識しているのかが問題になるが、1986年にKarreらが提唱したのがmissing-self説である。これは、NK細胞はMHCクラスI分子の発現レベルが低い細胞を認識するというものである。MHCクラスI分子は自己のマーカーであり、すべての体細胞表面に発現しているはずのものである。そこでMHCクラスI分子がない細胞があれば、それは自己性を喪失(missing self)した異常な細胞であると見なして攻撃しても良いと考えられる。 実際に腫瘍やウイルスに感染した細胞などでは、MHCクラスI分子の発現が低下していることがある。これは、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の抗原認識にMHCクラスI分子が必要なことと関係がある。MHCクラスI分子を発現している腫瘍細胞はキラーT細胞によって攻撃されるが、もし遺伝子異常によりMHCクラスI分子の発現が低下するとキラーT細胞の攻撃から逃れることができる。そこでキラーT細胞から逃れた細胞をNK細胞が攻撃するという相補的な関係にあると考えられた。 この説はその後、MHCクラスI分子を認識する抑制性受容体が発見されたことで、一部のNK細胞については正しいことが示された。ただし、研究用など、特殊な選別を受けた異常なNK細胞が、MHCクラスIを発現するがん細胞を攻撃しにくくなることが証明されたに過ぎない。野生型のNK細胞は、活性が高ければどのようながん細胞でも攻撃するが、そもそも単一物質や一種類のセンサーだけで相手の正体を見極めるのは不可能である。 その後の研究によって、NK細胞は生まれながらに何十種類ものKARやKIRと呼ばれるセンサー群をもち、これらを組み合わせて使うことでがんを認識していることが判明した。MHCクラスIを認識し攻撃抑制信号を発するセンサーは実際に存在するものの、それはいくつも種類があるKIRの内の一つに過ぎず、さらにMHCクラスIに反応するKIRをもたないNK細胞も多く存在する。また、MHCクラスIに反応して抑制信号を発するKIRを持つNK細胞であっても、活性が高ければ多種大量のKARが発現し、これらが発する攻撃信号がKIRの発する攻撃抑制信号を圧倒するため、標的細胞がMHCクラスIをもっていても、相手ががん細胞であれば攻撃することができる。
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