ハニーの天体とは? わかりやすく解説

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ハニーの天体

(Hanny's objects から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/12/19 10:05 UTC 版)

ハニーの天体
Hanny's Voorwerp
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したハニーの天体(画像下)
仮符号・別名 SDSS J094103.80+344334.2
星座 こじし座
見かけの等級 (mv) 21.488(g)[1]
分類 銀河[1]
クエーサーの電離エコー
発見
発見日 2007年
発見者 ハニー・ファン・アーケル
発見方法 市民科学プロジェクトでの画像の観察
位置
元期:J2000.0[1]
赤経 (RA, α)  09h 41m 03.81s[1]
赤緯 (Dec, δ) +34° 43′ 34.3″[1]
距離 約6億5000万光年(約1.99Mpc)
他のカタログでの名称
SDSS J094103.80+344334.2
Template (ノート 解説) ■Project

座標: 09h 41m 03.81s, +34° 43′ 34.3″

ハニーの天体(ハニーのてんたい、:Hanny's Voorwerp:Hanny's objects[ˈhʌniz ˈvɔːrwɛərp])はクエーサー電離エコーと呼ばれる天文現象を起こしている天体である[2][3][4][5]。 この天体は2007年に、オンライン上の市民科学プロジェクトのギャラクシー・ズーに参加していたボランティアであるオランダの教師、ハニー・ファン・アーケル(Hanny van Arkel)が、プロジェクト内で提示された銀河の画像を見ている際に発見したためこの名前で呼ばれており、論文やSIMBADなどのNASAのデータベースなどでもこの呼称が使われる。特異な天体として様々な研究の対象となり、関連論文は2025年10月時点で100件近くに達している[1]。 画像上では、こじし座渦巻銀河IC 2497英語版のそばにある明るい光の塊として見える。

詳細

ハニーの天体 (HsV)は小型の銀河ほどの大きさを持ち、中心部に差し渡し16000光年に達する穴が開いている。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像ではHsVは緑色に着色されており、これは酸素によるスペクトル線が明るく目立っている天体で標準的な疑似カラー処理の際に見られる色である。HsVは地球から6億5000万光年離れており、これはそのすぐ隣に位置する銀河IC 2497と同じ距離である。

HsVのうちIC 2497に面する側では星形成が起こっている。電波観測によると、IC 2497の中心核から流れ出るガスがHsVの小さな領域と相互作用を起こし流れが崩れ、そこで多数の星を形成していると示唆されている。形成された恒星の中で最も若いものはまだ誕生後数百万年と見積もられている[6]

2010年9月3日アトランタで開催された第24回ドラゴン・コンでは、HsVやその周辺の物語を描いた40ページの漫画や様々なプロモーションが公開されると共に、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したHsVの画像も初めて公開された[7][8][9]。 この公開の様子はUstreamで全世界に同時配信された[9]

成因の仮説

ハニーの天体の形成仮説の概説図

HsVの正体の仮説として、約10万年前にIC 2497銀河の中心で発生した明るいクエーサーからの放射の影響を受けた、小さな銀河の残骸で構成されているというものがある[10]。 このクエーサーからの放射イベントは、HsVの特徴でもあるその強い放射を誘発したと考えられている。ただしこのクエーサー自体は過去20万年以内にその活動を停止したと考えられ、現在利用可能なアーカイブ画像にもその姿は写っていない[6]。この一連のプロセスは「AGNフィードバック」として知られている[11]

HsVを照らす光源のクエーサーが見つからないことの説明として、このクエーサーの増光が突発的な現象だったとする説もある。 この場合では、クエーサーとHsVとの距離が何万光年も離れているため、クエーサーの放射がHsVに伝わるまでにも数万年のタイムラグがあり、クエーサーが暗くなってからもしばらくはHsVは強い光を放ち続けることが可能である。 つまり、HsVは現在銀河系で観測されているようなものよりもはるか昔から起こっている、大規模な光エコー現象であるといえる[12]

2010年6月17日に、ヨーロッパVLBIネットワークとイギリスのMERLIN英語版(多素子電波干渉計ネットワーク)の研究者グループは、別の仮説を提唱した。 彼らは、HsVが2つの光源によって光っているとし、1つはIC 2947中心にある超大質量ブラックホールで、もう1つはそのブラックホールの宇宙ジェットとIC 2497を取り囲むガスとの相互作用であると説明した[13]

IC 2497からの拡張X線放射

2016年4月に王立天文学会月報から出版された、2012年1月にチャンドラX線観測衛星が観測したデータを用いた論文では、IC 2947から軟X線の放射が発見され、これはAGNを囲むようなバブルや空洞が存在していることを示すとされた[14]。このバブルは、AGNや過去の高輝度クエーサーによって膨張したと仮説がつけられている。

Voorwerpjesの研究

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した8個のクエーサーの電離エコー、Voorwerpjes

2012年2月にW. C. Keelらは王立天文学会月報から出版された論文で、活動銀河核の歴史を研究する中でHsVのような電離雲への関心が高まったことを受けてギャラクシー・ズーの参加者にスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の画像を使って同様の天体がないかを広範囲にわたって探してもらった結果、銀河核から10キロパーセク以上離れた位置に活動銀河核によって電離されたガス雲が見つかった銀河が19個検出されたと発表した[15]。 グループではこれらの天体を、オランダ語で「小さな天体」を意味するVoorwerpjesという愛称で呼び、その後も広く使われるようになった。

2013年8月にF. Schweizerらによってアストロフィジカルジャーナルから出版された論文では、相互作用銀河として従来から盛んに研究されていたNGC 7252英語版の外縁部にVoorwerpjeが発見されたと報告された[16]

2015年5月にW.C. Keelらによってアストロフィジカルジャーナルから出版された論文では、最初に発表された19個のVoorwerpjesのうち8個についてその母銀河の性質やガスの起源について詳しく研究された[17]。この詳細観測には、ロシア科学アカデミー特別天体物理学観測所英語版BTA-6など、世界中の大望遠鏡が使用された。

2018年2月にTreisterらは、ギャラクシー・ズーのボランティアがVoorwerpjesの候補であるとして挙げており、既に先行研究でO IIIの輝線も検出されていた銀河であるMrk 463を、チリの超大型望遠鏡(VLT)のマルチユニット分光器英語版(MUSE)と近赤外線積分視野観測用分光器(SINFONI)、そしてアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)で観測した。 その結果、銀河周辺から拡張放射が見つかったほか、Mrk 463の核の超大質量ブラックホールへの降着率が過去4万年間に3倍から20倍もの変化を見せていることも見つかり、これは他のVoorwerpjesを有する銀河と共通する特徴であった[18]

2018年3月にはLansburyらが、ギャラクシー・ズーのボランティアによってVoorwerpjesに分類されており、ティーカップ銀河、ティーカップAGNという愛称で呼ばれていたクエーサーSDSS J1430 + 1339について[19]スウィフトX線観測衛星チャンドラX線観測衛星を用いてX線で観測した。このティーカップAGNの東側に広がる、東部バブルと呼ばれる雲は可視光で観測でき、西側に広がる西部バブルと呼ばれる雲は超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)の電波画像でしか観測できないことが分かっていた[20]。チャンドラによる観測で、このうち東部バブルに対応する位置からX線の放射が観測された。チャンドラのデータは、バブル内部により高温のガスが存在する証拠も示しており、ブラックホールからの物質の風が到達していることを示唆している。このようなクエーサーの放射で駆動される風がティーカップ銀河で見られる泡構造を作った可能性が指摘された。 また、X線観測によって、とても強力だがガスや塵に隠された活動銀河核も発見された。この新たな結果によって、AGNが完全に暗くなる必要は無いことも分かった。このクエーサーは、過去10万年の減光量は最大でも25分の1にとどまる[21][22]

2019年3月にはKeelらが、銀河のペアにおけるAGNの電離ガスについての研究を発表した。この研究でUGC 6081がVoorwerpjesの候補となることが、シャマフ天体物理天文台の2.5m望遠鏡による観測データから分かった。 この放射は両方のAGNから18キロパーセク離れていた[23][24]

ギャラリー

関連項目

出典

  1. ^ a b c d e f SDSS J094103.80+344334.1”. 2025年10月5日閲覧。
  2. ^ G.I.G. Józsa; M.A. Garrett; T.A. Oosterloo; H. Rampadarath; H. van Arkel; C. Lintott; W.C. Keel; K. Schawinski et al. (July 2009). “Revealing Hanny's Voorwerp: radio observations of IC 2497”. アストロノミー・アンド・アストロフィジックス 500 (2): 33–36. arXiv:0905.1851. Bibcode2009A&A...500L..33J. doi:10.1051/0004-6361/200912402. 
  3. ^ C.J. Lintott; K. Schawinski; W. Keel; H. van Arkel; N. Bennert; E. Edmondson; D. Thomas; D.J.B. Smith et al. (2009-09). “Galaxy Zoo: 'Hanny's Voorwerp', a quasar light echo?”. 王立天文学会月報 399 (1): 129–140. arXiv:0906.5304. Bibcode2009MNRAS.399..129L. doi:10.1111/j.1365-2966.2009.15299.x. 
  4. ^ Keel, W. C.; Lintott, C. J.; Schawinski, K.; Bennert, V. N.; Thomas, D.; Manning, A.; Chojnowski, S. D.; van Arkel, H. et al. (2012-08). “The History and Environment of a Faded Quasar: Hubble Space Telescope Observations of Hanny's Voorwerp and IC 2497”. アストロノミカルジャーナル 144 (2): 16. arXiv:1206.3797. Bibcode2012AJ....144...66K. doi:10.1088/0004-6256/144/2/66. 
  5. ^ Rincon, P. (2008年8月5日). “Teacher finds new cosmic object”. BBC News. 2012年10月19日閲覧。
  6. ^ a b Hubble Zooms in on a Space Oddity”. ヨーロッパ南天天文台. 2011年1月11日閲覧。
  7. ^ Dragon Con 2010 Pocket Program Guide”. Dragon Con. p. 52 (2010年9月3日). 2016年9月6日閲覧。
  8. ^ Hanny and the Mystery of the Voorwerp”. Zooniverse (2010年9月). 2016年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月6日閲覧。
  9. ^ a b The Comic about The Voorwerp!”. Hanny van Arkel (2010年8月20日). 2021年5月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月16日閲覧。
  10. ^ “Stars in their eyes: An armchair astronomer discovers something very odd”. エコノミスト. (2008年6月26日). http://www.economist.com/science/displayStory.cfm?source=hptextfeature&story_id=11614176 2008年6月30日閲覧。 
  11. ^ Fabian, A. C. (2012). “Observational Evidence of Active Galactic Nuclei Feedback”. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 50: 455. arXiv:1204.4114. Bibcode2012ARA&A..50..455F. doi:10.1146/annurev-astro-081811-125521. 
  12. ^ 'Cosmic ghost' discovered by volunteer astronomer”. Phys.org (2008年8月5日). 2025年10月5日閲覧。
  13. ^ Baldwin, E. (2010年6月25日). “Radio observations shed new light on Hanny's Voorwerp”. Astronomy Now. 2012年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月5日閲覧。
  14. ^ L.F. Sartori; K. Schawinski; M. Koss; E. Treister; W.P. Maksym; W.C. Keel; C.M. Urry; C.J. Lintott et al. (2016). “Extended X-ray emission in the IC 2497 - Hanny's Voorwerp system: energy injection in the gas around a fading AGN”. 王立天文学会月報 457 (4): 3629–3636. arXiv:1601.07550. Bibcode2016MNRAS.457.3629S. doi:10.1093/mnras/stw230. 
  15. ^ W.C. Keel; S.D. Chojnowski; V.N. Bennert; K. Schawinski; C.J. Lintott; S. Lynn; A. Pancoast; C. Harris et al. (2012-02). “The Galaxy Zoo survey for giant AGN-ionized clouds: past and present black hole accretion events”. 王立天文学会月報 420 (1): 878–900. arXiv:1110.6921. Bibcode2012MNRAS.420..878K. doi:10.1111/j.1365-2966.2011.20101.x. 
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  17. ^ W.C. Keel; W.P. Maksym; V.N. Bennert; C.J. Lintott; S.D.Chojnowski; A. Moiseev; A. Smirnova; K. Schawinski et al. (2015-05). “HST Imaging of Fading AGN Candidates. I. Host-galaxy Properties and Origin of the Extended Gas”. アストロフィジカルジャーナル 149 (5): 23. arXiv:1408.5159. Bibcode2015AJ....149..155K. doi:10.1088/0004-6256/149/5/155. 
  18. ^ Treister, Ezequiel; Privon, George C.; Sartori, Lia F.; Nagar, Neil; Bauer, Franz E.; Schawinski, Kevin; Messias, Hugo; Ricci, Claudio et al. (2018-02). “Optical, Near-IR, and Sub-mm IFU Observations of the Nearby Dual Active Galactic Nuclei MRK 463” (英語). The Astrophysical Journal 854 (2): 83. arXiv:1801.06190. Bibcode2018ApJ...854...83T. doi:10.3847/1538-4357/aaa963. ISSN 0004-637X. 
  19. ^ teacup agn”. sim-basic. 2020年1月26日閲覧。
  20. ^ Harrison, C. M.; Thomson, A. P.; Alexander, D. M.; Bauer, F. E.; Edge, A. C.; Hogan, M. T.; Mullaney, J. R.; Swinbank, A. M. (February 2015). “STORM IN A "TEACUP": A RADIO-QUIET QUASAR WITH $\approx$10 kpc RADIO-EMITTING BUBBLES AND EXTREME GAS KINEMATICS” (英語). アストロフィジカルジャーナル 800 (1): 45. doi:10.1088/0004-637X/800/1/45. ISSN 0004-637X. http://dro.dur.ac.uk/15487/1/15487.pdf. 
  21. ^ Lansbury, George B.; Jarvis, Miranda E.; Harrison, Chris M.; Alexander, David M.; Moro, Agnese Del; Edge, Alastair C.; Mullaney, James R.; Thomson, Alasdair P. (2018-03). “Storm in a Teacup: X-Ray View of an Obscured Quasar and Superbubble” (英語). アストロフィジカルジャーナル 856 (1): L1. arXiv:1803.00009. Bibcode2018ApJ...856L...1L. doi:10.3847/2041-8213/aab357. ISSN 2041-8205. 
  22. ^ Chandra :: Photo Album :: SDSS J1430+1339 :: March 14, 2019”. chandra.harvard.edu. 2020年1月26日閲覧。
  23. ^ Keel, William C.; Bennert, Vardha N.; Pancoast, Anna; Harris, Chelsea E.; Nierenberg, Anna; Chojnowski, S. Drew; Moiseev, Alexei V.; Oparin, Dmitry V. et al. (2019-03). “AGN photoionization of gas in companion galaxies as a probe of AGN radiation in time and direction” (英語). 王立天文学会月報 483 (4): 4847–4865. arXiv:1711.09936. Bibcode2019MNRAS.483.4847K. doi:10.1093/mnras/sty3332. ISSN 0035-8711. 
  24. ^ billkeel (2018年12月10日). “Active galaxies illuminating their companions – Galaxy Zoo identifies cross-ionization” (英語). Galaxy Zoo. 2020年1月26日閲覧。

参考文献

外部リンク




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