類体論
数学における類体論(るいたいろん、英: class field theory, 独: Klassenkörpertheorie)は、代数的整数論の理論。代数体のアーベル拡大を一般化されたイデアル類群やイデール類群といったその体に内在的な数学的対象と関係付け分類・記述する。
有限体上の代数曲線の函数体や局所体に対しても同様の理論が成り立ち、類体論という言葉はこれらの理論の総称としても用いられる。
概説
<翻訳>類体論は難しいという評判である。これは確かに一理あるが、ただ難しいだけなのではない。結果が完全な簡明さと強力さを兼ね備えているにもかかわらず、証明が難解なのだ。全科学を見渡しても類体論ほどこのような特徴を備えている理論は他には見つからないだろう。
体 K のガロア拡大であってそのガロア群がアーベル群であるものを K のアーベル拡大という。例えば二次拡大や円分拡大、クンマー拡大などがアーベル拡大の例である。
類体論とは、K が代数体の場合にそのアーベル拡大という K の外部の対象がどれだけ存在しどのような性質を持つかを K に内在的な数学的対象で記述できることを示した理論である。
古典的なイデアル論を用いた定式化では、内在的な数学的対象として一般化されたイデアル類群というものが用いられる。有限次アーベル拡大 L/K があると、これに対応する一般化されたイデアル類群が定まり、アルティン写像によってこのイデアル類群とガロア群 Gal(L/K) は同型になる。これをアルティン相互法則という。逆に、一般化されたイデアル類群があると、対応する有限次アーベル拡大が定まり、同様のことが成り立つ。これを高木の存在定理という。このようにして「有限次アーベル拡大」と「一般化されたイデアル類群」が一対一に対応するというのが類体論の主要な結果である。
{ 有限次アーベル拡大 } ← 1:1 → { 一般化されたイデアル類群 }
通常の意味でのイデアル類群も一般化されたイデアル類群の一つであるので、これに対応するアーベル拡大が存在する。このアーベル拡大は最大不分岐アーベル拡大という性質を持っている。これには特別にヒルベルト類体という名前がつけられている。
類体論は有限次アーベル拡大を分類するだけではなく、アルティン相互法則によって各アーベル拡大での素イデアルの分解の様相も教えてくれる。素イデアルがあると、フロベニウス元と呼ばれるガロア群の元が定まる。素イデアルの分解の様相はこの元を見ればわかる。アルティン相互法則によってフロベニウス元に対応する一般化されたイデアル類群の元が定まる。これは元の素イデアルの剰余類である。よってこの剰余類をみれば素イデアルの分解の様相が分かる。このことは二次体における素数の因数分解の様子を完全に与える二次の相互律の広範な一般化になっている。三次の相互律といったようなより高次の「冪剰余の相互律」もアルティン相互法則から導くことができる。数論的にはこの点も重要である。
「類体論」という名称は一般化されたイデアル類群に対応するアーベル拡大を類体と呼んでいたことにちなむ。類体は特別な有限次アーベル拡大体と思われていたが、予期に反して有限次アーベル拡大体はすべて類体であることが判明した。標語的に言えば有限次アーベル拡大=類体である。類体論の研究対象が任意のアーベル拡大であるのはこのためである。
有限次アーベル拡大を個別に一般化されたイデアル類群に対応させるのではなく、K の有限次アーベル拡大をすべて合成した最大アーベル拡大 Kab のガロア群を直接記述する方法も知られている。有限次代数体の場合、その最大アーベル拡大のガロア群 Gal(Kab/K) は無限群になるが、クルル位相により位相群とみたときこれは副有限群の構造を持つ。現代的な類体論の定式化では、イデール類群(イデール群を体の乗法群で割ったもの)と呼ばれる K から(おおよそ)内在的に定まる位相群から Gal(Kab/K) への相互律準同型(reciprocity homomorphism)と呼ばれる準同型が構成される。ガロア対応により有限次アーベル拡大は Gal(Kab/K) の開部分群と一対一対応し、相互律準同型によりそれはイデール類群の開部分群と一対一対応する。有限次アーベル拡大に対応するイデール類群の開部分群は、その有限次アーベル拡大体のイデール類群のノルム写像による像として特徴づけられる。
{ 有限次アーベル拡大 }
↕ 1:1
{
Gal(Kab/K) の開部分群
}
↕ 1:1
{ イデール類群の開部分群 }
代数体に対する類体論は、1910年代から1920年代にかけて、高木貞治やエミール・アルティンらによって証明された。その後、1930年代以降に大域体の完備化である局所体についても同様の理論が確立された。これは局所類体論と呼ばれている。局所類体論では局所体 K の乗法群 K× を用いてそのアーベル拡大が分類・記述される。また有限体上の一変数代数関数体に対しても同様の理論が確立された。有限体上の一変数代数関数体と代数体はまとめて大域体もしくは一次元大域体と呼ばれるので、これらに対する類体論は大域類体論と呼ばれる。
代数体についての類体論の元々の証明は、代数体に対して直接類体論を証明するというものだった。その後、局所体類体論を使って証明するという手法が確立された。現代の類体論の教科書ではこの手法による証明を採用しているものが多くある。
イデアルを使った定式化
類体論の主要な結果は少し用語と記号を準備すれば簡単に述べることができる。以降、この節を通して K は任意の有限次代数体を表すものとする。
用語と記号
代数体 K のすべての素点 𝔭 をわたる形式的な無限積 𝔪 = ∏𝔭 𝔭n𝔭 で次の3条件を満たすものを(K の)モジュラス[1]という。
- n𝔭 ≧ 0
- ほとんどすべての 𝔭 に対して n𝔭 = 0
- 無限素点 𝔭 については n𝔭 が0もしくは1
モジュラスに対して、約数、倍数、最大公約数、最小公倍数、割り切れる、素点の指数、などの概念が自然に定義される[2]。K の整数環の0ではないイデアルは素イデアル分解を使って自然にモジュラスとみなせる。
モジュラス 𝔪 の有限素点だけを取り出したものを 𝔪0 = ∏𝔭∤∞ 𝔭n𝔭 と書く[3]。ここで、素点 𝔭 が有限素点であることを 𝔭∤∞、無限素点であることを 𝔭∣∞ と表している[4]。𝔪0 を 𝔪 の有限部分(finite part)という[1]。これは自然に K のイデアルと思える。
K の分数イデアルで 𝔪 の有限部分と互いの素なもの全体を I𝔪 と置く。これは自然に群になる。群としての構造は 𝔪 と互いに素な素イデアルを底とする自由アーベル群である。
I𝔪 の部分群 P𝔪 を (α/β) という形の単項イデアル全体とする[1]。ここで α と β は K の0ではない整数で以下の条件を満たすものである。
- α と β は 𝔪0 と互いに素
- α ≡ β mod 𝔪0
- 実素点 𝔭 に対して α𝔭/β𝔭 > 0。ここで K の元 γ に対して γ𝔭 で実素点 𝔭 による γ の像を表している。
包含関係 I𝔪 ⊃ H ⊃ P𝔪 にある群 H を 𝔪 を法とする合同群(congruence subgroup modulo 𝔪)と呼ぶ [5]。
L/K を有限次拡大とする。 I𝔪 の部分群 N𝔪(L/K) を L の分数イデアルのノルムになっているような元全体とする。これは 𝔭f(𝔭 は K の素イデアルで 𝔪 と互いに素なもの、f はそれの L/K における剰余次数)で生成される I𝔪 の部分群である[6]。H𝔪(L/K) = P𝔪・N𝔪(L/K) と置く。これを拡大 L/K に対する合同群という[7]。
さらに L/K はアーベル拡大であったとする。この拡大で不分岐な K の素イデアル 𝔭 に対してそのフロベニウス元を (L/K/𝔭) ∈ Gal(L/K) と書く。L/K で分岐する素イデアルを含まない分数イデアル 𝔞 に対しても、素イデアル分解を使って (L/K/𝔞) を定義する。この記号をアルティン記号(Artin symbol)と呼ぶ。モジュラス 𝔪 が L/K で分岐する素イデアルすべてで割り切れるなら、アルティン記号により I𝔪 から Gal(L/K) への群準同型が定義される。これをアルティン写像(Artin map)と呼ぶ[8]。
類体論の主結果
類体論の主結果は次の相互法則と存在定理である。
相互法則
代数体の任意の有限次アーベル拡大 L/K に対して、この拡大で分岐するすべての(有限及び無限[注釈 1])素点で割り切れるモジュラス 𝔪 が存在し、このモジュラスに対してアルティン写像は全射かつその核はこの拡大の合同群と等しい。したがってアルティン写像から同型
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