A-安定性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/18 03:25 UTC 版)
線型テスト方程式 y ′ = λ y {\displaystyle y'=\lambda y} を考える。一つのルンゲ=クッタ法を使ってこの方程式に適用すると y n + 1 = r ( h λ ) y n {\displaystyle y_{n+1}=r(h\lambda )y_{n}} となる。ここで、 r ( z ) = 1 + z b T ( I − z A ) − 1 e = det ( I − z A + z e b T ) det ( I − z A ) {\displaystyle r(z)=1+zb^{T}(I-zA)^{-1}e={\frac {\det(I-zA+zeb^{T})}{\det(I-zA)}}} は安定性関数と呼ばれる C 上の有理関数である(e はすべての成分が 1 のベクトル[要曖昧さ回避]である)。s 段法の場合、行列式の展開によって r(z) は二つの s 次多項式の商となる。陽的方法の場合、対応するルンゲ=クッタ行列が狭義下三角行列であるため、 det ( I − z A ) = 1 {\displaystyle \det(I-zA)=1} がわかる。したがって、r(z) は s 次多項式となる。 ルンゲ=クッタ法による上記の方程式の数値解がゼロに減衰する条件が | r ( z ) | < 1 {\displaystyle |r(z)|<1} ( z = h λ {\displaystyle z=h\lambda } ) である。上記の条件を満たす z の集合は方法に対する 絶対安定性領域 (region of absolute stability) である。 特に、絶対安定性領域が左複素数平面を含むとき、その方法は A-安定 (A-stable) という。陽的ルンゲ=クッタ法は、安定性関数が多項式であるため、A-安定な方法になれない。 もっと一般的に、方法の次数が p のときに、安定性関数に対し r ( z ) = e z + O ( z p + 1 ) {\displaystyle r(z)=e^{z}+O(z^{p+1})} が成立する。ゆえに、指数関数 ez の、与えられた次数の多項式の商からなる有理関数の中での最善近似が重要だと考えられる。 そのような有理関数はパデ近似式(英語版)と呼ばれる。分子の次数が m で分母の次数が n のパデ近似式がA-安定性の条件 | r ( z ) | < 1 {\displaystyle |r(z)|<1} , R e ( z ) ≤ 0 {\displaystyle \mathrm {Re} (z)\leq 0} を満足するための必要十分条件は、 m ≤ n ≤ m + 2 {\displaystyle m\leq n\leq m+2} である。 s 段ガウス・ルジャンドル法の次数は前述通り 2s である。よって安定性関数の分子と分母は同じく s 次多項式となる。すなわち、 m = n = s {\displaystyle m=n=s} である。上記の条件が満たされるので、ガウス・ルジャンドル法はA-安定であることがわかる。故に任意に高い次数を持つ、A-安定なルンゲ=クッタ法が存在する。比べて、A-安定性を持つ線型多段法の次数は2以下である。 以上のことから、陰的ルンゲ=クッタ法は陽的方法より優れる安定性を持つこともわかる。
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