能村登四郎とは? わかりやすく解説

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能村登四郎

能村登四郎の俳句

あたらしき声出すための酢牡蠣かな
おぼろ夜の霊のごとくに薄着して
きのふてふ遥かな昔種子を蒔く
くちびるを出て朝寒のこゑとなる
すぐ帰る若き賀客を惜しみけり
すこしづつ死す大脳のおぼろかな
たわいなき春夢なれども汗すこし
てのひらの艶をたのめる初湯かな
ひだり腕すこし長くて昼寝せり
べつたりと掌につく春の樹液かな
むばたまの黒飴さはに良寛忌
ゆつくりと光が通る牡丹の芽
よき教師たりや星透く鰯雲
ガニ股に歩いて今日は父の日か
一度だけの妻の世終る露の中
一撃の皺が皺よぶ夏氷
一雁の列をそれたる羽音かな
今思へば皆遠火事のごとくなり
今日の授業誤ちありし青葉木萸
優曇華や寂と組まれし父祖の梁
冬あをき椿葉にほひ部落婚
冬濱に鋸屑なだれ匂ひをり
冬垣結ひ結氷前の唇緘づる
凧の子の恍惚の眼に明日なき潟
初あかりそのまま命あかりかな
刳り舟に冬浪とほく泡立てる
削るほど紅さす板や十二月
匂ひ艶よき柚子姫と混浴す
去年よりも自愛濃くなる懐手
吾子すがる手力つよし露無量
墓洗ふみとりの頃のしぐさ出て
夏つばめ同齡者みな一家なす
夕霧の嶺に泛ぶ湖面標識よ
夜間教師慂められをり夜も野分
大家族の椀箸あらふ露の井に
夫は出稼鍋墨を枯るゝ潟に流し
妻死後を覚えし足袋のしまひ場所
子とみれば雪ゆたかなり童話劇
子にみやげなき秋の夜の肩車
子等に試驗なき菊月のわれ愉し
履歴書の手擦れてもどる俄雪
己が糞踏み馬たちに冬長からむ
教師に一夜東をどりの椅子紅し
教師やめしその後知らず芙蓉の實
早苗饗の夜は紅さして星も酔ふ
春ひとり槍投げて槍に歩み寄る
曉紅に露の藁屋根合掌す
月明に我立つ他は箒草
朴散りし後妻が咲く天上華
板前は教へ子なりし一の酉
 

能村登四郎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/08 20:08 UTC 版)

能村 登四郎(のむら としろう、1911年1月5日 - 2001年5月24日)は、日本俳人水原秋桜子に師事、「」を創刊・主宰。東京都出身。

経歴

東京都台東区谷中に、7人兄弟の四男として生まれる[1]。1918年、東京都北区田端に引っ越し、錦城中学に入学する[1]。中学時代、伯父から手ほどきを受けて俳句をはじめる[1]。1931年、國學院大學高等師範部に入学[1]国文学を学ぶ。在学中、短歌同人誌『装填』に参加し、林翔と出会う[1]。1938年、俳誌『馬酔木』に入会[2]水原秋桜子に師事[1]。同年、私立市川学園の教諭となる[2]。同校は林翔も教員として勤めた。

1945年、応召[1]。除隊後、教員に復職し[1]、1946年に復刊した『馬酔木』に投句を再開[1]。1947年、生まれて間もない次男を、翌年に6歳の長男をそれぞれ病気により相次いで失う。1948年、馬酔木新人賞を受賞[2]、『馬酔木』同人となる[2]。1956年、馬酔木賞、現代俳句協会賞受賞[2]。1970年『』創刊・主宰[2]。林翔が編集人を務める。同誌からは正木ゆう子中原道夫筑紫磐井今瀬剛一小澤克己鈴木鷹夫、鈴木節子[3][4]大牧広鎌倉佐弓と多様な俳人が巣立った。1964年、市川学園の教頭として教育功労賞を受賞[1]。1978年まで市川学園に勤めた[1]

1981年『馬酔木』を辞す。1985年、句集『天上華』で蛇笏賞受賞[2]、1990年、勲四等瑞宝章受章[2]、1993年、句集『長嘯』で詩歌文学館賞受賞[1]。1997年、市川市民文化賞受賞[2]。2001年5月、『沖』主宰を三男の能村研三に譲り、同年5月24日に死去[1]

作品

  • 長靴に腰埋め野分の老教師
  • 火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ
  • 春ひとり槍投げて槍に歩み寄る
  • 一度だけの妻の世終る露の中
  • 厠にて国敗れたる日とおもふ
  • 霜掃きし箒しばらくして倒る

などが代表句として知られる。第1句集『咀嚼音』(1954年)では教師としての生活を中心に詠み、第2句集『合掌部落』(1957年)は社会性俳句のあおりを受けつつ、作風の転換をはかるため飛騨白川村など各地に取材にして成った風土性の強い句によって編まれた[5][6]。その後方向性に悩み10年あまり句風を摸索。第三句集『枯野の沖』(1970年)では人間の内面をも取り込みつつ、素材に凭れず、句に余分な語りのない、イメージを重視した作風に行き着く。結社名「沖」の由来となった「火を焚くや」の句はその記念碑的作品である[6][7][8]

門下の中原道夫は、師である登四郎の句風について「強いて言えば、人間の内的風景をも取り込んでしまっている優しさとでも言おうか、人間も自然の風景の一部であるという考え方にたっている」[9]と評する。老境に至っても創作意欲が衰えず却ってさかんに句を発表、晩年の句は「老艶」の境地に達したと評される[5]

著書

句集

  • 第1句集『咀嚼音』 近藤書店、1955年
  • 第2句集『合掌部落』 近藤書店、1957年
  • 第3句集『枯野の沖』 牧羊社、1970年
  • 第4句集『民話』 牧羊社、1972年
  • 第5句集『幻山水』 永田書房、1975年
  • 第6句集『有為の山』 永田書房、1978年
  • 第7句集『冬の音楽』 永田書房、1981年
  • 第8句集『天上華』 角川書店、1984年
  • 第9句集『寒九』 角川書店、1987年
  • 第10句集『菊塵』 求龍堂、1989年
  • 第11句集『長嘯』 角川書店、1992年
  • 第12句集『易水』 朝日新聞社、1996年
  • 第13句集『芒種』 ふらんす堂、1999年
  • 第14句集『羽化』 角川書店、2001年
  • 『花神コレクション 能村登四郎』 花神社、1992年
  • 『俳句文庫 能村登四郎』 春陽堂、1992年
  • 『人間頌歌 能村登四郎句集』 ふらんす堂、1995年
  • 『脚註名句シリーズ 能村登四郎集』 俳人協会、2009年
  • 『能村登四郎全句集』 ふらんす堂、2010年

随筆・評論

  • 『現代俳句作法―若い人たちのために』 角川書店、1958年
  • 『花鎮め―能村登四郎随筆集』 永田書房、1972年
  • 『伝統の流れの端に立って―能村登四郎俳論集』 永田書房、1972年
  • 『短かい葦―能村登四郎俳論集』 永田書房、1979年
  • 『鳰の手帖―能村登四郎随筆集』 1983年、牧羊社
  • 『能村登四郎 俳句の愉しみ』 日本放送出版協会、1988年
  • 『秀句十二か月』 富士見書房、1990年
  • 『欧州紀行』 ふらんす堂、1995年

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 沖俳句会|創刊主宰能村登四郎”. www.oki-haiku.com. 2025年3月21日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i 能村登四郎”. 市川市公式Webサイト. 市川市. 2025年3月21日閲覧。
  3. ^ 【抜粋】〈俳句四季9月号〉俳壇観測236 大牧広と鈴木節子 ——「沖」草創の時代のライバルとして  筑紫磐井”. -BLOG俳句新空間-  (2022年9月23日). 2025年5月8日閲覧。
  4. ^ 俳人の鈴木節子さん死去、90歳…「門」名誉主宰”. 読売新聞オンライン (2022年5月10日). 2025年5月8日閲覧。
  5. ^ a b 櫂未知子 「能村登四郎」 『現代俳句大事典』普及版、三省堂、2008年、421-423頁。
  6. ^ a b 能村登四郎、村上護 「対談 わが俳句を語る」 『能村登四郎』 春陽堂<俳句文庫>、1992年、9-15頁。
  7. ^ 武田伸一 「能村登四郎」 『現代の俳人101』 新書館、2004年、42-43頁。
  8. ^ 小澤實 「能村登四郎」 『現代俳句ハンドブック』 雄山閣、1995年、73頁。
  9. ^ 中原道夫 「密かなるエナジー」 『能村登四郎』 春陽堂<俳句文庫>、1992年、187頁。

関連文献

  • 『能村登四郎読本』 富士見書房、1990年
  • 坂口昌弘著『毎日が辞世の句』東京四季出版
  • 大牧広 『能村登四郎の世界』 邑書林、1995年
  • 能村研三編 『能村登四郎・林翔の折々の秀句』 朝日新聞社、2002年
  • 今瀬剛一 『能村登四郎ノート<1>』 ふらんす堂、2011年

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