痛みの悪循環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 01:42 UTC 版)
ひとたび腰痛が出現すると、その痛みは、図のような仕組みで悪循環に陥って慢性化することがある。 不安-回避モデル(英語版)は、精神過程のモデルであり、不安に基づいて回避的行動を行うことにより、慢性的な筋骨格の痛みが生じることを説明するモデルである。1983年に、Lethemらによって提唱された。腰部に痛みを生じるような病変が無いのに、腰部に激しい痛みを感じる仕組みを説明するモデルである。 人が腰部に急性の不快感や痛みを感じて、回避的行動によりその不快感や痛みを一時的に止めたとする。得られた無痛の状態は、この回避行動を強化する。そして、正のフィードバックがかかり、腰部の異常に敏感になり、痛みを感じる閾値は引き下げられ、不快な刺激を除去するための回避行動は強化される。もし人が、痛みを不安なものではないと判断したり、一時的なものに過ぎないと判断するならば、痛みを引き起こした状況は正しく認識され、急性の痛みは治まる。 回避的行動は、本来は健全なものであり、人が傷つくことを防ぐためのものである。しかし、急性の局所病変が治癒した後にも、人の活動を妨げるのであれば、それは有害なものになる。腰部に敏感になって体の動きが制限されると、組織の正常な機能が障害され、身体や精神に悪影響が及ぶ。もし、回避行動が強化されなくなれば、正のフィードバックによる悪循環から離脱できる。それには、まずこの仕組みの存在に気づき、次に自分の不安に直面し、さらに不安と回避行動に打ち勝つように練習する必要がある。例えば、体を少しずつ動かして「体を動かしても大丈夫。腰痛は怖くない」と何度も確認することが必要である。 1993年にWaddellらは、「不安-回避の思い込み質問紙」を作成した。この質問紙を用いた研究によれば、体を動かすことについての不安-回避の思い込みの有無は、労働の損失と強く相関していた。
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