狙いと制御
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 09:43 UTC 版)
四輪操舵は操縦安定性能向上を対象にするものと、回頭性能向上を対象にするものに大別されるが、前者に該当するHICASは操舵時期や角度を研究し、舵角比例制御方式に比して過渡特性まで最適化することにより、シャシ運動性能のキャパシティ向上と運転者感覚に近い操舵の両立を企図している。 高速旋回時に後輪を前輪と同位相方向へ操舵すると、車体後部の横滑りを伴わずに後輪へ横力が発生し、遠心力と横力が早期に均衡することで操縦安定性が向上する。単純な舵角比例制御方式では、前輪操舵と同時に後輪操舵が開始することにより車体ヨーイングの応答性が抑制されることと、旋回開始から定常旋回へ移行する過程において車体横滑り角が通常と逆位相になり曲線内側へ向かうことから、運転者が違和感を知覚したり、ヨーイングの遅延分だけ旋回軌跡が曲線外側へ遷移する。HICASは後輪操舵時期を前輪操舵より遅延させるディレイ制御を採用し、曲線通過時の過渡特性を考慮して後輪操舵を車体のヨーイング開始以降に制御することで、車体滑り角の縮小による操縦安定性能向上に加え、単純な舵角比例制御方式に比して運転者感覚に近い操舵を実現している。 緊急回避操作時などさらに広範な状況で運転者の意図や期待に応答するには鋭敏な回頭性を要するため、SUPER HICASは位相反転制御を採用している。ディレイ制御では、必要とされるヨーイングの開始まで安定方向への後輪操舵を遅延させるが、位相反転制御では一層積極的に、前輪操舵に同期して後輪を一瞬逆位相へ転舵した直後に同位相へ復帰することにより後輪のコーナリングフォースがヨーイングを促進し、操舵開始時の回頭性向上と、過大ヨーイングの防止を両立している。SUPER HICASを搭載したR33型スカイラインでは、100 km/h(キロメートル毎時)走行時にステアリング・ホイールを素早く操作すると約0.1秒間約0.02度逆位相へ転舵して回頭性を高め、直後に約0.5度同位相へ操舵して操縦安定性向上を実現している。後輪操舵角度0.5度は小さく感ずるが、100 km/h走行時に車線変更でステアリング・ホイールを45度操作した場合の前輪操舵角度約1.8度に比すると、0.5度は操縦安定性に大きく影響する。 制御理論では、ディレイ制御は「一次遅れ」項、位相反転制御は「一次進み」項、をそれぞれ加えた形で表現可能である。
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