物自体
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物自体(ものじたい、独: Ding an sich、英: thing in itself、仏: chose en soi ) は、ドイツの哲学者、カントの哲学の中心概念[1]。なお、多くの場合、ギリシア語の「ヌース」( 希: nous、精神)に由来する「ヌーメノン」 ( 希: noumenon、考えられたもの ) という語も、これと同義語として用いられる[2]。
概要
大陸の合理論とイギリスの経験論の哲学を綜合したといわれるカントが[3]、その著書『純粋理性批判』の中で、経験そのものを吟味した際に経験の背後にあり経験を成立させるために必要な条件として要請したものが、「物自体」である[2]。
「感覚によって経験されたもの以外は、何も知ることはできない」というヒュームの主張を受けて[4]、カントは「経験を生み出す何か」「物自体」は前提されなければならないが、そうした「物自体」は経験することができないと考えた[5]。 物自体は認識できず、存在するにあたって我々の主観に依存しない。因果律に従うこともない[2]。
歴史的経緯
「物自体」という概念は、古代ギリシャのエレア派・プラトン・アリストテレス等によって形成された「イデア・形相」ないしは「ウーシア」概念、また、それを継承した中世のスコラ学における「神」に似た概念、すなわち、「理性でのみ接触し得る本質」という西洋思想の伝統的発想の延長線上にあり、それをカントの批判哲学・超越論哲学(先験哲学)の枠内で表現した概念である[2]。
大陸合理論では、すべての確実な知識は生まれつき持ち、しかも、疑いようもなく明らかな真理な原理に由来すると説く立場である。 他方、イギリス経験論では、いっさいの知識は経験に由来すると主張する[6]。
こうした大陸合理論とイギリス経験論を弁証法的に解決し、また同時に伝統的な超越的概念も擁護し、「形而上学」を適正に復興すべく、「理性自体の吟味」を通じて、「人間は超越的概念(物自体)に対して、どこまで理性的に思惟・接近し得るのか」を示そうとしたのが、カントの批判哲学・超越論哲学(先験哲学)である[2]。
影響
ヘーゲルは「物自体」というカントの概念は、認識不可能な認識の対象と定義されるべきものであり、「物自体」は無意味な言葉のトリックに過ぎないと批判している[7]。フィヒテは、カントの批判哲学を徹底することで「物自体」という概念を斥け、自我の活動を重視した[8]。
ただ、ショーペンハウアーは「物自体」を「意志」と同一視し、その道徳観の基礎としている[9]。
脚注
参考文献
- 青井和夫; 青柳真知子; 赤司道夫; 秋間実; 秋元寿恵夫; 秋山邦晴; 秋田光輝; 東洋; 阿部公正 著「カント」、林達夫; 野田又夫; 久野収; 山崎正一 編『哲学事典』(第1版)平凡社、日本、1971年、278-280頁。ISBN 4-582-10001-5。
- 青井和夫; 青柳真知子; 赤司道夫; 秋間実; 秋元寿恵夫; 秋山邦晴; 秋田光輝; 東洋; 阿部公正 著「物自体」、林達夫; 野田又夫; 久野収; 山崎正一 編『哲学事典』(第1版)平凡社、日本、1971年、1398頁。 ISBN 4-582-10001-5。
- 有福孝岳 著「カント」、廣松渉; 子安宣邦; 三島憲一; 宮本久雄 編『岩波 哲学・思想辞典』(第1版)岩波書店、日本、1998年、290-291頁。 ISBN 4-00-080089-2。
- 大森正樹 著「フィヒテ」、廣松渉; 子安宣邦; 三島憲一; 宮本久雄 編『岩波 哲学・思想辞典』(第1版)岩波書店、日本、1998年、1355-1356頁。 ISBN 4-00-080089-2。
- 加藤尚武 著「ヘーゲル」、廣松渉; 子安宣邦; 三島憲一; 宮本久雄 編『岩波 哲学・思想辞典』(第1版)岩波書店、日本、1998年、1439-1440頁。 ISBN 4-00-080089-2。
- 坂井昭宏. “大陸合理論”. 日本大百科全書(ニッポニカ). 小学館. 2025年8月22日閲覧。
- 清水哲朗「統覚と自我―カント『純粋理性批判』からの考察― (PDF)」『ソシオサイエンス』第10巻、日本: 早稲田大学大学院社会科学研究科、2007年、77–91頁。hdl:2065/12776。2025年8月22日閲覧。
- 多田光宏「ショーペンハウアーにおける〈物自体としての意志〉概念の導入 : 意志の否定と道徳の両立のために (PDF)」『近世哲学研究』第13巻、日本: 京都大学近世哲学研究刊行会、2007年、20–35頁。doi:10.14989/192385。2025年8月22日閲覧。
- 福谷茂 著「物自体」、廣松渉; 子安宣邦; 三島憲一; 宮本久雄 編『岩波 哲学・思想辞典』(第1版)岩波書店、日本、1998年、1598頁。 ISBN 4-00-080089-2。
- 山口裕之「ヒューム」『語源から哲学がわかる事典』(第1版)日本実業出版社、日本、2019年。 ISBN 978-4-534-05707-5。
関連項目
- 物体そのもののページへのリンク