無名祭祀書
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/10 21:31 UTC 版)
無名祭祀書(むめいさいししょ、独: Unaussprechlichen Kulten、英: Nameless Cults)は、クトゥルフ神話作品に登場する架空の書籍。著者は架空の人物フリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツト。
この魔道書はロバート・E・ハワードが創造したものであり、『夜の末裔』を初出とする[1]。
名前
当初はNameless Cultsという英語題名のみであった。そこに、ドイツ語の原題をつけることを思い立ったハワード・フィリップス・ラヴクラフトがオーガスト・ダーレスの助言を得て、Unaussprechlichen Kultenと命名した。また、姓だけしかなかった『無名祭祀書』の著者にファーストネームを与えたのもラヴクラフトだが、ラヴクラフトもハワードもその設定を作中で使うことはなかった[2]。
これに際してNameless Cultsの直訳としてはUnnennbaren Kultenのほうが妥当であるという意見がE・ホフマン・プライスから出されたが、ラヴクラフトは語感を優先してダーレスの案を採用した[3]。
「Unaussprechlichen Kulten」「Unnennbaren Kulten」どちらもドイツ語文法としては間違っている。ドイツで刊行されているクトゥルフ神話書籍ではUnaussprechliche Kulteに修正されている[4]。正しい文法は、3格ではなく1格。
無名祭祀書は一般的な邦訳題名。設定面では、1839年の初版本は黒革装丁と内容から「黒の書」とも異名される。
概要・来歴
著者は19世紀前半のドイツ人オカルティストであるフリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツト(Friedrich Wilhelm von Junzt, 1795年-1840年)。彼が生涯をかけて世界中を巡って見聞したオカルト研究の集大成。
- ハワード設定:ハンガリーのシュトレゴイカバール村の「黒の碑」や、ホンジュラス密林の「蟇蛙の神殿」、ブラン・マク・モーン崇拝についての記述がある。
- ラヴクラフト設定:ムー大陸の邪神ガタノトーアについての記述がある[注 1]。
フォン・ユンツトは出版直後に旅に出て翌年帰国した直後に、密室で怪死している。製本されなかった未発表の草稿があり、友人のアレクシス・ラドーが読んだが、ラドーは即これを焼却しカミソリで喉をかき切って自殺する。
本書には三つの版が存在するとされる。
- ドイツ語の初版(無削除版・黒の書):1839年にデュッセルドルフで刊行されたクォート判(四つ折り版)の本。黒革に鉄の留め金という装丁。発行部数が少なかったこと、出版後ただちに発禁処分とされたこと、著者フォン・ユンツト怪死の噂に恐怖した購入者達が軒並み破棄したことで、残存部数は非常に少ない。
- 第二の版:1845年にロンドンのブライドウェル社から出版された英訳の海賊版。初版と同じく、出版されてすぐに発禁処分となっている。翻訳者不明だが誤訳が多いとされ、多くのグロテスクな木版画が収められている。初版よりは多く残存している。
- 第三の版:1909年にニューヨークのゴールデン・ゴブリン・プレス社(金の鬼社)から出版された英訳の削除版。削除版ということで、内容が減っている。装丁だけはゴージャスな一般書籍。
初版(黒の書)の状況が何冊か判明している。『黒の碑』と『屋根の上に』の登場人物が所持し、2冊。無名祭祀書はミスカトニック大学付属図書館にも収蔵がある。
「エイボンの書」をアブドゥル・アルハザードが読み[5]、アルハザードが「アル・アジフ(ネクロノミコン)」を書き、「ネクロノミコン」をフォン・ユンツトが読み[6]、フォン・ユンツトが「無名祭祀書」を書いた、らしいことが言及されている。
1839年刊行という設定は、(1920-30年代を舞台とするクトゥルフ神話の作中時を踏まえると)禁断の書物の中では100年にも満たない新しいもの。さらに1931年に刊行されたジェームズ・チャーチワードの『失われたムー大陸』よりも遥かに先駆けてムー大陸に言及していた、という設定になっている[4]。
日本人作家の朝松健の設定では、火の邪神クトゥグアについての記述があるとされる。
登場作品
- ロバート・E・ハワード:夜の末裔、黒の碑、屋根の上に
- ハワード・フィリップス・ラヴクラフト:永劫より(ヘイゼル・ヒールドへの代作)
- リン・カーター:陳列室の恐怖
- 朝松健:邪神帝国(狂気大陸、夜の子の宴)、聖ジェームズ病院
関連項目
- ジャスティン・ジョフリ - ハワードが創造した詩人。1926年に21歳で死去。無名祭祀書と共に、しばしば言及される。『黒の碑』などに登場する。
脚注
注釈
出典
- ^ Harms, Daniel (2008). The Cthulhu Mythos Encyclopedia (3rd ed.). Elder Signs Press. p. 293
- ^ S. T. Joshi, David E. Schultz, and Rusty Burke, ed (2017). A Means to Freedom: The Letters of H. P. Lovecraft and Robert E. Howard. Hippocampus Press. p. 268
- ^ S. T. Joshi, David E. Schultz, and Rusty Burke, ed (2017). A Means to Freedom: The Letters of H. P. Lovecraft and Robert E. Howard. Hippocampus Press. p. 762
- ^ a b 森瀬繚『ゲームシナリオのためのクトゥルフ神話事典』「無名祭祀書」190-191ページ。
- ^ クラーク・アシュトン・スミス『ウボ=サスラ』。エイボンの書の初登場作品。
- ^ ロバート・E・ハワード『夜の末裔』。無名祭祀書の初登場作品。
無名祭祀書
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 03:43 UTC 版)
『時間からの影』にて登場。ピースリー教授に憑依したイースの大いなる種族が、彼らの文字で書き込みをしている。
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無名祭祀書
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メキシコのセロに住んでいた富豪の家の食器棚の奥に隠されていた魔術書。
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