有線七宝技法の追求
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/10 07:57 UTC 版)
並河七宝の特徴は、有線七宝技法にある。有線七宝とは、図柄の輪郭線に沿って細い金属線をかたどり、その中に釉薬を挿し焼成するやり方で、金属線が繊細な図柄を引き立たせる。そのため他の七宝家たち、濤川や尾張七宝が先んじて開発したり取り入れた無線七宝、省線七宝、盛上七宝、省胎七宝等の技法は用いられていない。この理由ははっきりしなが、靖之は有線七宝こそ七宝の本流で線の美しさこそ七宝の本質だと考えていたという説や、靖之の右腕だった中原哲泉の筆線へのこだわりのためとも推測される。靖之に代表される明治期の高級な七宝作品は、1つの作品を作るのに1年かかることもあり、非常に手間暇がかかった。このため人件費が嵩み、他の日本の伝統工芸品と同じく、日本の工業化が進展するにつれ外貨獲得の手段としての役目が終わると、さまざまな社会の変化もあり急速に廃れていったが、特に靖之の技巧は人並みはずれたものであった。しかし、なぜ全くの素人だった靖之が一代で世界を驚かす作品を作れるまでになった理由は、未だ研究途上である。 靖之自身は訪ねてきた外国人に対しこう語っている、「大きな倉庫、大きな作業場は要りません。100人以上の従業員を持つ野心もありません。多量の依頼や商売上の注文を取ったり、与えられた時間内で制作をすることは御免です」「よい芸術、よい作品は、銭金の指図を受けません。それから従業員には急ぎ仕事はさせません。そうでないと精緻さに欠けた作品となり、また急場仕事で負担がきつくなるからです」「どんな鑑定家に見せても恥ずかしくない出来栄えのよい作品のために、何年も時間をかけることは苦痛ではなく、むしろ喜びです。そこから、まさに、賞賛と名誉が得られるのです」。
※この「有線七宝技法の追求」の解説は、「並河靖之」の解説の一部です。
「有線七宝技法の追求」を含む「並河靖之」の記事については、「並河靖之」の概要を参照ください。
- 有線七宝技法の追求のページへのリンク