応唱受難曲と通作受難曲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/01 00:22 UTC 版)
15世紀には、音楽史におけるルネサンスの到来とともに、受難曲にも対位法が導入され、多声化がなされるようになる。ルネサンス期における多声受難曲は、一般に「応唱受難曲」と「通作受難曲」とに分類される。応唱受難曲(「コラール受難曲」ともいう。)とは、福音史家による語りの部分は単旋律で朗唱され、その他の部分が対位法で作曲されたものをいう。現存する最古の応唱受難曲は、大英図書館が所蔵する1430年-1444年に編纂された写本のなかの『ルカ受難曲』であり、導入句、トゥルバと個々の登場人物の言葉が3声のディスカント様式によって作曲されている。その他、15世紀に作曲された応唱受難曲としては、イートン・クワイアブックに収録されたリチャード・デイヴィー(1465年頃-1507年)の『マタイ受難曲』や、モデナのエステ家図書館が所蔵する1470年-1480年頃の写本に収録された作者不詳の2曲の受難曲等がある。後者の作曲者としては、ヨハネス・マルティーニ(1440年頃-1497年または1498年)、ジル・バンショワ(1400年頃-1460年)等が推定されている。 一方、通作受難曲(「モテット受難曲」ともいう。)とは、福音史家による語りを含む楽曲全体を通して対位法で作曲されたものをいい、1つの福音書にもとづく作品のほか、4つの福音書を編集し、十字架上のイエスの言葉をすべて含むように構成された総合受難曲(「調和受難曲」ともいう。)がある。現存する最古の通作受難曲は、アントワーヌ・ド・ロングヴァル(1507年-1522年活躍)の『マタイ受難曲』(1507年頃)である。この作品は、マタイ福音書に加えて、3つの福音書からの受難物語が随時引用され、テノールに置かれた定旋律に協和音を重ねたイタリア風のファルソボルドーネ様式で作曲されており、トゥルバの部分は4声、個々の登場人物の言葉は2-4声となっている。
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