国家緊急権の課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 00:15 UTC 版)
国家緊急権を考える際に「国家緊急権のパラドックス」と呼ばれる問題がある。先述のように国家緊急権には、憲法上の一定条件下で立憲主義を一時的に停止して独裁的権力の行使を認める憲法制度上の国家緊急権と立憲上の授権や枠を越えて独裁的権力が行使される憲法を踏み越える国家緊急権がある。後者はもはや法の世界に属する事柄ではないが、前者と後者の区別は相対的であると考えられている。非常措置権を憲法的に厳格に枠づけようとすれば、緊急事態に対して立憲上の授権や枠を越えて独裁的権力が行使される可能性も大きくなり、それを嫌って非常措置権を包括的・抽象的に定めてしまうと非常措置権に対する憲法的統制の実が失われるという関係がある。これが「国家緊急権のパラドックス」と呼ばれる問題である。 歴史的に緊急事態に直面しつつも曲りなりに立憲主義体制を維持してきた国々においては、国家緊急権は立憲主義体制を維持するとともに国民の自由と権利を守るという目的の明確性、非常措置の種類及び程度は緊急事態に対処するため一時的で必要最小限度のものでなければならないという自覚、緊急権濫用を阻止するための可及的対策として事後的に憲法上の正規の機関(議会や裁判所など)を通じて緊急権行使の適正さの審査や責任追及の途を開いておくことの不可欠性、これらについての認識が国民の間に相当程度浸透していることが指摘されている。国家緊急権によって生じる問題は統治主体である国民の政治的成熟度さらにそれを基礎とする政党の力量が問われる課題とされている。
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