台所の女中 (ベラスケスの絵画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/17 03:56 UTC 版)
スペイン語: La mulata 英語: The Kitchen Maid |
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作者 | ディエゴ・ベラスケス |
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製作年 | 1620-1622年ごろ |
種類 | キャンバス上に油彩 |
寸法 | 55 cm × 104.5 cm (22 in × 41.1 in) |
所蔵 | シカゴ美術館 |
スペイン語: La cena de Emaús 英語: The Kitchen Maid with Supper at Emmaus |
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作者 | ディエゴ・ベラスケス |
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製作年 | 1620-1622年ごろ |
種類 | キャンバス上に油彩 |
寸法 | 55 cm × 104.5 cm (22 in × 41.1 in) |
所蔵 | アイルランド国立美術館、ダブリン |
『台所の女中』(だいどころのじょちゅう、英: The Kitchen Maid)、または『ムラータ』(西: Mulata)、または『料理女』(りょうりおんな、西: La cocinera)、または『台所の場面』(だいどころのばめん、英: Kitchen Scene)、または『台所の女中とエマオの晩餐』(だいどころのじょちゅうとエマオのばんさん、英: Kitchen Maid with the Supper at Emmaus)は、バロック期のスペインの画家ディエゴ・ベラスケスが画業初期にキャンバス上に油彩で制作した2点の絵画である。制作年については様々な可能性が提唱されてきたが、大部分の研究者は1620-1622年としている。1点はシカゴ美術館に[1]、もう1点はダブリンのアイルランド国立美術館に所蔵されている[2]。
作品
研究者ホセ・ロペス=レイは、本作がアントニオ・パロミーノによって記述されている、現存しないベラスケスの絵画と関連している可能性があると提唱した。その絵画について、パロミーノは以下のように述べている。「... 板が見え、テーブルの役割をしており、木炭火鉢とその上の沸騰し、器で覆われている鍋がある。そして、火が見え、炎と火花が見える。小さなブリキの鍋、アルカラサ (素焼きの壺)、何枚かの皿、いくつかの盥、釉薬をかけた水差し、杵のある臼、その横のニンニク一玉。壁には、小さな籠と留め金に掛けられた布、そのほかの小さな物。そして、これらを見届けているのは水差しを持つ少年で、彼はコアフを纏っており、その質素な服装により非常に可笑しく、面白い主題を表現している」[3]。
ベラスケスは、本作で仕事中のムラータ (白人と黒人の混血女性) 、または黒人[1]かムーア人[2]の若い女性を描いている。彼女の周囲には、見事に描かれた壺、水差し、臼と杵、そしてスパイス用の皺の寄った包み紙が見える[1]。彼女は、ベラスケス、あるいはベラスケスの父、あるいはベラスケスの師フランシスコ・パチェーコの家庭にいた奴隷の女性がモデルであったのかもしれない。彼らは皆、奴隷を使っていたのである[1]。
ダブリンにあるヴァージョンは、1987年にアルフレッド・バイトにより遺贈された。1933年の洗浄により、主要人物の背後の壁上にエマオの晩餐におけるイエス・キリストの姿が現われた。シカゴの絵画は、オーガスト・L・マイヤー (August L. Mayer) によりアムステルダムのジャック・ガウドスティッカーの画廊で購入され、1927年に美術館に寄贈された。当時、このヴァージョンはベラスケスの真作と考えられ、バイトの作品の方は複製と見なされた。ベルナルディーノ・パントルバ (Bernardino Pantorba) やホセ・グディオル・リカルトを含む数多くの研究者がこの意見に同意したが、ロペス=レイはダブリンの作品はベラスケスの真作だと認める一方、シカゴの作品に関してはその保存状態の悪さのために真作であることに疑問を呈した[4]。ベラスケスの専門家ジョナサン・ブラウンはこの意見に同意し、シカゴのヴァージョンは「おそらく」ベラスケスにより描かれたと提唱した。ブラウンはまた、それが「ベラスケスの風俗画の成功にあやかりたいと願い、ベラスケスの真作の複製や別ヴァージョンを多数制作したかもしれない」ある画家によって制作された可能性も提唱した[5]。
シカゴの作品は、1999年にフランク・ザカーリ (Frank Zuccari) により修復された。作品は絵具の損失にもかかわらず、最もよく保存された部分ではダブリンの作品と類似した質、あるいはいくつかの点ではより優れた質を示している。いかなる時期においても、シカゴの作品には何らかの宗教的意味、あるいは台所で仕事をするムラータの絵画以外のものであることを示唆する痕跡は発見されていない。それには、ダブリンの作品以上の技術的優越性を確かなものとする多くの特質が含まれている。少女のコアフの上部にはずっと多くの襞があり、関連する光と影の扱いはより精緻で、同様のことが前景にある皺の寄った布にも見て取れる。より優れた技術はまた、事物にあたる光の描写にも見られる。それは、女中が手に持っている釉薬をかけた陶磁器の水差しについては特にいえることで、水差しには釉薬のひび割れと、陶工の轆轤の上で形成された際の跡を見ることができる。この技術上の向上に関する可能な説明は、ベラスケスが絵画の触覚的な特質に焦点を当てるために以前の主題に戻ったということであり、それは宗教的モティーフを無視した、当時の彼の主な関心事であった[6]。
この絵画への影響源として提唱されているものには、フランドルのヤーコプ・マータムによる版画がある[7]。ダブリンの作品に登場するエマオの晩餐の場面により、何人かの研究者はイタリアの巨匠カラヴァッジョの影響も提唱しているが、定かではない。カラヴァッジョないし彼の同時代の画家たちの作品がセビーリャにあったかどうか、そしてベラスケスがそれらの作品に親しんでいたかどうかを確定することは難しいのである[8]。
2018年に、ヒューストン美術館はこの絵画の第3のヴァージョンを発見したと公表した。それはシカゴのヴァージョンに類似しているが、左右が切断されており、ほぼ正方形の画面となっている[9]。
脚注
- ^ a b c d “Kitchen Scene”. シカゴ美術館公式サイト (英語). 2025年9月7日閲覧。
- ^ a b “Kitchen Maid with the Supper at Emmaus”. アイルランド国立美術館公式サイト (英語). 2025年9月7日閲覧。
- ^ Palomino, page. 208.
- ^ López-Rey, page. 44.
- ^ Brown, page. 21.
- ^ Catálogo de la exposición De Herrera a Velázquez (Benito Navarrete Prieto), pages. 206–207.
- ^ Marías, page. 40.
- ^ Catálogo de la exposición De Herrera a Velázquez, op, cit. Entre quienes niegan la influencia de Caravaggio, Brown, page. 12.
- ^ Ingram (2018年12月18日). “Rediscovering a Velázquez: The Attribution of 'Kitchen Maid'”. Museum of Fine Arts, Houston. 2025年9月9日閲覧。
参考文献
- Brown, Jonathan (1986). Velázquez. Painter and courtier. Madrid: Alianza Editorial. ISBN 84-206-9031-7
- Catálogo de la exposición (2006). De Herrera a Velázquez. El primer naturalismo en Sevilla. Bilbao Sevilla: Museo de Bellas Artes de Bilbao-Fundación Focus Abengoa. ISBN 84-89895-14-7
- López-Rey, José (1996). Velázquez. Catalogue raisonné, vol. II. Colonia: Taschen Wildenstein Institute. ISBN 3-8228-8731-5
- Marías, Fernando (1999). Velázquez. Pintor y criado del rey.. Madrid: Nerea. ISBN 84-89569-33-9
- Palomino, Antonio (1988). El museo pictórico y escala óptica III. El parnaso español pintoresco laureado.. Madrid : Aguilar S.A. de Ediciones. ISBN 84-03-88005-7
外部リンク
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