鹿の頭部_(ベラスケス)とは? わかりやすく解説

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鹿の頭部 (ベラスケス)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/11 10:57 UTC 版)

『鹿の頭部』
スペイン語: Cabeza de venado
英語: Head of a Deer
作者 ディエゴ・ベラスケス
製作年 1626-1636年
種類 キャンバス上に油彩
寸法 66 cm × 52 cm (26 in × 20 in)
所蔵 プラド美術館マドリード

鹿の頭部』(しかのとうぶ、西: Cabeza de venado: Head of a Deer)は、バロック期のスペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスが1626-1636年に制作したキャンバス上の油彩画である。デ・カサ・トレス (de Casa Torres) 侯爵フェルナンド・デ・アラゴン・イ・カリーリョ・デ・アルボルノス (Fernando de Aragón y Carrillo de Albornoz) が1920年に購入した作品で、1975年にマドリードプラド美術館に寄贈されて以来、同美術館に所蔵されている[1]

作品

本作は、ほぼすべての研究者によりベラスケスに帰属されている。例外は、作品に言及していないエンリケタ・ハリス英語版と1955年に真作であることに疑問を呈したベルナルディーノ・パントルバ (Bernardino de Pantorba) である[2]。周辺部分の絵具の損失を除けば、作品の保存状態はよい。しかし、作品が切断されているという可能性は排除できない[2]

本作の制作された状況と制作年については、批評家たちの間で意見の一致を見ていない。素早く正確な筆致で大きな訂正もなしに絵具を塗る方法に加え、鹿の顔の色を高める明るい光輪を生み出すための、たっぷり絵具を含んだ筆致を用いた輝く光の色面によって、作品は1636年の『皇太子バルタサール・カルロス騎馬像』 (プラド美術館) に類似している。大部分の研究者は、本作を1630年代末に制作されたとしている。一方、ホセ・ロペス=レイスペイン語版は1626-1628年ごろの制作であると考えているが、それはマドリードの旧王宮英語版の1636年の目録にもとづいている。その目録には、ベラスケスが描いた、ラ・エンカルナシオン王立修道院にある「鹿の角」が「1626年に我らの王フェリペ4世 (Sr. Phe. quarto) に殺された」という銘文とともに記されているのである[3]。画面の下地の準備、1626-1628年のベラスケスに特徴的な絵具の塗り方にもとづき、プラド美術館による技術的研究は、制作年に関してロペス=レイの仮説と一致するようなものとなっている[4]

1636年の目録では「鹿の角」のサイズは、およそ縦横ともに105センチであると記されている。1700年の目録は作品に言及しているが、その悪い保存状態のために課税されないと付け加えている。この1700年の損傷に加え、1734年の旧王宮の大火によって作品にもたらされた損傷についても触れなければならない。火災から救出された作品は、やや大きなサイズで記録されている。1747年以降の王室コレクションにおいて、作品はもう言及されていない。被った損傷のために、王室コレクションを離れたと考えられる[1]

上述の事情により、本作『鹿の頭部』を王室コレクションの目録にあった作品と同定するのは難しい。そのサイズは王室コレクションにあった作品より小さく、保存状態はよい。しかしながら、制作年、そして制作された状況のいかんにかかわらず、本作の質は非常に高く、その新鮮さ、迫真性、自然主義により、ときに動物の肖像といわれてきた[1]。動物という主題は、スペインの君主のほとんどが狩猟を愛好していたためスペインの宮廷では非常に一般的であった。芸術作品も狩猟の主題が多く、とりわけ狩猟休憩塔英語版(トッレ・デ・ラ・パラーダ)を装飾した作品について言及しておかなければならない。本作が狩猟休憩塔のために制作されたという記録はないが、その主題は狩猟休憩塔の作品との関連性を示唆する[1]

『鹿の角』 127 × 150 cm、スペイン国家遺産英語版

一方、王室コレクションの目録に記述された作品をスペイン国家遺産英語版となっている『鹿の角』(パルド宮殿英語版に寄託) と同定することも提唱されている[1]。「鹿の角」という説明は、プラド美術館の生きている鹿の姿よりもスペイン国家遺産の作品の方により適合するように思われる[5]

国家遺産の作品は、イサベル2世 (スペイン女王)サラマンカ侯爵ホセ・デ・サラマンカ英語版から購入したものである。特定の画家に帰属されていなかった作品であるが、ビリャビシオサ・デ・オドン英語版宮殿のドン・ルイス皇太子の所有であった時、研究者アントニオ・ポンス英語版はすでにベラスケスに関連づけ、ベラスケスによる作品と考えられ、鹿と狩猟で死んだ様々な動物の頭部が表されていると述べている。この仮説はアルフォンソ・ぺレス・サンチェス英語版に支持され、彼は、ベラスケスのオリジナルの「鹿の角」の上に損傷を受けた部分を回復するために、また構図を豊かなものとするために鹿とほかの頭部を補筆し、大掛かりな修復が行われたものと考えた。この補筆はフアン・ガルシア・デ・ミランダ英語版、または17世紀の絵画の別の識者により行われた可能性があり、わずかなものではなかった。この仮説によれば、画面下部の白い紙片、それが貼りつけられている石、そして茶色がかった緑色の背景に影を投げかけている「角」は、ベラスケスに帰属されるのである[6]

上記の細部を含めて国家遺産の作品をベラスケスに帰属することは、ロペス=レイやジョナサン・ブラウン英語版などの研究者には考慮されておらず、彼らはベラスケス作品の総目録には記載していない。

脚注

  1. ^ a b c d e Head of a Deer”. プラド美術館公式サイト (英語). 2025年9月11日閲覧。
  2. ^ a b Garrido, 1992, p. 154.
  3. ^ López-Rey, p. 76.
  4. ^ Garrido, 1992, p. 155.
  5. ^ Angulo, Diego, «¿La "Cuerna" de Velázquez en el Palacio de Riofrío?», Archivo, 1966, p. 85.
  6. ^ Pintura española de bodegones y floreros de 1600 a Goya, nº 56, p. 84-85.

参考文献

  • Brown, Jonathan (1986). Velázquez. Pintor y cortesano (Alianza édition ed.). Madrid. pp. 322. ISBN 84-206-9031-7 
  • “Velázquez”. Catalogue de l'exposition (Madrid: Musée National du Prado). (1990). ISBN 84-87317-01-4. 
  • Garrido Pérez, Carmen (1992). Velázquez, técnica y evolución (Musée National du Prado ed.). Madrid. ISBN 84-87317-16-2 
  • López-Rey, José (1996) (英語). Velázquez. Catalogue raisonné. II (Taschen Wildenstein Institute ed.). Cologne. pp. 328. ISBN 3-8228-8731-5 
  • Morán Turina, Miguel; Sánchez Quevedo, Isabel (1999). Velázquez. Catálogo completo (Ediciones Akal SA ed.). Madrid. ISBN 84-460-1349-5 
  • Pérez Sánchez, Alfonso E. (1983). “Pintura española de bodegones y floreros de 1600 a Goya”. Catalogue de l'exposition (Madrid: Ministère de la Culture) (56). ISBN 84-500-9335-X. 

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