げんし‐ブラックホール【原始ブラックホール】
原始ブラックホール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/06 07:22 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動原始ブラックホール[1][2] (げんしブラックホール、英: primordial black holes、PBH) とは、ビッグバン直後に形成された可能性のある仮説上のブラックホールの分類である。初期宇宙においては、高密度で非一様な環境のため重力崩壊を引き起こすのに十分な高密度領域が形成される可能性があり、その場合ブラックホールが形成される。このような天体の存在は、1966年にヤーコフ・ゼルドビッチとイゴール・ノヴィコフによって初めて提唱された[3]。これらの天体の起源の背後にある理論については、1971年にスティーヴン・ホーキングによって初めて詳細に調べられた[4]。原始ブラックホールは恒星の重力崩壊からは形成されないため、これらの質量は恒星質量 (例えば 2×1030 kg) よりもずっと小さいものになり得る。ホーキングは、原始ブラックホールの質量は 8 kg 程度の小さい値にまでなり得ることを計算により示した。 10−
なお、日本語の表記としては、原初ブラックホール[5]や始原ブラックホール[6]と書かれる場合もある。
理論的な歴史
モデルに依存するが、原始ブラックホールは 10-8 kg (プランク質量程度の、いわゆる「プランクの遺物」) から、太陽質量の数千倍を超える初期質量を取りうる。しかし、初期の質量が 1012 kg を下回る原始ブラックホールはホーキング放射によって宇宙年齢よりも短い時間で完全に蒸発してしまうため、現在まで生き延びることができない[7]。原始ブラックホールは非バリオン的であり[8]、そのため暗黒物質の有望な候補である[9][10][11][12][13]。原始ブラックホールはまた、重い銀河中心部での超大質量ブラックホールや、中間質量ブラックホールの種の有望な候補でもある[14]。
原始ブラックホールは MACHO に分類される。これらはダークマターの良い候補物質である。ほぼ非衝突で、(十分な質量を持つ場合は) 安定であり、非相対論的な速度を持ち、宇宙の歴史の中で非常に初期 (典型的にはビッグバン後1秒未満) に形成されるからである。しかし、様々な天体物理的あるいは宇宙論的な観測によって原始ブラックホールの存在量への厳しい制約が与えられており、原始ブラックホールが取りうるもっともらしい質量の範囲では、ダークマターの全体に大きく寄与している可能性は否定されている。
重力波検出からの制約
2016年3月、LIGOおよびVirgoによって2つの30太陽質量ブラックホール (およそ6×1031 kg) 合体の際に放出された重力波の検出が報告された1ヶ月後、3つの研究者グループが独立して、検出されたブラックホールは原始ブラックホール起源であるとする説を提唱した[15][16][17][18]。そのうち2つのグループは、LIGOによって示唆されたブラックホールの合体頻度は、もし原始ブラックホールの無視できない割合が矮小楕円体銀河や球状星団などのようにハローにある程度集まっている場合、全てのダークマターが原始ブラックホールからなっているとするシナリオと矛盾しないものであるとした。これは一般的な宇宙の構造形成理論から期待される結果である。残りの1グループは、観測されたブラックホールの合体頻度は原始ブラックホールがダークマターの全てを占めるとするシナリオとは一致せず、原始ブラックホールのダークマター全体への寄与は1%未満に過ぎないと主張した。LIGO によって検出されたブラックホールの質量が予想外に重かったことから、太陽質量の1から100倍の範囲の質量を持つ原始ブラックホールへの関心が強く呼び起こされることとなった。しかし、星のマイクロレンズ現象が検出されないこと、宇宙マイクロ波背景放射の非等方性、暗い矮小銀河の大きさ、銀河中心方向におけるX線天体と電波天体との相関が見られないことなど、この質量範囲の原始ブラックホールが観測によって否定されるかどうかについては未だに議論が続いている。
2016年5月、Alexander Kashlinsky は、もし原始ブラックホールの存在度がダークマターと同程度であった場合、分解されていないガンマ線とX線背景放射において観測された空間相関は、同程度の質量を持った原始ブラックホールによるものだと解釈できることを示唆した[13]。
しかし2019年4月には、原始ブラックホールがダークマターの主成分であるという仮説が難局に直面することを示唆する研究が発表された。国際研究チームがスティーヴン・ホーキングによって提唱された理論についてこれまでで最も厳密な検証を行い、0.1 mm よりも小さい原始ブラックホールがダークマターの大部分を占める可能性を否定する結果が得られた[19][20]。
形成
原始ブラックホールは初期宇宙のいわゆる輻射優勢期[21]に形成される可能性がある。その時期の宇宙の密度 大きさ
- 重力の特異点 (特異点定理)
- 原始ブラックホール
- グラバスター
- en:Dark star
- en:Dark energy star
- en:Black star
- en:Magnetospheric eternally collapsing object
- ファズボール
- ホワイトホール
- 裸の特異点
- リング特異性
- Immirziパラメータ
- 膜パラダイム
- クーゲルブリッツ
- ワームホール
- en:Quasi-star
- 無毛定理
- 情報パラドックス
- 宇宙検閲官
- 代替模型
- ホログラフィック原理
- ブラックホール研究の年表
- RXTE
- 超コンパクト恒星系
原始ブラックホール (primordial black hole)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 06:49 UTC 版)
「仮説上の天体」の記事における「原始ブラックホール (primordial black hole)」の解説
ビッグバン直後の高密度な宇宙での密度ゆらぎから形成される可能性のあるブラックホール。
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