動的粘弾性の分散
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:18 UTC 版)
動的粘弾性は温度と周波数に依存する。動的粘弾性が温度により変化する挙動を温度分散(英: temperature dispersion)、周波数により変化する挙動を周波数分散(英: frequency dispersion)という。ポリマーにおいて、同一温度ではより大きい周波数で、同一周波数ではより低い温度でより高い弾性率を示す。動的粘弾性の温度または周波数依存性は、動的粘弾性のパラメーターである剪断貯蔵弾性率G′や損失正接tan δ、剪断損失弾性率G″の観測により解析することができる。 周波数が一定でポリマーの温度が連続して増加していくとき、剪断貯蔵弾性率の自然対数log G′は幾つかの特定温度で急激に減少する。同様に、温度が一定で周波数が連続して小さくなっていくとき、log G′は幾つかの特定周波数で急激に減少する。特定温度と次の特定温度、あるいは特定周波数と次の特定周波数の間では変化しない。この特定温度と特定周波数の近傍でtan δとG″は極大値を示す。一般に、G″の極大はtan δの極大よりも低温で観測される。 この特定温度と特定周波数ではポリマーの局所的あるいは全体的な分子運動が活性化される。G″の極大はエネルギーの吸収に対応するので、力学的吸収と呼ばれる。下表に、log G′の減少、tan δとG″の極大が生じる温度での緩和機構を高温側から順に示す。 ポリマーの動的粘弾性測定により観測される緩和機構緩和機構説明温度域活性化エネルギー(kJ/mol)結晶緩和(αc、α2)結晶相内の分子鎖の熱振動により結晶が粘弾的になる。 融点の0.8-0.9倍 170-340 結晶粒界(αgb、αc、α1)モザイク晶界面、転移網あるいはラメラ表面における結晶粒界の滑り Tαc近傍 80-170 主分散(α、αa)非晶領域の分子鎖のミクロブラウン運動 ガラス転移点近傍 170-850 副分散(β、γa、γc)結晶および非晶領域における主鎖の局所的ねじれ運動 ガラス転移点以下 40-80 副分散(β、γsc)側鎖全体の熱運動 ガラス転移点以下 40-120 立体異性体緩和シクロヘキサンの異性体転移 ガラス転移点以下 40-80 メチル基緩和(ε、δ)メチル基の回転緩和 ガラス転移点よりも低い温度 20以下 これらの緩和機構は動的粘弾性測定だけではなく、誘電緩和や核磁気共鳴でも観測することができる。このため、動的粘弾性はポリマーの緩和機構を解析することができる。以上のように動的粘弾性測定はポリマーの分子運動の挙動を明らかにする。さらに、ひずみの周波数fを変え、力学的吸収の温度(G″が極大値をとる温度)の逆数とln fをプロットすると、その勾配から活性化エネルギーを算出することができる。
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