剰余価値説と平均利潤
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/19 04:04 UTC 版)
「マルクス経済学」の記事における「剰余価値説と平均利潤」の解説
労働価値説を前提とすれば、剰余価値は労働時間に比例して大きくなり、多くの労働力を使えば、多くの剰余価値を得ることになる。しかし、投下資本に対する利潤率は市場における競争の結果として平均的な水準に落ち着き、資本の大きさに応じて利潤量が決まる傾向がある。これを平均利潤といい、19世紀資本主義で経験された事実であった。この平均利潤の事実と剰余価値の理論が矛盾するとして問題になった。 同じ大きさの資本を、ある資本家は、生産手段に多く投下し、他の資本家は労働力に多く投下したとしても、両者が得る利潤は同量となる。例えば、資本家Aは生産手段に60・労働力に40を投下してシャツを生産し、資本家Bは生産手段に80・労働力に20を投下して綿布を生産したとしよう。剰余価値率が100%ならば、資本家Aの下で生み出される剰余価値は40、資本家Bの下で生み出される剰余価値は20となり、Aの2倍になる。しかし、資本家Aが資本家Bの2倍の利潤を得るということはありえない。平均利潤率を30%とするなら、資本家Aも資本家Bも同額の資本100に対して同額の利潤30を得るのである。そのため、利潤は剰余価値と矛盾するように見える。これは、リカードを悩ませた問題である。 マルクスは、生産性の低い資本家Aから生産性の高い資本家Bに、剰余価値が10だけ移転している、と説明する。資本家Aの取得する利潤は剰余価値40-10=30、資本家Bの取得する利潤は20+10=30、全体として見れば、総利潤=総剰余価値=60となり、価値法則は貫徹されることになる。したがって、剰余価値と利潤の食い違いは、見かけ上の矛盾にすぎない。しかし、この外観上の矛盾が理論の矛盾とされ、後に転形問題として議論されることになった。 なお、平均利潤が成立する条件は、部門間の資本移動を可能とする自由競争であり、20世紀になって独占が形成され、自由競争と部門間の資本移動が困難となったもとでは、平均利潤が成立する条件は失われているという見解が、マルクス経済学の中にある(見田石介『価値および生産価格の研究』)。
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