ヴァンス_(衛星)とは? わかりやすく解説

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ヴァンス (衛星)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/25 18:40 UTC 版)

ヴァンス
(90482) Orcus I Vanth
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したオルクスと衛星ヴァンスの画像
仮符号・別名 S/2005 (90482) 1
見かけの等級 (mv) 21.97 ± 0.05[1]
分類 太陽系外縁天体の衛星
発見
発見日 2005年11月13日[注 1]
発見者 M. E. ブラウン[2]
T.-A. Suer[2]
軌道要素と性質
元期:J2000.0[4]
軌道長半径 (a) 8,999.8 ± 9.1 km[4]
離心率 (e) 0.00091 ± 0.00053[4]
公転周期 (P) 9.539154 ± 0.000020 [4]
軌道傾斜角 (i) 90.2 ± 0.6°[4]
近日点黄経 (
オルクスを公転するヴァンスの軌道(ヴァンスの公転距離やオルクスとヴァンスの大きさは実際の比率で描いている)。ヴァンスの軌道は太陽と地球に対してほぼ真正面を向けている。

ヴァンスはオルクスから0.25離れた場所で発見され、明るさは2.7 ± 0.1等級違っていた[2]。2009年にブラウンが行った推定によると、ヴァンスの視等級(見かけの明るさ)は21.97 ± 0.05等級で、オルクスより2.54 ± 0.01等級暗かった[1]アルベド(反射能)がオルクスと同じであると仮定すると、その直径は約280 kmとなり、オルクスより約2.9倍小さいことになる[8]。しかし、オルクスのスペクトル分類(中間的)とヴァンスのスペクトル分類(赤)が異なることから、ヴァンスはオルクスよりも2倍低いアルベドを持つ可能性が示唆されている[1]。ヴァンスのアルベドが0.12だとすると、ヴァンスの直径は約380 kmで、オルクスの直径は約760 kmになる可能性があるとされた[8]。ヴァンスの質量もそのアルベドに依存し、ヴァンスがオルクス・ヴァンス系全体の質量を占める割合は3~9%の範囲で変動することになる[1][8]2016年に、ブラウンとBryan Butlerはアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)の高解像度画像を使用し、ヴァンスの直径を480 kmと推定した。これはオルクスの直径の約半分であり、オルクスとヴァンスが、冥王星とカロンを小型化したような似た構成をしていると考えられた[6]。また、彼らはヴァンスのアルベドをオルクスよりもほぼ3倍低い0.08+0.02
−0.01
と測定した[6]


2014年3月2日にはヴァンスによるろくぶんぎ座の12.1等星TYC 5476-00882-1の食が日本で観測され、世界初の太陽系外縁天体の衛星による掩蔽観測例となった[15]2017年3月7日に、オルクスによる恒星掩蔽アメリカ大陸太平洋上で発生すると予測された。掩蔽観測は北アメリカ南アメリカの合わせて5地点で行われ、星食の際に見られる固体天体の弦(Chord)が観測された。スペックル・イメージングを使用して掩蔽された恒星を調べたところ、この恒星が近接した二重星であることが明らかになり、オルクスとヴァンスの軌道を復元したところ、両方の弦がオルクスによるものではなくヴァンスによるもの(2つの恒星のいずれかを掩蔽していた)であったことが判明した。近くの別の地点では掩蔽が観測されなかったことから、ヴァンスの直径は442.5 ± 10.2 kmと推定された。また、掩蔽の観測データはヴァンス全体を覆える大気圧は最大でも4 μbarであるという推測とも一致している[5]

ヴァンスはスペクトルの特性がオルクスと大きく異なるため、過去の天体衝突によって形成されたと思われる既知のどの衛星とも似ていない。したがって、ヴァンスは外部からオルクスの重力によって捕獲された太陽系外縁天体である可能性がある[10]。この点は、オルクスと同じく準惑星候補であるGonggong(2007 OR10)の衛星Xiangliuに似ているかもしれない。この衛星もまた、主星と比較して非常に異なる表面色を持っている[16]

脚注

注釈

  1. ^ ヴァンスの発見が発表されたのは2007年2月22日[2][3]
  2. ^ 直径を442.5 km(半径221.25 km)、密度を0.8 - 1.5 g/cm3と仮定して計算[5]。ヴァンスの形状を球形と想定すると、半径221.25 kmのヴァンスの体積は約3.504×107 km3となる。この体積に密度を掛けるとおおよその密度が0.8 - 1.5 g/cm3と求まり、おおよその質量が(3.6 - 6.8)×1019 kgと求まる。

出典

  1. ^ a b c d e f g Brown, M. E.; Ragozzine, D.; Stansberry, J.; Fraser, W. C. (2010). “The size, density, and formation of the Orcus-Vanth system in the Kuiper belt”. The Astronomical Journal 139 (6): 2700–2705. arXiv:0910.4784. Bibcode2010AJ....139.2700B. doi:10.1088/0004-6256/139/6/2700. 
  2. ^ a b c d e Daniel W. E. Green (2007年2月22日). “IAUC 8812: Sats OF 2003 AZ_84, (50000), (55637),, (90482)”. International Astronomical Union Circular. 2020年4月12日閲覧。
  3. ^ a b Wm. Robert Johnston (2007年3月4日). “(90482) Orcus”. Johnston's Archive. 2020年4月12日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h Grundy, W. M.; Noll, K. S.; Roe, H. G.; Buie, M. W.; Porter, S. B.; Parker, A. H.; Nesvorný, D.; Benecchi, S. D. et al. (2019). “Mutual Orbit Orientations of Transneptunian Binaries” (PDF). Icarus. doi:10.1016/j.icarus.2019.03.035. ISSN 0019-1035. http://www2.lowell.edu/~grundy/abstracts/preprints/2019.TNB_orbits.pdf. 
  5. ^ a b c d Sickafoose, A. A.; Bosh, A. S.; Levine, S. E.; Zuluaga, C. A.; Genade, A.; Schindler, K.; Lister, T. A.; Person, M. J. (2019). “A stellar occultation by Vanth, a satellite of (90482) Orcus”. Icarus 319: 657–668. arXiv:1810.08977. doi:10.1016/j.icarus.2018.10.016. 
  6. ^ a b c d Brown, Michael E.; Butler, Bryan J. (2018). “Medium-sized satellites of large Kuiper belt objects”. The Astronomical Journal 156 (4): 164. arXiv:1801.07221. doi:10.3847/1538-3881/aad9f2. 
  7. ^ a b Ortiz, J. L.; Cikota, A.; Cikota, S.; Hestroffer, D.; Thirouin, A.; Morales, N.; Duffard, R.; Gil-Hutton, R. et al. (2010). “A mid-term astrometric and photometric study of trans-Neptunian object (90482) Orcus”. Astronomy and Astrophysics 525: A31. arXiv:1010.6187. Bibcode2011A&A...525A..31O. doi:10.1051/0004-6361/201015309. 
  8. ^ a b c d e Carry, B.; Hestroffer, D.; Demeo, F. E.; Thirouin, A.; Berthier, J.; Lacerda, P.; Sicardy, B.; Doressoundiram, A. et al. (2011). “Integral-field spectroscopy of (90482) Orcus-Vanth”. Astronomy and Astrophysics 534: A115. arXiv:1108.5963. Bibcode2011A&A...534A.115C. doi:10.1051/0004-6361/201117486. 
  9. ^ 全世界の観測成果 ver.2 (Excel)”. 薩摩川内市せんだい宇宙館 (2018年3月3日). 2019年3月11日閲覧。
  10. ^ a b c d Michael E. Brown (2009年3月23日). “S/1 90482 (2005) needs your help”. Mike Brown's Planets (blog). 2009年3月25日閲覧。
  11. ^ a b Michael E. Brown (2009年4月6日). “Orcus Porcus”. Mike Brown's Planets (blog). 2009年4月6日閲覧。
  12. ^ Committee on Small Body Nomenclature: Names of Minor Planets”. 2009年4月8日閲覧。
  13. ^ The MINOR PLANET CIRCULARS/MINOR PLANETS AND COMETS (PDF)”. Minorplanetcenter.org (2010年3月30日). 2020年4月12日閲覧。
  14. ^ Minor planet circular (PDF)”. minorplanetcenter.org (2010年). 2020年4月12日閲覧。
  15. ^ 太陽系外縁天体の衛星による恒星食で歴史的な観測成功”. せんだい宇宙館. 2021年6月18日閲覧。
  16. ^ Kiss, C.; Marton, G.; Parker, A.; Grundy, W.; Farkas-Takács, A. I.; Stansberry, J.; Pal, A.; Müller, T. G. et al. (2018-10-24). “The mass and density of the dwarf planet 2007 OR10”. 50th annual meeting of the AAS Division of Planetary Sciences. abstract 311.02. https://aas.org/meetings/dps50 

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