ヴァカボンドの群れの椅子にも散る桜
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春 |
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評 言 |
作者小泉迂外(1884~1950)は知る人ぞ知る、といった風情がある文人。江戸俳諧や連句、歳時記の他、芝居や落語の著書があり、おそらくは華屋與兵衛の子孫ということで、鮨に関する著書も出している。伊藤松宇と共に活動し、系譜としては「秋声会」系ということになる。他に、「春の夜や女の唇とダンヒルと」「肩をならぶるによき新緑の感触」「生きようとして焚く蚊遣りのけむさ」「枝豆の殻をふるへばきりぎりす」「水洟や神に縋れと道を説く」など。 すべてではないにしても、現在ではすっかり過去のものとして忘れ去られた感のある「秋声会」の古臭いイメージとはおよそかけ離れた句柄であろう。大正デモクラシーの風を今に伝える希有な俳人の一人といえるのではないか。「ヴァガボンド」(放浪者)は、今や吉川英治の『宮本武蔵』を漫画にした井上 雄彦『バガボンド』がよく知られているが、迂外の活躍期とほぼ同時代の作品、漱石『彼岸過迄』や野上弥生子「二人の小さきヴァガボンド」、また林芙美子の『放浪記』や宮本百合子「ロンドン一九二九年」等々に登場し、流行語の一つであったと思われる。流行語を追いかけすぎれば嫌味だから当時どう評価されたかは怪しいが、時代が隔たれ言葉が枯れてくれば逆に面白い一句となる。 Photo by (c)Tomo.Yun |
評 者 |
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備 考 |
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