メビウス変換
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/17 08:43 UTC 版)
幾何学における平面上のメビウス変換(メビウスへんかん、英: Möbius transformation)は、
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リーマン球面 メビウス変換は通例、ガウス平面にただひとつの無限遠点を付け加えて得られる拡張複素平面 = C ∪ {∞} 上で定義されるものとして扱われる。拡張複素平面はリーマン球面と呼ばれる球面とみることもできるし、複素射影直線 CP1 とみることもできる。どんなメビウス変換も、リーマン球面からそれ自身への全単射な共形変換になり、また逆にそのような変換は実際にメビウス変換とならねばならない。
メビウス変換全体の成す集合は写像の合成を積として、メビウス群と呼ばれる群を成す。メビウス群は(リーマン球面をリーマン面とみなしたときの)リーマン球面上の自己同型群であり、しばしば Aut() と記される。メビウス群は双曲的三次元空間上の向きを保つ等距変換全体の成す群に同型で、それゆえ双曲的三次元多様体の研究において重要な役割を演じる。
物理学においては、メビウス群がリーマン球面に作用するのと同じやり方で、ローレンツ群の単位成分が天球に作用する(実はこれらふたつの群は同型である)。相対論的速度にまで加速した観測者には、地球付近での見え方から無限小メビウス変換に従って連続的に変形された星座が見えているはずである。このような考察はしばしばツイスター理論の出発点として行われる。
メビウス群のいくつかの部分群は(ガウス平面や双曲平面などの)単連結リーマン面上の自己同型群を成す。そのような事情から、メビウス変換はリーマン面の理論においても重要な働きをする。どんなリーマン面の基本群もメビウス群の離散部分群となるのである(フックス群、クライン群など参照)。メビウス群の特に重要な離散部分群としてモジュラー群があり、それはフラクタルやモジュラー形式、楕円曲線あるいはペル方程式などといった多くの理論において中心的な役割を果たしている。
もっと一般に n > 2 なる次元を持つ空間においても、メビウス変換をn-次元超球面からそれ自身への向きを保つ全単射共形変換として定義することができる(そのような変換はその領域における共形変換のもっとも一般な形のものである)。共形写像に関するリウヴィルの定理に従えば、メビウス変換は平行移動、相似変換、直交変換、反転の合成として表すことができる。
定義
メビウス変換の一般形は、a, b, c, d を ad − bc ≠ 0 を満たす任意の複素数として
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これらの図は単独のメビウス変換の効果を図示したものである。一径数部分群は、これを図によって示唆される円弧の族に沿って各点を「連続的に」動かすことで生成される。
双曲型変換
α が 0(または 2π の整数倍)ならば、その変換は双曲型であるという。双曲型変換では、各点は不動点の一方から他方へ円軌道に沿って動く。
任意の双曲型メビウス変換で生成される一径数部分群をとれば、この部分群の各変換が同一の二点を不動にするような、連続変換が得られる。不動点以外の点は一方の不動点から出て他方の不動点へ向かう円弧の族に沿って流れる。一般に、二つの不動点はリーマン球面上の相異なる任意の二点にとりうる。
これにも重要な物理的解釈がある。観測者が天球上の北極へ向かって加速度一定で加速する場合を考えると、夜空の様子は 0, ∞ を共通の二つの不動点とする双曲型変換全体の成す一径数部分群によって記述される仕方と全く同じように変化する。ここで実数 ρ は観測者の加速度の大きさに対応する。夜空の星は黄経に沿って南極から北極へ向けて動くように見える(黄経は球面から平面への立体射影で写せば円弧として見える)。
以下は双曲型メビウス変換がリーマン球面上へ与える効果(を平面に立体射影したもの)を図示したものである。
この図は、円弧的流線が二つの不動点の間で一定の角を内在するから、不動点に負の電荷を置いたときの電気力線の様子と似ている。
斜航型変換
ρ も α も 0 でないときは、その変換は斜航型であるという。斜航型変換では、各点は一方の不動点から他方の不動点へSの字の軌道を描いて動く。
「斜航」(loxodrome=航程線)の原義はギリシア語: λοξος(斜めの)+ ギリシア語: δρόμος(行程)である。一定方角を保つ航行を行うとき、例えば北西に進路を保つとすると、航路は対数螺旋を描いて北極の周りを無限に巻いていくものになる。メルカトール図法ではこの航路は、北極と南極を無限遠に射影するとき、直線になる。この経線に対する内在的な斜航角(つまり傾き、あるいは螺旋の巻きの「緊さ」)は、特性定数 k の偏角である。もちろん、北極と南極だけではなくて、メビウス変換はその二つの不動点をどこにでも設定できるけれども、任意の斜航型変換による各点の動きはこの斜航線に沿って各点が動く変換と必ず共軛になる。
任意の斜航型メビウス変換で生成される一係数部分群をとれば、この部分群の各変換が同じ二点を固定するような、連続変換が得られる。固定されない点は全て、一方の不動点から出て他方の不動点へ入るようなある曲線族に従って移動する。これが双曲型の場合と異なるのは、その曲線が円弧ではなくて、リーマン球面から平面への立体射影で写すと、一方の不動点を反時計回りに、他方の不動点を時計回りにそれぞれ無限回廻る、ひねられた螺旋となるような曲線になっていることである。一般に、二つの不動点はリーマン球面の相異なる任意の二点がとれる。
この場合も、二つの不動点が 0 と ∞ であるならば物理的解釈が可能である。観測者がある軸に関して角速度一定で回転しつつ同軸上を一定の速度で移動するものとすれば、このときの夜空の様子は 0 と ∞ を不動点とする斜航型変換全体の成す一径数部分群に従って変化する。実数 ρ および α はそれぞれ軸上の移動速度と軸周りの角速度の大きさを定める。
立体射影
以下の図は、メビウス変換がリーマン球面の上への立体射影であることを示すものである。球面の上への射影をするとき、不動点が無限遠にある特別の場合には、任意の場所に不動点を持つ場合と何も違わないように見えることに特に注意。
一方の不動点が無限遠にある場合
楕円型
双曲型
斜航型 二つの不動点が対蹠の位置にある場合
楕円型
双曲型
斜航型 不動点が任意の場所にある場合
楕円型
双曲型
斜航型 変換の反復適用
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