ファブリ・ペロー干渉計
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光学において、ファブリ・ペロー干渉計(ファブリ・ペローかんしょうけい、英: Fabry–Pérot interferometer)もしくはファブリ・ペローのエタロン (英: etalon) は、2つの部分反射面をもつ透明板や2つの平行な半透鏡からなる機器である。その透過波長スペクトルは共振波長に大きな透過率のピークを示す。シャルル・ファブリとアルフレッド・ペローに因み命名された[1][2][3][4]。「エタロン」とは「測定器」や「標準」を意味するフランス語: étalonから来ている[5]。
エタロンは通信技術やレーザー技術、分光技術などにおいて光の波長を制御・測定するために広く応用されている。近年、技術の進歩により非常に精密に調整されたファブリ・ペロー干渉計の作成が可能となっている。正確には、反射面の間の距離を調整できる構造のものを干渉計、調節できない構造のものをエタロンと呼ぶ[要出典]が、混同されることが多い。
基本的説明

ファブリ・ペロー干渉計の心臓部は数マイクロメートルから数センチメートル離れて向いあう、部分的に光を反射する光学的平面ガラスのペアである(または、エタロンの場合は2つの平行な反射面を持つ1枚の板である)。干渉計に使われる平面ガラスは裏面が作る干渉縞を抑えるために楔形をしていることが多い。また、裏面に無反射コーティングを施すことも多い。
多くの干渉計では、散乱光源をコリメーターレンズの焦平面に置く。平面ガラスペアの後ろには、集束レンズを平面ガラスがなかったら光源の反転像が生じるように、つまり光源上のある点から発した全ての光がスクリーン上の一点に集まるように置く。右図には光源上のある点から発する光線を1つだけ赤線で示してある。光線は平面ガラスペアを通過する際に何度も反射されていくつもの光線に分かれ、これらの光線が集束レンズによりスクリーン上の点 A′ に集められる。完全な干渉パターンが生じた際には複数の同心円が現れる。同心円の太さは平面の反射率によって決まる。反射率が高ければQ値は高くなり、単色光の場合は細く明るい干渉環が暗い背景に現れる。Q値の高いファブリ・ペロー干渉計は、「フィネス」が高いと表現される。
応用

- 通信分野では光波長多重通信用のアド・ドロップマルチプレクサとして石英ガラスまたはダイヤモンド製のエタロンが使われている。これらは 2 mm 程度の玉虫色の立方体で、小さな高精度ラックに収められている。材質は温度が変化しても反射面間の距離を一定に維持し、周波数を一定に保つように選ばれる。このため、熱伝導率が高くかつ熱膨張率は小さいダイヤモンドが好まれる。2005年には、エタロンとして機能する光ファイバーを用いる通信機器会社も出てきている。これにより、設置時や冷却に関する手間が大きく削減される。
- ダイクロイックフィルタは光学的平面上に真空蒸着を用いてエタロン層を積層して作られる。このような光学フィルターは吸収フィルターよりも反射帯域および通過帯域が正確であることが多い。カットすべき光を吸収フィルターと違って反射するため、適切に設計すれば温度が上りにくい。ダイクロイックフィルタは光源やカメラ、天体望遠鏡、レーザー系などの光学装置に広く用いられている。
- 光波長計や一部の光スペクトルアナライザは、光の波長を高い精度で決定するために様々な波長域用のファブリ・ペロー干渉計を用いている。
- レーザー共振器はしばしばファブリ・ペロー共振器と呼ばれる。しかし多くの場合で片側の反射面の反射率はほぼ100%であり、ファブリ・ペロー干渉計よりはジル・トルノア干渉計に近い。半導体ダイオードレーザーには、チップの端面をコーティングすることが難しいために真のファブリ・ペロー構成が用いられることもある。量子カスケードレーザーでは活性領域のゲインが高いため、レーザー発振を維持するために端面をコーティングする必要がなく、ファブリ・ペロー共振器が用いられることが多い[6]。
- シングルモードレーザーを得るために、レーザー共振器の内部にエタロンを置くことも多い。エタロンが無い場合、一般的にはレーザーはファブリ・ペロー干渉計と似た複数のキャビティモードに対応する波長域にわたる光を発生させる。ここでレーザーキャビティに慎重に選んだフィネスとフリースペクトル領域のエタロンを挿入すると、一つを除いたキャビティモードを全て抑制することができ、マルチモードレーザーをシングルモードレーザーにすることができる。
- ファブリ・ペローのエタロンは、レーザー吸収分光法、特にキャビティリングダウン分光法 において、相互作用長を引き伸ばす用途に用いることもある。
- ファブリ・ペローのエタロンは通常の分光器では輝線が互いに近すぎて観測できないゼーマン効果をも観測できる分光器として用いられることがある。
- 天文学において、エタロンは単一の輝線を選んで撮像するために用いられる。最もよく用いられる対象は太陽のHα線である。太陽のCa-K線もエタロンを用いて撮像することが多い。
- 重力波検出器においては、光子を光速で片道ミリ秒かかるような長いファブリ・ペローキャビティに貯めることがある。これにより重力波が光と相互作用する時間を長くとることができ、低周波における感度が向上する。この原理を用いて、LIGOやVirgo干渉計などの検出器ではマイケルソン干渉計の両腕を数キロメートルにわたるファブリ・ペローキャビティにより構成している。「クリーナ」と呼ばれるより小さなキャビティもメインレーザーの空間フィルタリングおよび周波数安定化のために使われる。
理論
共振損失、出力結合光、共振周波数、スペクトル線形状
ファブリ・ペロー共振器のスペクトル応答は入射光と共振器内で反射を繰り返す光との干渉に基いている。これら二つの光の位相が一致した場合、強めあう干渉が起こり、共振器内の光は増強される。位相が一致していない場合、共振器内に蓄えられるのは入射光の一部のみである。この結果、透過光は入射光に比べてスペクトルが変化している。
幾何学的な距離 ℓ をおいて対向する二枚の鏡の間に、屈折率 n の均一な媒質が満たされているファブリ・ペロー共振器に光が直角に入射するものとする。共振器内の往復時間を tRT、真空中の光速を c0、媒質中の光速を c = c0/n とすると、自由スペクトル領域 ΔνFSR は以下のように求められる。
ファブリ・ペロー共振器内の電場振幅[7]。電場反射率はそれぞれ r1, r1 である。鏡 1 に電場 Einc が入射した際の特徴的電場を表示してある。Erefl,1 は鏡 1 で最初に反射される電場、Elaun は鏡 1 から内部に透過した電場、Ecirc および Eb-circ は共振器中を循環する電場のそれぞれ前進成分と後進成分、ERT は共振器内を一往復した後に再度共振器内に反射される電場、Etrans は鏡 2 を透過する電場、Eback は鏡 1 を透過する光、Erefl は後方に反射される総電場を表わす。干渉は鏡 1 の左では Erefl,1 と Eback との間で、右側では Elaun と ERT との間で起こり、その結果それぞれ Erefl および Etrans となる。 ファブリ・ペロー共振器の応答を導出するのに最も簡単な方法は循環場アプローチである[8]。このアプローチでは定常状態を仮定し、様々な電場の間の関係式をたてる(右図参照)。
共振器中を循環する電場 Ecirc と共振器内へ入射する電場 Ecirc との間には次のような関係式が成り立つ。
ファブリ・ペロー共振器による共鳴増強[7]。上図: スペクトル依存内部共鳴増強因子。一般エアリー分布Acirc に等しい。共振器内へと透過した光はこの因子だけ共鳴により増強される。R1 = R2 = 0.9 の場合の曲線では、ピーク値は Acirc(νq) = 100 であり、図の上限を突破している。下図: スペクトル依存外部共鳴増強因子。エアリー分布 A′circ に等しい。共振器に入射した光はこの因子だけ増強される。 内部共鳴増強因子、一般エアリー分布が導かれれば、その他のエアリー分布は単純にスケーリング因子により導かれる[7]。共振器への透過光強度は鏡 1 への入射光強度の透過分であるから、次のように書ける。
エアリー分布 R1 = R2 を満たす様々な反射率のファブリ・ペロー共振器の透過光に対応する A′trans(実線)と、同じ反射率 R1 = R2 で計算した単一ローレンツィアン線(破線)[7]。半値線(黒線)との交点を見ると、反射率が減るに従ってエアリー分布の半値全幅 νAiry はローレンツィアン線の半値全幅 νc に比べて拡大する様子が見てとれる。R1 = R2 = 0.9, 0.6, 0.32, 0.172 に対して、その比はそれぞれ νAiry/νc = 1.001, 1.022, 1.132, 1.717 となる。 通常、光はファブリ・ペロー共振器を透過する。したがって、よく適用されるエアリー分布は以下のものである[7]。
ファブリ・ペロー共振器におけるローレンツィアン線幅とフィネス、およびエアリー線幅とフィネスの関係[7]。左図: 相対ローレンツィアン線幅 Δνc / ΔνFSR(青線)および相対エアリー線幅 ΔνAiry / ΔνFSR(緑線)とその近似式(赤線)。右図: ローレンツィアンフィネス ℱc(青線)および、エアリーフィネス ℱAiry(緑線)とその近似式(赤線)。どちらも横軸は反射率 R1R2。エアリー線幅およびフィネスの厳密解(緑線)は ΔνAiry = ΔνFSR、すなわち ℱAiry = 1 において定義されなくなるが、近似解(赤線)は崩壊しない。インセットは領域 R1R2 < 0.1 の拡大図。 ファブリ・ペロー共振器のローレンツィアンフィネス ℱc の物理的な意味[7]。R1 = R2 ≈ 4.32% の場合、すなわち Δνc = ΔνFSR および ℱAiry = 1 が成り立ち、隣接するローレンツィアンピーク(破線、図の見易さのため5つのみ表示)同士が半値(黒線)において交わり、エアリー分布(紫実線)二つのピークの分解能に関するテイラーの基準が成り立つ際を表示してある。 ローレンツィアンピークがテイラーの基準に従えば分解能がある(右図参照)。したがって、ファブリ・ペロー共振器のローレンツィアンフィネスは次のように定義される[7]。
エアリーフィネス ℱAiry の物理的意味[7]。ファブリ・ペロー長(もしくは入射角)を掃引する際、個々の周波数の信号ごとにエアリー分布(各色付き線)が生じる。実験で観測されるのは個々のエアリー分布の総和(黒破線)である。m を整数とするとき、もし一連の周波数 νm = νq + mΔνAiry の信号が入射するとき、隣接する周波数のエアリー分布同士は線幅 ΔνAiry だけ離れていれば分解能についてのテイラーの基準が成り立つ。分解可能な信号の最大数が ℱAiry である。この図に示す例では ℱAiry = 6 という整数値になるよう反射率を R1 = R2 = 0.59928 としてあるため、m = ℱAiry に対応する周波数 νq + ℱAiryΔνAiry =νq + ΔνFSR の信号は νq の信号と一致する。この例では、最大数である6つの信号がテイラーの基準に鑑みて分解可能であることを示している。 周波数に依存する反射率(上図)を持つ鏡を用いたファブリ・ペロー共振器の例。下図にはモード指数 q = 2000, 2001, 2002 の歪んだモードプロファイル γ′q, trans と、六百万個のモードプロファイルを足し合わせたもの(ピンク色、数ヶ所の周波数に限り点で示す)、およびエアリー分布 A′ を示す[7]。縦破線は反射率(黒)および個々のモード(色付き)の最大値の場所を示す。 ファブリ・ペロー共振器を掃引干渉計として用いる場合、つまり共振器の長さ(もしくは入射角)を掃引しつつ用いるとき、ある自由スペクトル領域内のいくつかのピークを光学上見わけることができる。複数の周波数に対応するそれぞれのエアリー分布 A′trans(ν) を分解する必要がある。したがって、この場合はエアリー分布が構成関数となり、観測されるのはいくつものエアリー分布の総和となる。この状況を適切に定量するために用いられるべきパラメータはエアリー線幅 ΔνAiry とエアリーフィネス ℱAiry である。エアリー分布 A′trans(ν) の半値全幅 ΔνAiry は以下のように計算される[7]。
ファブリ・ペローのエタロン。エタロンに入射する光は多重内部反射を受け、反射および透過する。 エタロンの透過率の波長依存性は、2つの反射面の間で多重に反射された光同士の干渉により引き起こされる。これらの光の位相が合えば、透過光に強め合う干渉が起こりエタロンの高透過率ピークが生じる。透過光の位相が逆位相となれば、弱め合う干渉が起こり透過率の谷が生じる。多重反射光の位相が合うかどうかは光の(真空中での)波長 (λ) エタロンを通過する光の角度 (θ) エタロンの厚さ (ℓ) そして反射面の間の材質の屈折率 (n) によって決まる。
隣りあう透過光(たとえば図のT2 - T1)の間の位相差 δ は下式で与えられる[10]。
エタロンの透過係数の波長依存性。高フィネスエタロン(赤線)は低フィネスエタロン(青線)に比べて鋭いピークを示し、最低値も小さい。 透過率が最大 (Te = 1) となるのは、各透過光の光路長差 (2nlcosθ) が波長の整数倍となるときである。吸収は無いものとすると、エタロンの反射係数 Re と透過係数は相補的、つまり Te + Re = 1 となる。最大反射率は以下のように与えられる。
この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2011年10月)シリコン (n = 3.4) 製ファブリ・ペローエタロンに直角入射する光の過渡解析。上のアニメーションは透過光を最大とするようなエタロン厚に、下の透過光を最小とするようなエタロン厚に対応する。 空気中の高屈折率誘電体スラブの偽色過渡解析。厚さおよび周波数は赤(上)および青(下)では透過光が最大に、緑(中)では最小になるように選んである。 右図に2つの透過光線、T0 はそのままエタロンを透過する光線、T1 は2回反射したのち透過する光線を示す。 光の振幅は1回反射されるごとに √R 倍、また1回透過するごとに √R 倍に減る。吸収は無いものと仮定すると、エネルギー保存則から T + R = 1 が要請される。以下では、 n はエタロン内部の屈折率、 n0 はエタロン外部の屈折率とする。また、 n > n0 を満たすものとする。点 a における入射光の振幅を 1 とし、光の振幅をフェーザ表示を用いて表わすものとする。すると、点 b における透過光の振幅は以下のようになる。
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