ハッジの系統論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/28 07:48 UTC 版)
このように、ほぼ定説と見なされていたヘッケル系の考え方に、真っ向から反対の立場を取ったのがハッジである。 彼はヘッケル派の主張にいくつかの点で疑問を抱いていた。たとえば刺胞動物は花虫綱、鉢虫綱、ヒドロ虫綱からなり、前のものほど体が複雑である。ヘッケル派は当然、後者を原始的と見て、そこから前のものが進化してきたと見なす。ところがハッジが見るところ、ヒドロ虫は確かに簡単な構造なのだが、細部を見ると、必ずしもそうは言えず、例えば刺胞はヒドロ虫のほうが複雑で多様であるという。また、花虫類は、外見的には完全に放射相称ながら、内部構造は左右対称になっている。ヘッケル派はこのことをもって、この仲間が放射相称から左右対称へ進化しかけている、と考えるわけだが、内部構造から先に左右相称になるのも奇妙である。 そこで彼は、これを説明するために、むしろ左右対称の動物から放射相称の体制に進化したのが刺胞動物である、と考えた。固着性の生活をする動物が放射相称の体制になるのは、珍しいことではない。そこで、花虫類の方が原始的で、体内に左右相称性を残しており、そこから鉢虫類やヒドロ虫類が進化したと考えたわけである。 そうすると、刺胞動物より前に、左右相称の多細胞動物がいたことになる。彼によると、それは刺胞動物と同じく消化管に出入り口がひとつしかないもう一つのグループ、扁形動物だというのである。扁形動物の無腸類は、左右相称の動物でありながら、消化管がなく、えさは口から体内の多核体細胞に取り込まれる。 そこで、無腸類を多細胞動物の起源に据え、繊毛虫が多細胞化して生じたものと考えた。刺胞動物は枝道とした。また、線形動物や紐形動物の枝道、軟体動物の枝道などを横枝としながらも、節足動物の段階から固着性の放射相称的動物を経て脊椎動物へと、中心の枝は分枝のない系統樹を描いている。 彼の系統論は、ヘッケル派の弱点を突くものであり、さまざまな示唆に富むが、大筋ではヘッケルの考えの方に理があると見る向きが多かった。
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