ゼロ除算と極限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 02:39 UTC 版)
直観的に a/0 は a/b で 正数b を 0 に漸近させたときの極限を考えることで定義されるように見える。 a が正の数の場合、次のようになる。 lim b → 0 + a b = + ∞ {\displaystyle \lim _{b\to 0+}{\frac {a}{b}}=+\infty } a が負の数の場合、次のようになる。 lim b → 0 + a b = − ∞ {\displaystyle \lim _{b\to 0+}{\frac {a}{b}}=-\infty } したがって、a が正のとき a/0 を +∞、a が負のとき −∞ と定義できるように思われる。しかし、この定義には以下の2つの問題点があるため、こういう定義はできない。 第一に、正と負の無限大は実数ではない。実数の範囲内で考えたい場合、この定義には意味がない。この定義を使いたければ、何らかの形で実数を拡張する必要がある。 第二に、右側から極限に漸近するのは恣意的である。左側から漸近して極限を求めた場合、a が正の場合に a⁄0 が −∞ となり、a が負の場合に +∞ となる。これを等式で表すと次のようになる。 + ∞ = 1 0 = 1 − 0 = − 1 0 = − ∞ {\displaystyle +\infty ={\frac {1}{0}}={\frac {1}{-0}}=-{\frac {1}{0}}=-\infty } このように、+∞ と −∞ が等しいことになってしまい、これではあまり意味がない。これを意味のある拡張とするには、「符号のない無限大」という概念を導入するしかない。 実数に、正負の区別が有る、あるいは無い、無限大が含まれるように拡張したものが拡大実数である。アフィン拡大実数では区別が有り、射影拡大実数では区別が無い(無限遠点)。 物理学においてはブラックホールや宇宙の始まりを考察する際に質量/体積(密度)の体積が 0 となる特異点が発生するためゼロ除算による無限大発散の難問が生じている。この場合質量・体積は正であるため正の無限大への発散となる。 直接のゼロ除算以外では、三角関数の tan 90° などの計算においても、同様の問題が生じてしまう。 0/0 についても、極限 lim ( a , b ) → ( 0 , 0 ) a b {\displaystyle \lim _{(a,b)\to (0,0)}{\frac {a}{b}}} は存在しないため、うまく定義できない。さらに一般に、x が 0 に漸近すると共に f(x) も g(x) も 0 に漸近するとして、極限 lim x → 0 f ( x ) g ( x ) {\displaystyle \lim _{x\to 0}{\frac {f(x)}{g(x)}}} を考えても、これは任意の値に収束する可能性もあるし、収束しない可能性もある。したがって、この手法では 0⁄0 について意味のある定義は得られない。
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